「見ろ、あの人は見事な爺さんだ」といかにもいかにも爺さんらしい爺さんが言っている。温泉の中でのことである。湯船はその見事な爺さんであふれかえっている。歩き出すと腰がくの字に曲がっている。ここまで生きて来たのだから文句は言えないよ、と一人が言っている。昭和の初め生まれだと言う。するとそろそろ90才だ。わしはその2年後に生まれた、3年後だという声も掛かっている。長風呂をしている。露天風呂横のベンチに寝そべってもいる。腹がシワシワでそして垂れ下がっている。前の腹がそうなら後ろの背中も尻もそうで、垂れ落ちている。互いに、それを笑っているようでいて、その実笑えないというところがずばり滑稽だった。いや、温泉を楽しんでいる爺さん連中はとにかく暇を持て余して、そして元気なのだ。
温泉の脱衣所には、「紙オムツはここにいれてください」と書いた籠が置かれていた。
温泉の脱衣所には、「紙オムツはここにいれてください」と書いた籠が置かれていた。