ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

扇の話(番外編2)

2008-04-03 07:05:09 | 能楽
扇の要が傷んだとき、ぬえはボールペンの芯を利用して修理しています。ん~、ただ ちょっと不完全なやり方なので、これはもっぱら稽古用の扇の修理だけにしか使えないワザではありますが。

さてボールペンを使ってどうやって修理するのかと言うと。。じつはボールペンの芯というのは、偶然にも扇の要に軸を通すための穴と直径がピッタリ一致するのです。そこでもうインクがなくなった使い古しのボールペンから芯だけを抜き取って、それを要の軸の代用とします。

まず使い古したボールペンの芯を用意して、扇の要を通し貫いている軸を取り去り、代わりに芯のお尻の方(ペン先とは逆の方)を差し込みます。要の穴の反対側から芯を3~4mm出したところで、扇と芯をしっかりと握って、その突き出た芯の部分をライターの炎であぶる!

。。するとあら不思議、炎の熱で溶けたボールペンの芯は、くるくると丸まってゆくのです。ボールペンの芯の丸まった部分がふくらんで球状となり、もとの要の軸と同じくらい、十分に要の穴をふさぐくらいまでの大きさになったら、今度はその反対側、ボールペンのペン先の方から少しだけ、1~2mmだけ引っ張ると、先ほどの溶けて球状になった部分は引っ張られて、ドーム状にうまく要の穴をふさぐ頭になります。これで片側は完成しました。芯が冷めるまで待って、次の作業を開始します。

さて次に、扇の骨の部分、握る部分をタコ糸などでしっかりと巻きます。この作業の巧拙が出来上がりの成否を左右すると言っても過言ではないので、できるだけ要に近い部分を、できるだけ堅く縛り上げる、という感じでお願いしますね~。要するに扇の骨と骨とを密着させるので、この圧着したテンションがそのまま、修理が終わって復元された扇を拡げるときの「堅さ」というか「拡げやすさ」に反映されます。

ここでシッカリ圧着させておかないと、修理が終わった扇の要はやっぱりグズグズのままで、たとえば拡げた扇を左手で持つ場合もダラダラと閉じてしまう、というわけです。逆に縛り上げ過ぎると扇を拡げるのが困難になりそうにも思いますが、実際には人の力でそこまで締め上げることはできないので、「やりすぎかな?」と思うぐらい締め上げるつもりで縛る方が良いと思いますね。なお、縛った状態でなお扇の骨の密着にテンションを加え続けるのであれば輪ゴムで締め上げた方が良さそうなものですが、実際には要にほど近い部分を縛り上げ、あとで再び要をライターであぶるので、やはり輪ゴムよりは熱に強いタコ糸の方が良いと思います。

出来上がりましたら、扇の要に近いあたりを左手で持ち、親指でさきほどの芯の「頭」の部分をおさえ、反対側、つまりペン先の方を、やはり要の穴から3~4mm顔を出した状態で、余りの部分(ペン先)をカッターなどで切り落とします。そして、穴から3~4mm顔を出した芯を再びライターであぶって、これで要の穴を両側から押さえつけて綴じる軸を完成させるわけです。

この時左手の親指で、先に完成した「頭」を ただ押さえるのではなく、少し指先が痛くなるほどにグッと押し込む気持ちで押さえつけないと、やっぱり出来上がりの要はグズグズになります。。タコ糸で扇の骨同士を密着させ、左手の親指で要にテンションを掛ける。こうする事で、しっかりと締まった要が再現できるんです。あ、それから左手の やけどにも注意してくださいね! この作業の時、左手は要のすぐ近くを持っていて、しかも親指に力を入れる事に意識が集中しているから、ライターの炎で人差し指をやけどする危険性があります!