ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

続・岐阜に行きました

2007-09-20 10:34:37 | 能楽
ところで、この岐阜での発表会のお手伝いは東京から来た ぬえのほかに、もうおひと方、関西のT師が来演されました。まあ、能楽師4人だけが交代で地謡を勤める、というこぢんまりとした発表会だったわけです。

ぬえはT師とは初対面ですが、どうやらT師は深野師と同じお歳。ははあ、これは両師は書生時代からのお付き合いなんだな、と ぬえは直感しました。書生時代に苦労を分かち合った友達。ぬえにもそういう友達が多くありますが、こういう友人とは一生涯の友達になりますね。

書生時代には師家からのおつかい物を他家にお届けするときに、その家の書生である友人と短い時間話し合ったり、囃子のお稽古を受けるためにお囃子方の先生のお宅に行くとき、そこで同じく稽古に来る友人と顔を合わせて、一人が囃子を稽古するときに もう一方がアシライで謡ったり、あるいはアマチュアのお弟子さんの囃子の稽古のときに二人で一緒に謡ったり。それぞれ書生修行をしているわけですから、なかなか一緒に飲む、というような機会は多くはなかったですけれども、そういう機会には稽古や舞台についての情報交換をしたり、修行の悩みを打ち明けあったり、将来の夢を語り合ったり。いまとなっては遠い思い出。。(´。`)

先日、福岡でそうした友人の一人の結婚式に列席して参りましたが、そのときスピーチに立った同年代の能楽師の一人が新郎を表現するのに「戦友。。」という言葉を使っていましたね。おいおい、何歳なんだよ? と言われてしまいそうですが、修行中というのは本当につらい事もあるものなので、苦労を分かち合い、相談にも乗ってもらったりした友人を表現するのに、最もふさわしい言葉かも知れないなあ、と思いました。

で、その後 内弟子からの独立を経て、一人前の能楽師のような顔をし始めるようになって。自分たちで主催会を催すようになると、それらの友人たちを舞台に招待して、お互いの舞台を手伝い合ったりするようになります。深野師とT師は、もうそういったお付き合いを何十年も続けておられるのでしょうね。T師は楽屋で「ああ、ええ謡や。そちらの師家はみんな美声揃いや」なあんて深野師のことを誉めておられました。舞台人というものはあまり人前で相手のことを誉めたりはしないものですから、これを聞いた ぬえはなんだか微笑ましく思ってしまいました。お互いに気心の知れた長いお付き合いだから、おべんちゃらなどではなく こういう言葉も自然に出てくるのでしょう。いつまでも仲良しでいいなあ、と、ぬえは羨ましくも思ったのでした。

まあ、あとはT師のお人柄もあるでしょうね。初対面の大先輩なので ぬえも楽屋入りは少し緊張しましたが、お会いしてみるとT師はとっても気さくな方で、すぐに ぬえともうち解けてくださり、なんだか楽しくお手伝いをする事ができました。また深野師もT師も舞台の上での技術は ぬえなど遠く足もとにも及ばない大先輩ばかりなので、勉強にもなりました。お弟子さん方も熱演、とくにお母さんのお仕舞の稽古を見ていて自分も舞ってみたくなった、という小学生の女の子の飛び入り参加の仕舞まであって(これがまたよく出来ていました。あとで伺えば番組が出来上がってから出演が決まり、稽古はたった4回だけしかできなかったそうなのに!)。良い催しだったと思いますね~。

こういう催しが ぬえもできるように、友達とは良いお付き合いを続けて行きたい、と思った ぬえでした。