
今日が締切の詩になかなか向き合えなくて、ようやく3日前から取り組んだ。山之口貘さんが、一遍の詩を仕上げるのに何枚も紙に書きなぐっていたことは、なるほどと実感できる。散文を削いでいく作業に時間がかかるのだ。詩語とはなんだろう?余分な説明を抜いて行くのは意外とたいへんだと分かる。一本の長い後ろ足が取れたクツワムシに衝撃を受けた。そしてこの間、激しく庭で鳴いていた虫の正体が彼だったことが分かったのは、最近のことだった。不思議に思った。
今日まで二クラスの成績を提出しなければならないが、体調不良もあって、また詩篇の期限もあって、全く取り組んでいない。また期限を守れない。
夜の音楽会
こんなことが、と思う不思議は嘘のように身近にある。
それは「日常を丁寧に描くとシュールになるんだよ」[1]、
頭にこびりついたそのつぶやきが、年を重ねるにつれて身にしみ
るように…。
ギューイッ、ギューイッ、ギューイッ、ギュルルルルルルー、夏
の終わりから冬にかけて激しく、うるさく庭から聞こえてくる鳴き
声の正体を突き止めたのは最近のことだ。家の中にまで入り込み、
けたたましく鳴いた後で、ゆらりとカーテンにしがみついているの
を素手でつかまえた。何と、夏に菜園の真ん中で茂る月桃の葉の上
で見つけたタイワンクツワムシだった。後ろ足が一本欠けていた。
20年前に中古住宅に引っ越して以来、あれこれ何年もギューイッ、
ギューイッ、ギューイッ、ギュルルルルルルーと鳴く生き物の正体
を知りたいと思いつつ時が過ぎた。素知らぬふりでも無視はできな
い甲高い鳴き声、昆虫なのか、カエルではないし鳥でもないのだか
ら、昆虫なんだと意識していたが~。
〈すごいね…
〈ありがとう…
〈クマゼミとも違う…
〈君の叫びは音楽なんだ…
低木の中から、黒木やブーゲンビリアの茂みから、雑草の中から、
夕暮れになると始まる恒例の喧しい野外音楽会は、繰り返された。
年が明けてなお、タイワンクツワムシは鳴き続けた。越冬すると
いう彼らがいつまで庭で鳴き続けるのか、耳を澄ましていた一月半
ば、夜の10時頃、外灯の下の縁側に立って様子をうかがっていると、
勢いよく鳴いていた一匹がいきなり足元に飛んできた。手の平に乗
せてみると一本の後ろ足はなく、羽は擦り切れ疲弊していた。ひとし
きり激しく羽をすり合わせ、存在を、愛を叫び続けたであろう彼は光
に誘われたのだ。
〈君の最期の夜だろうか…
最初に目撃した月桃の葉の上にそっと置いた。身動きしない。
〈月桃の香に包まれて夢を見ているにちがいない…
〈君の子どもたちが大きくなって、夜の音楽会を繰り広げるのを
楽しみにしているね…
一本の長い後ろ足を失う時、タイワンクツワムシは儚くなる。
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また修正する可能性も大です。
[1] 生前の身近な詩人がつぶやいていた。