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アメリカ黒人女性:ノーベル文学賞受賞者【トニ・モリソン創造と解放の文学】が面白かった!

2011-11-14 02:51:10 | 書評

本来の論稿を横でにらみながら一冊の本に読みふけった。トニ・モリスンがノーベル文学賞を受賞した直後にインタビューもしている大社淑子の論文集で1996年の発行である。今から15年前の本だ。気になっていて実際の小説を読む前に評論と研究書を読んだということになるが、結構惹きつけた。xxxさんがジェンダーに関してトニ・モリソンのことについて言及していて、小説を読まなければと思っていて、その研究書を手にしたのだが、得る所は大きい。実際の作品を読み解きたいと思う。アフリカン・アメリカンのアメリカでの300年間の奴隷の歴史が重たく迫ってくる。特に『BE LOVED』の小説は奴隷解放前後の実際の母親による子殺し事件を扱い、その後解放された18年後の物語だが、奴隷制度の鎖、重石が今でもアフリカン・アメリカンの現在に至るトラウマであり自らの尊厳とアイデンティティーを模索する厳しさが亡霊の姿でまた迫ってくる。

代表的な作品の物語が見えてくる中で脈打っているのは白人的価値への迎合に対するアフリカン・アメリカンとしての主体性の対峙である。ご主人さまだった白人の価値観に身を・魂をすりよせていかざるをえなかった。それでもそこにある大きな身体的・感情的・倫理的・政治的・経済的壁を如何に乗り越えていくか、彼らが奴隷の地獄から勝ち取ってきた果実、白人の歴史や感性や身体にはない個性と価値観や物語がそこからまた強烈にイメージを結ぶ。

「アフリカニストのペルソナや語りや慣用句がいかに意識的な方法でテキストを動かし豊かにしたかを観察し、その作家の想像力から生まれた作品にとってこの関わり合いが何を意味したか」考察しているトニ・モリソン。

「アメリカ文学の特質とされる自由、新しさ、自主独立、個人主義、孤立主義、男らしさ、倫理観、無垢などの要素は黒いアフリカニストの存在にたいする反応から生まれた。400年間、黒人は白人の引き立て役だった。奴隷の存在⇔自由の感謝、あらゆる対比構造の中から止揚されていくであろう感性や思想がありえるーー」『白さと想像力』Playing in the Dark:Whiteness and the Literary Imagination。 は、おそらく同化を強制されることのなかった大社さんには体感として持てなかったであろうことばに思える。1879年以来132年間アイデンティティーの葛藤の中に置かれている沖縄人にとっては、同化と異化は今でも大きな課題である。ゆえに、アフリカン・アメリカンのように全く奴隷としての歴史を生きてこなかったにしろ、沖縄が1609年以来、400年間歴史の現在として消すこのない植民地的な認識なり痛みのような感性は、トニ・モリソンのもつ志向性に、何らかの共感を覚えさせる。(モリソンの小説の中の売春婦の描き方も興味深い。単純な描写ではない。どちらかというと肯定的である。その辺はセクシュアリティーの捉え方として、見直したいと思う。)

理想的な白人中産階級に自らを模倣・同化していったアフリカン・アメリカンが存在し、それも同化の中でのサバイバルだと言えようが、一方で自らのアイデンティティーと歴史を厳しく捉え返してきた者たちがいた。黒人への制度的差別撤廃の公民権運動があり、それとフェミニズム運動もまた連動していた1960年から70年代のアメリカの歴史の推移は興味深い。されど、--。
歴史の痕跡とジェンダー、フェミニズム、アイデンティティー、解放的で縛られない自然な感性、常に既成の価値に迎合する感性の陥穽があり、そこから主体を生きる者たちとの葛藤もある。社会の檻・規範・規制・倫理・信仰・共同体の善悪・捉われる空間や場所に対するものの存在がある。どれだけ人は自らの感性に正直に生きていけるのだろうか?この共同体の個有の集合的無意識や美意識や夢、ことばを継承していくことの困難と努力が試されている。

久しぶりにPCの前で本を読んだので、せっかくだからとYouTubeでモーツアルトやバッハの美しい音色を聴きながら読んでいて、それがとても快適だった!バッハの「G線上のアリア」やモーツアルトのピアノ協奏曲やバイオリン協奏曲、ショパンの「幻想即興曲」などCDとはまた異なるが、直に多様な演奏家の音曲を聴きながら楽しめた。読書の快楽もいい。肝心の所はジェンダーと物語だが、アフリカン・アメリカンの体験や経験に沖縄の歴史や経験がどう重なるか、である。火の原理や水の原理なりイメージ、また悪への認識の白人との違いなど、個有な体感や伝承もまた、大きな特徴になる。それぞれの民族のもつ特異性が政治と絡むのはその通りだと思える。


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