
1953年から1969年までの湿地帯に住んでいた一人の少女の物語のミステリーである。ノースカロライナ州はどこだったか、ワシントンDCまでは行ったことがあるがその下の方の州になっている。物語に登場するアッシュビルの街は内陸部にあり、湖がある。アメリカで体験したのは湖が海のように大きいという事だったが、映像の中でビーチが登場する。沼地とビーチの登場でちょっと戸惑った。人造ビーチなのだろうかと思ったりしてネットで検索すると、日本の琵琶湖にもビーチがあることが分かったけれど、物語は実在のアッシュビルの名前は登場するが、湿地帯のある町は海外沿いということになっている。フィクションだということを忘れていた。
小説(映画)の舞台は大西洋に面していることになっている。マップで検索してみて、内陸部だと分かって、湖や沼地、湿地帯がどこか確認してみたがよく分からない、物語の位置がつかめないのも道理があった。物語の中でアッシュビルが登場するのでその界隈の湿地帯が物語の中心だと思い込んでいた。アッシュビルは人気のある市、人口は10万人に満たない。
以下は英語バージョンのウィキピディアである。
Where the Crawdads Sing is a 2018 coming-of-age murder mystery novel by American zoologist Delia Owens. The story follows two timelines that slowly intertwine. The first timeline describes the life and adventures of a young girl named Kya as she grows up isolated in the marshes of North Carolina. The second timeline follows an investigation into the apparent murder of Chase Andrews, a local celebrity of Barkley Cove, in a fictional coastal town of North Carolina.
By April 2023, the book had sold over 18 million copies. A film adaptation was released in July 2022.
上の説明で理解した。小説の中で、湿地帯のある小さな町、Barkley Coveは架空の町で架空の海岸沿いの町の設定になっている。
違和感について調べていたら、作者の動画やその他映画に関する動画もいろいろある事が分かった。作者のAmerican zoologist Delia Owensディーリア・オーウェンズ - Wikipediaが興味深い女性だ。動物行動学で博士号を取得し、アフリカなどでフィールド研究をして専門領域の書籍を何冊か出版し、その分野のジャーナルに寄稿している。
さて映画はミステリーになっていて、誰がチェイスを殺したのかは最後まで分からない筋書きになっている。容疑者として起訴され裁判で無罪になった湿地帯に住む少女カイアが、実はチェイスを殺害していた。思いがけない事実に驚嘆するが、一方で動物学者らしい修辞が残されている。弱者が強者をねじ伏せるために~、殺す行為は正当化されていたのである。読む人、観る人に善悪の判断はゆだねられている。「自然には善悪がない」とディーリアは言う。
家族に見捨てられ、学校にも行かず、文字もテイトという少年、後の生物学研究のパートナーに教えてもらい、自然の観察と自然から得た賜物で生活してきた一人の少女の孤独と愛。疎外感の中の唯一の美しい対象、湿地帯の生き物たちの生態とその記録、スケッチと記録が彼女を生かしていく。身近に接している植物や小動物から生きる知恵を得てきたカイア。プレイボーイでカイアを騙したチェイスの殺害も、そうした自然界の営みに照らして許容している心がある。女性たちに人気のベストセラーだったのかもしれないとふと思う。
湿地帯の生き物たちの映像がいい。自然の営みの中で育まれるカイアとテイトの愛もまた美しいロマンスに見える。チェイスが昆虫たちの生贄の雄に見えたりしたが~。生き抜くための自然界の知恵とカイアの知恵が重なる。
ミステリで、容疑者のカイアがチェイスを殺したのか。それは一本の大きな筋書きだが、実は彼女の生い立ちから本の出版に至る物語が圧巻だ。そしてその後、テイトと幸せな夫婦として湿地帯の生き物たちの研究に励み、死んでいったカイアだが、日記の中に殺人のほのめかしが残されていた。貝のペンダントも~。
逆転劇の面白さが惹きつける。物語の醍醐味。意外性と美しさ、残酷さ、人間界の優しさと辛辣さ、暴力、関係性の複雑さ、社会的規範の限界・境界・逸脱も描かれる。貫かれているカイアの湿地帯の自然から得た知恵が勝っていたことで物語は終わる。テイトの寛容さと愛に育まれていたカイアは幸せだったと言えるのだろう。