ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

第三回 ぬえの会 終わりました~

2007-09-10 20:06:49 | 能楽

昨日、9月9日の重陽の節句の日、おかげさまを持ちまして「第三回 ぬえの会」を無事に開催させて頂くことができました。台風と今日の雨模様の天気の合間を縫ったような晴天に恵まれ、とってもありがたいことでした。ご来場頂きましたお客さまには厚く御礼申し上げます。

チビぬえ(9歳)と豆ぬえ(4歳)も無事に仕舞を勤めることができました。とくに チビぬえの方は前日に国立能楽堂普及公演で『三井寺』の子方を勤めさせて頂いたので連日の出演となりましたが、どちらのお役も失態なく勤めることができて安心致しました。またご来演の先生方のお仕舞、師匠の舞囃子『邯鄲』、友達の高澤祐介くんにおシテをお願いしての狂言『縄綯』と、盛りだくさんの会にできましたことは、出演者のみなさまのご協力があっての事と思います。とくに梅若会からご来演願った梅若晋矢さんのお仕舞『山姥キリ』は白頭の型で、これは ぬえにサービスしてくださったのでしょう。晋矢さん、カッコ良すぎでした。また京都からご来演の深野新次郎師のお仕舞『弱法師』は、とっても味のある良いお仕舞でした。深野さんからは終演後にこの日お使いになった杖を頂いてしまいました! このお仕舞の選曲は ぬえが考えたのですが、選んで正解の選曲だったと思います。

さて ぬえはこの度の「ぬえの会」で能『井筒』を勤めさせて頂きました。早速に ぬえのもとに感想がいくつか届けられましたが、おおむね好意的なご感想を頂き、これまたホッとしています。「もう少し「色」があっても」といったご指摘や、気持ちが分散してしまったところを目ざとく発見された方もあって、こういう勉強になるご指摘を頂くことは大変ありがたいことです。感想を寄せてくださいました方々にはそれぞれお返事を書くつもりではございますが、とりあえずこのブログの場では失礼とは存じながら、御礼まで申し上げます。



じつの事を言えば。。今回の「ぬえの会」は ぬえは最悪のコンディションで迎えてしまいまして。。前日は昼に国立能楽堂の普及公演に出演してから夕刻より横浜能楽堂で新作能の地謡を勤め、数日前には ぬえが大変お世話になった方が急逝されて、そのご葬儀にずっと携わったり。。公演を間近に控えて最後の稽古の予定が大幅に変更され、当日は疲労もたまっていたところでした。さらに能楽師の宿命として正座する足にできたマメが非常に悪化してしまって、このところの地謡では七転八倒状態で勤めている状態でした(足を組み替える頻度が高くて、お客さまには目障りだったと反省しております。。)。疲労でまともに運ビができないのは覚悟していましたし、長時間座る『井筒』のクセで足の痛みから失態が起きるのではないかと心配し。もちろん舞台人というものは舞台がすべてですし、そこに上がるのに言い訳はできませんから、「ああ。。どうやら今回の公演は ぬえの汚点になってしまうかも。。」と本当に苦しんで迎えた当日ではありました。

ところが。いざ装束を着けて橋掛りに出てみると。あれ? 足がスラスラと動く。。なんでだろう? 身体もグラつかないし、声も出るし。。クセで座るのもまったく苦痛を感じない。。理由はわからないままに手応えはしっかりと感じてしまって、なんだか途中で舞っているのが楽しくなってきました。これだから舞台はわからないものです。魔物も住んでいるし、神様もいらっしゃる。ぬえは本当にそれを実感しますね。

今回の『井筒』で残念だったのは、面を掛ける位置が少し低かったのか、珍しく声が面の内側に当たってしまって、ややくぐもってしまった(上演中ずっと、声というか息を出す方向をあちこち変えて試していました)ことと、前シテで木葉を床に置いたときに木葉がクルリと裏返ってしまったことでしょうか。それからなぜか今回は袖をうまくさばく事ができず、返した袖が落ちてしまったり、頭に返した袖が顔を隠してしまったり。。フワリとうまく袖を返せたのは二度ぐらいなものでした。。自分の装束なのに稽古が足りない。



でもまあ、そのほかの点はおおよそ自分の出せる力は出せたのではないかと思います。年齢的にも技術的にもまだまだ『井筒』を上演するには不足でしょうし、課題はたくさんあるのですが、いまの段階の ぬえとしては、珍しく終演後にガッカリと後悔するまでには到りませんでした。

自分の主宰会を開くのは本当に大変で、ぬえなどの立場ではチラシの手配、宣伝、チケット印刷、お申込の受付から発送まですべて一人でこなさなければならず、トラブルにも対処し(今回も招待券がオークションで転売される、というトラブルがありました。。こういう事が起こると悲しいですね。同時に能楽師のセキュリティ意識も甘いのかな、とも思いました)。当日も楽屋弁当を配り、出演料を一人ひとりにお渡しし。。ヘトヘトの状態で自分の出番を迎えることになるのです。そのうえ ぬえのような無名の能楽師の主宰する催しは経営としてはかなり厳しいので、今回の公演をもって「ぬえの会」を一時 休止しようかとも思っていたのですが。。今回の『井筒』のような「成果」?を得てしまうと。。またやってみようかなあ。。なんて思い直したりしています。

次回はまた何年後になるかわかりませんが、「ぬえの会」をいつかまた開催してみたいな、という希望だけは持つことが出来ました。

改めましてご来場頂きましたみなさまには心より御礼申し上げます。今後ともよろしくご指導ご鞭撻頂ければ幸甚に存じます。m(__)m