電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第5番」を聴く

2010年05月17日 06時09分04秒 | -室内楽
記念すべき作品1-1である第1番から、ベートーヴェンのピアノ三重奏曲を順に聴いてきました(*1~4)が、こんどは第5番ニ長調Op.70-1です。作曲されたのは1808年といいますから、ちょうど交響曲第5番や第6番「田園」などが作曲された、まさにその頃。なるほど、第1番~第3番などと比べて若々しくフレッシュな魅力は後退しますが、中期のベートーヴェンらしい、ぐっと充実した音楽です。

第1楽章:アレグロ・ヴィヴァーチェ・エ・コン・ブリオ、4分の3拍子、ニ長調、ソナタ形式。出発まぎわの通勤電車にあわてて駆け込むような始まりでこの曲の基本主題が提示されます。これが様々に変形され、再提示、再現・変奏されていきます。「運命」交響曲に通じる、たいへん緊密に構成された音楽と感じます。

第2楽章:ラルゴ・アッサイ・エ・エスプレッシーヴォ、4分の2拍子、ニ短調。なにやら不思議な響きが、「幽霊」などというあまり有難くない愛称を頂戴した所以なのでしょう。でも、エスプレッシーヴォの指示に現れているとおり、ご婦人に優しいベートーヴェンの感情の所在はたいへんよく伝わってきます。

第3楽章:プレスト、2分の2拍子、ニ長調、ソナタ形式。基本となる主題をてっていてきに利用するやり方は、まさに第五交響曲の作者のしつこさそのものです(^o^)/
でも、ピアノ三重奏という編成のせいか、あれほど粘着的ではなく、もう少しカラリとしています。

青木やよひさんの『ベートーヴェンの生涯』によれば、アンデアウィーン劇場の劇場付き音楽家の立場を願い、請願書を出したら却下されたばかりか、彼の演奏会の開催も拒否されて、どうもこの頃のベートーヴェンの生活は、ひどく不如意だったらしい。引越し魔のベートーヴェンが転がり込んだのは、当時夫と別居状態にあった名門貴族エルディーディ伯爵夫人の邸宅でした。まあ、今でもとかく噂になりやすい状況ですが、どうもここでの生活はけっこう充実した楽しいものだったようで、「運命」「田園」などの交響曲もここで仕上げているそうな。

ラズモフスキー四重奏団がやってきて内輪で演奏会を開いたり、仕事が一段落したベートーヴェンが夫人とピアノを連弾したり、時には伯爵がやってきてヴァイオリンパートを受け持つような雰囲気の中で、このピアノ三重奏曲第5番と次の第6番は作られ、夫人に献呈されたようです。その意味では、勝気でお転婆な(と思われる)エルディーディ伯爵夫人に感謝しなければ!

演奏はヨゼフ・スーク(Vn)、ヨゼフ・フッフロ(Vc)、ヨゼフ・ハーラ(Pf)の3人の「ヨゼフ」からなるスーク・トリオで、1983年6月に、プラハの芸術家の家でPCM/デジタル録音されています。DENON のクレスト1000シリーズ中の1枚で、型番は COCO-70919 です。




(*1):ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第1番」を聴く~「電網郊外散歩道」
(*2):ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第2番」を聴く~「電網郊外散歩道」
(*3):ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第3番」を聴く~「電網郊外散歩道」
(*4):ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第4番《街の歌》」を聴く~「電網郊外散歩道」
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