ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

扇の話(番外編)

2008-04-01 09:18:56 | 能楽
えと、前回で最後にする予定だった扇の話ですが、もう一つだけ、扇の要の修理について記しておこうと思います。おそらくこのブログを読んでくださっている方の中には謡や仕舞のお稽古をされておられる方もあろうと思いますので、少しは有用かも。

扇を使う。。とくに仕舞で扇を使う場合は、丁寧に扱っているつもりでも、どうしても扇は傷んできてしまいますですね。ぬえは、能の扇の扱いの作法は、できるだけ扇を傷めないように、という観点からも定められているようにも感じます。たとえば舞台で拝見している限りでは、お狂言方は扇を拡げるときに地紙のところを持って拡げておられるようですね。これはこれで独自の主張があるのだと思いますが、能の、というか少なくとも ぬえが属する観世流では扇を拡げる場合は地紙ではなく左手で骨の部分を持って、そして拡げることになっています。これに限らず、少なくとも ぬえがもつ印象では、観世流では扇の地紙の部分には極力さわらないように、型や作法が定められているように思います。扇の地紙の部分に触るのは、扇を左手に持つ場合と、閉じた状態の扇の真ん中を握る特殊な型の場合だけに限られているように思います。それでも扇はだんだんと傷んでくるのですが、これはある程度仕方がないのかもしれません。

で、地紙が傷む場合は、これはスレが原因である場合がほとんどで、ハネ扇などの型で扇を傷めて、地紙の折り目が切れてしまうのです。これは修理できません。ぬえもいろいろと修理法を試してはみたんですが。。地紙の表面と裏面とを剥いで、その間に別の紙を補強に入れてみたり、ラップフィルムをはさんでみたり。。でも、あまりうまくいきませんでした。やっぱり折り畳まれた一連の紙のあの折り目を、まったく同じテンションで復元させるのは ぬえは不可能だと思う。もしも出来る方がおられましたら、やり方を ぬえに教えてください~~ (・_・、)

もう一つ扇が傷む場合は、扇の要を綴じている「軸」が折れてしまったり、ゆるんでしまう事でしょう。

古い扇では要はクジラの髭を利用して綴じられていて、これは使い込んでもそれほど緩むことはないような気がします。それでもその軸のアタマが欠けてしまうことはありますね。現在の扇の要はプラスチック製が主流ですから、使い込んでいると要が緩んできて、拡げた状態を保てないという事にもなってくるし、最悪の場合は要が壊れてしまうこともあります。こうなると扇は崩壊してしまいます。。ぬえは『田村』のキリの仕舞で「ひと度放せば千の矢先」とハネ扇をした瞬間に要の軸が折れ飛んで、扇が一瞬に崩壊したことがあります。瞬時に「南京玉簾」状態。。まあ本公演ではなくて稽古だったから良かったですが、師匠の目前でやってしまい、地謡ともどもその場でフリーズしてしまいました。。(;^_^A それ以来、仕舞の出演がある時には、扇の要を欠かさずにチェックするようになりました。

まあ、そこまでひどくなくても、扇の要が緩んできてしまうのは仕方のないところで、じつは要は修理に出せるのです。扇屋さんに直接持ち込むか、あるいは扇を取り扱っている謡本屋さんを通じて扇屋さんに送れば、要は修理してもらえます。それもかなり安価だったと記憶していますが。。最近 ぬえはわざわざ扇屋さんに頼まずに扇の要は自分で修理するようになったので、ぬえの記憶はずいぶん以前の事になりますが、それでも、おそらく今でも要の修理はしてもらえるでしょう。

で、自分で修理する場合はどうするのか。ぬえはボールペンの芯を利用しています。