「 この人 あなたの何なの? 」 と
98歳のおばあちゃんFさんは 私の母のことを訊く
「 お母さんよ 」
10秒後に また
「 この人 あなたの何なの? 」
「 お母さんなの 」
「 そんな筈ないわ 」
Fさんは 絶対に納得できないらしい
テーブルの向かい側の 80歳近くの男性Aさんが にこにこしながら話しかける
「 いやあ 今日は すごくいい夢みたよ~ 」
T大卒で 子供の頃から勉強ばかりしていたというAさんは
現役だった頃のプライドが染みついているが 根はきわめて温和ないい人だ
話は テレビのチャンネルが変わるように 飛んでいく
眠ると 楽しい夢の続きが始まるそうだ (いいね)
そして C子さん
ジッと黙ったまま 無表情な90歳近くのおばあちゃん
初めは 話せない方なのかと思った
でも 行くと 私に向く視線を感じる
ある時 山形で生まれ育ったC子さんが ポツリポツリと民謡を唄い始めた
低い小さな声で・・・
華やかな 元唄とは雰囲気が違うけれど その節回しはミジミと心に迫り 真似の出来ないもの
何と C子さん 昨日は 私と一緒に 幾つもの歌を歌ってくれたのだ!
90代後半の困ったサン
子供のように自由奔放なD子さんの辞書には 「気遣い」という言葉はない
腫れ物に触るように接してしまう D子さんだが
「お手手つないで」を歌いながら 手を繋いだら 嬉しそうな顔をした
母は 私の隣で 黙って微笑んでいる
母のいる介護施設で過ごした 冬の午後
玄関を出ると 鮮やかに色づいた蔦が 目に飛び込んできた