<おでいげ>においでおいで

たのしくおしゃべり。そう、おしゃべりは楽しいよ。

好かぬようになったらどうするのだ

2014年06月12日 10時52分47秒 | Weblog
男が女を好きになる。女が男を好きになる。人間が人間を好きになる。
これはすべてご命令だからだ。そうせよというご命令に従っているのだ。

好かぬようになるのではなく、好きになる。これでいいのだ。
好きになればあとはしめたものだ。



相手が美しくなる。爪先から頭のてっぺんまで美しくなる。後光が射してくる。
相手にやさしくしたくなる。とことん尽くしたくなる。



では、好かぬようになったらどうすればいいのだ。



万事休すだ。



人間が美しく見えてこない。やさしさをも求めない。
こっちもこっちならそっちもそっちだ。世界が背中合わせになる。
こうなればしばらくはふてぶてしくして寝て暮らす。



ふてぶてしい顔の三郎は、今日は白い白い夏雲の下をとぼとぼ歩く。
好かぬようになるこたあなかったのだ。ご命令に背くこたあなかったのだ。



ろくなことはない。さぶしくて深閑としている。靴先で小石を蹴って音を立ててみた。
木の根株に当たってようやく小石が音を立てた。

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魔にもあるさびしさ

2014年06月12日 10時28分44秒 | Weblog
ほんとうのことは話せない。ほんとうを話したら、恐ろしい魔になる。だから、魔に衣を着せて装わせて、いかにも魔ではない素振りの舞いを舞わせる。



魔は役者だから、どんな役どころも演じてみせる。これをうまうま演じているかぎり、人はこれが魔だとは思えない。魔はしかし、魔だ。ときおりちらりちらり下心が垣間見えたりもする。ひやりとする。



魔が今日は寝ている。疲れが出て寝ている。舞を舞わない。不機嫌にしている。そそのかしても立ち上がらない。どうしたんだと訊く。おれはさびしいんだぞ、と言う。



魔にもあるさびしさ。へ。そんなことがあるのか。人を食えばさびしさは吹っ飛ぶと言っておどけてみせる。戯(おど)けている風だが、やつは道化者だ。寂しさを道化ているだけかもしれない。
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顔をして歩く

2014年06月12日 10時08分28秒 | Weblog
ちっともさみしくなんかない、そういう顔をして歩く。自分の顔を見ているものなどいるはずもないのに、顔をして歩く。



三郎を見ているものがいるぞ。雲だ。雲が山からこっちへ流れている。そうしてちらりちらり覗き込んでいる。



山鳩が林に来て鳴いている。幾羽もいるようだ。ぶほうぶほう。にぎわっている。これも飛んできて見下ろして過ぎる。



顔をして歩く。顔は取り外しが自由にできない。はずしたり、とりつけたりができない。



その分を変化で埋め合わしている。寂しい顔をする。悲しい顔をする。嬉しい顔をする。辛い顔をする。ともかく顔をして歩く。



顔をするのは顔を見せるためには欠かせない。顔を読み取るものがいるからだ。死んだおっかあだったり、おっとうだったり。火のように熱いあの人だったりする。



三郎の顔を、今日は雲が見ている。歩くたんびに前へ後ろへ横へ来て、うかがっている。今日の三郎は、ちっともさみしくなんかないという顔をして歩く。上唇の両方の端っこをこころもち上に吊るようにすると顔は笑い出す。
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蔓の髭のふうらりふらり

2014年06月12日 09時24分42秒 | Weblog
さみしさを宙に泳がす葛(かずら)かな



蔓草の蔓がひょろりひょろりして宙を泳いでいる。山中の葛植物や蔓植物。葛(くず)。ヘクソカズラ。サネカズラ。サルトリイバラ。ノイバラ。



蔓の先は細くて長い。髭のようだ。この髭がどこかに掴まれるように3方向に手を伸ばしている。つかまるまでの間はこころもとない。



人と人とのこころにもこのひょろりとした蔓があって、蔓の先にはかぼそい髭があって、たがいをまさぐっている。さいわい人に掴まれたらそれで安堵する。神につかまろうともする。安堵や安心がほしい。



インゲン豆の蔓も、瓢箪の蔓も、糸瓜の蔓も、蔓を伸ばし伸ばししながら高いところへ高いところへよじ登って行く。やがて束の間の充足が来る。何か丈夫なものにつかまる。しかし、つかまって安堵している時間は少ない。



すぐに次の場所へよじ登ろうとして新たな蔓を出す。蔓の髭が宙をそよぐ。ひょろりひょろりして不安定だ。不安定はさみしい。不安定と安定が交互にやってくる。



安定のままではいられないらしい。すぐに次を確保しようとして藻掻き出す。これも欲望のなせるわざなのか。



すぐに飽きが来るような安定なのか。そもそもそういう安定なのか。束の間の安定。束の間の不安定を経て安定するが、およそ進歩発展を目指すものには長期の安定などあってはならないのかもしれない。



安心と言う料理人が作る料理もおいしいが、しかし、実は不安という料理人が作る料理もけっこういけるのかもしれない。甘さという点では肩を並べうるかもしれない。



文学は、安定安心安堵のそればかりではない。むしろ不安をかき立てるような種類が甘くて辛くて苦くて酸っぱい。そういうことだってあるのかもしれない。



それにしても、さみしい。風が出てきた。蔓の新たな髭の3本がふうらりふらりしている。上空は曇っている。連日の猛暑がここへ来てひんやりする。
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