ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

忙しいんです~

2007-09-12 23:20:47 | 能楽
「ぬえの会」を終えてやっとひと息、と思ったら、もう翌々日には師家の稽古能があり、ちょっとお休みしていたお弟子さんのお稽古も怒濤のごとく再開され、さらに次の催しの申合と、もう一日も休みがない~~。今週末からは国立能楽堂での素人会、お呼ばれを頂いた会で岐阜に参り、さらに師家の月例会の申合・当日があって、その次には静岡県での催しが続きます。

考えて見れば、今年は6月に鎌倉・建長寺で『隅田川』を勤め、同じ月には月例会で『春日龍神』、さらに8月に狩野川薪能で『一角仙人』、そして9月の「ぬえの会」の『井筒』と、これほど連続してシテを舞った事は過去にありません。おかげさまで夏休みはぜ~~んぜんなくて、今年は海にもプールにも行けませんでした。たぶん夏休みは9月下旬には取れると思いますが。。

そういえば「ぬえの会」の翌々日の稽古能では ぬえ、『東岸居士』という難曲の地謡がついていたのです。『東岸居士』は能としては短い曲ですが、まあそのクセの文句が覚えにくく、さらに拍子当たりの難しいこと! 俗に「三難クセ」と呼ばれて『歌占』『白髭』『花筐』の三曲に至難のクセがあるとされていますが、いやいや ぬえは『東岸居士』も入れてあげたいねえ。これほどの伏兵は、ふだんは「遠い曲」の荒野に潜んでいて、突如月例会などで登場すると、ゲリラのように地謡に容赦なく襲いかかってくるのです。「四難クセ」として『東岸居士』もふだんから白日の下にさらしておいて、監視の眼を怠ってはなりませぬ。

で、ぬえは『東岸居士』が待ち受けている事は承知していたけれども、「ぬえの会」まではロクに稽古もできなかったし、「ぬえの会」の前日には新作能の公演まであったので、どうしても『東岸居士』を覚えることは後回しになってしまいました。「ぬえの会」の翌々日の稽古能。。まあ。。公演日ではないし、「ぬえの会」の直後だから多少うろ覚えでも「ま、彼は今日は仕方がないだろう」と、あまり叱られなかったかも知れないのですが、どっこい、そこは。やっぱり自分の催しをしておいて、その直後とはいえ、それが稽古能だとはいえ、これで うろ覚えで出演しつぃまったらオトコがすたるな! と思って、「ぬえの会」の翌日にはもう一日がかりで『東岸居士』を覚えました。

まあ。。いくら遠い曲であっても、至難なクセがあっても、『東岸居士』は地謡を二度勤めたことがあるし、それなりに思い出しながら。でも何といっても、書生時代に小鼓の稽古でこの『東岸居士』を習ったのが、とっても効いていました。身体で覚えている、というのでしょうか、難しいところほど よく覚えていたりしました。お陰で稽古能では、そうだなあ、98%の出来だったでしょうか。拍子当たりは一度も間違えなかったけれど、「てにをは」を少し間違えただけで済みました。あ~よかった。

よく我々の世界では「30歳までにすべて覚えてしまえ」と言うのです。それを過ぎると暗記するのがとっても難しくなる。だから書生時代にすべて覚えてしまえ、というワケです。たしかに書生時代にみっちり覚えた曲というのは忘れていませんね。何年ぶり、という頻度で上演するのでも、ちょっとおさらいすれば簡単に記憶の引き出しを開けられます。

でもまた、「全部覚えてしまえ」というのはムリでした。やっぱり地謡でもなんでも、お役を頂ければ覚えなければなりませんが、別に上演の予定はない曲だけれど、将来のために今のうちに覚えてく。。これは、ムリでしたね。いや、能楽師の中には本当にそうやって全曲覚えてしまった人もいるのかもしれませんけれども。。

末筆ながら、「ぬえの会」につきまして、終演後に激励のメール等頂きました方には順番にお返事を書いております。。いまだお返事の届かない方には大変失礼ではございますが、いましばらくお待お下さいませ。。