晴れ渡った 秋の休日
夏に戻ったかのような陽気の 余韻も
さすがに 夕暮れともなれば 鎮まり
上り電車の 車内は 空いていた
座席に座っている 私の前を
薄い 影のようなものが 横切った気がした
目を凝らすと
影は 私の脇にある 真っ直ぐ上に伸びた手すりの棒に
優美に弧を描きながら 幾度か ついては離れをしながら
どこかへ 消えてしまった
イトトンボ 電車の中に・・・!
透きとおるような イトトンボは
その存在自体が 影のようで 儚い
キョロキョロ 車内を見廻したが 姿はなく
まるで 黄昏時にみた 一瞬の 夢のようでもあった
電車が 次の駅に着いた
快速特急が 追い抜いて行くので
しばらく 停車するという アナウンスがある
開いたドアからは 心地良い風が 流れ込んでくる
何気なく見た 向かい側の つり革の輪に
イトトンボが 留まっていた
立ち上がり 両手で
そっと イトトンボを包み込んだ
軽い羽ばたきが 手のひらを くすぐる
私は 開いたままのドアに近づき
包んでいた手を 広げた
イトトンボは 手から すいと飛びたち
夕闇の中に 融けこんでいった
***** 写真は 2年前のものです *****