ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

劇団のお芝居を拝見してきました(続々々々)

2008-04-23 01:43:58 | 能楽
能楽ファンの方々にとっては当たり前かもしれない最低3時間~最長6時間近くにも及ぶ能の公演というのは、その目的や演者の思い、もっと突っ込んで言えば能楽界の中での演者の立場といった要因から起こっているとはいえ、はたしてこれは能楽をはじめて見るお客さま。。さらには劇団のお芝居をご覧になっている若いお客さまの目にどう映るのか。。これもまた、問い直されなければならない事かもしれません。

山猫軒さんがおっしゃっておられるように、たとえば休日の昼間の公演の場合、これこそ数時間の催しが多いと思われますが、「貴重な休日がほぼ半日つぶれる」。。う~ん、この発想は能楽師の側に欠如しているかもしれない。ぬえは一代目の能楽師で、子方を経験していない経験値の不足があるけれども、彼ら生まれついての能楽師に追いつくための努力は欠かさなかったつもりだし、彼らと違って「見所から舞台に上がった」という自負もある。でも。。山猫軒さんのご指摘は、いつのまにか ぬえからさえも失われていたかも知れません。

否、ぬえは学生時代に能楽の世界に飛び込んだので、普段お仕事をしている方にとっての「貴重な休日」という感覚がわかっていないのかも。実生活から乖離して何の舞台人、という思いは強く持っているつもりだけれども、就職活動さえしたことがない ぬえ。まだまだ甘いのかも知れません。。

平日の夕方の能の公演の開演時間が早すぎる、という山猫軒さんの もう一つのご指摘につきましては、もっとも~~~~~っと思うところがある ぬえですが、これはまた論点がズレてしまうかも、なので次の機会に考えてみたいと思います。

ともあれ、能が若い観客層を獲得するのに不利な条件を持っている。その問題点のいくつかはだんだんと見えてきたような気がします。入場料、宣伝、開演時間と上演所要時間。。何というか、若い能楽師が発想を変えて自らがもっと「動く」こと、また師家や同門の先輩、また共演する囃子方やワキ、狂言方に納得して頂いて協力して頂くこと。これがすべてクリアできれば、意外にこれらの問題点を克服してアピールすることはできるのではないかしら。。そう言えば。。ぬえに「同人会をやろうよ」と言ってくれた狂言方がいたな。。ちょっと彼と相談してみよう。

閑話休題。。では困るんだが、実際のところ、今回現代劇の劇団の公演を拝見して、ちょっとカルチャーショックを受けた ぬえなのでありました。いろんな意味でね。で、この劇団の公演の話に戻ってみますと、

公演終了後、ぬえは毎日のように、この公演の主役を勤められた方。。ぬえが2月に演劇人交流パーティではじめて知己を得た方と連絡を取り合って、公演の行い方などについて教えて頂いています。で、まず観客席の座席に置かれた30枚以上の他の劇団のチラシですが、これらのチラシがどうしてこの劇団の公演の際に配られるのかというと。。なんとそれぞれの劇団が、自分たちの公演のチラシができあがると、あちこちの劇団に連絡を取って、公演の際にチラシを配らせてもらうようお願いするのだそうです。何というか他の劇団というのは「商売がたき」なんじゃないかな。。と想ったぬえは発想が貧困で、「持ちつ持たれつ」。。でもなく、どうも当たり前のようにそれぞれの劇団はチラシの配布を受け入れるようですね。そして、公演前の会場に、他の劇団の役者やスタッフが集合して一斉に「挟み込み」を行うのだそうです。自分たちのチラシは自分たちで持ち込んで、セットする作業も行う。考えてみれば当たり前のことです。能楽師だって自分の催しのチラシは能楽堂には持ち込むけれど。。ちょっと努力のレベルが違うんでないかい?

それにね、今回の劇団の場合、30枚のチラシ。。つまり30劇団が、公演開始前の会場に一堂に会してチラシの挟み込みをしておられたわけで、各劇団からたった一人が派遣されてきてこの作業を行うわけでもないだろうから、そうなると場合により100名近い「演劇人」が会場で一斉に自分たちの公演の宣伝のために作業をしていた可能性があります。これは。。お互い演劇人同士ですから情報の交換の場でもあるし、そこで仲間ができて、新しい展開がそこから始まることだってあるでしょう。

こういうフレキシブルな活動を、能楽師はしているだろうか。。