第230回 2019年8月13日 「かけるだけじゃない!技を生かしたものづくり 福井メガネ産業リサーチャー: 安田美沙子
番組内容
「つる」の部分が山なりにカーブを描いていて、かけたときに圧迫感が少ない斬新なデザインのメガネが話題だ。これはメガネ製造の産地、福井で作られたイッピンで、美しいカーブは熟練の職人が手作業で施したもの。そして今、メガネ作りの技術を生かし、新たな製品も続々誕生。メガネフレームの素材で作ったスプーンや、メガネの「つる」の構造を応用したユニークな製品も!?福井のメガネ作りの技を安田美沙子がリサーチする。
*https://www.nhk.or.jp/archives/chronicle/detail/?crnid=A201908131930001301000 より
福井県は、国内生産フレームの9割以上のシェアを持つ「めがねの産地」です。
「めがねミュージアム」には、福井県内約50社のMade In Japanの最新モデル3,000本以上を展示販売しているアンテナショップの「めがねShop」、眼鏡づくりを体験出来る「体験工房」、眼鏡の歴史をより深く知ることが出来る「めがね博物館」 、その他、鯖江市内の名菓に、最近人気を集める眼鏡の加工技術を応用した製品が販売されています。
めがねミュージアム 福井県鯖江市新横江2-3-4
1.「FLEA」
「FLEA」は「フリー」と読み、「蚤」(のみ)という意味です。
「フリーマーケット(flea market)」のことを「蚤の市」と言いますが、その「フリー」です。
「フリーマーケット(flea market・蚤の市)」の語源
・蚤がわくほど古いものが売られているため
・元々古い絨毯を売る市で、蚤がたくさんいたため
・古い品物が人から人へと、蚤のように渡っていくため
・品物に多くの人々が蚤のように集まるため
「女性を可愛く演出するメガネ」を基本コンセプトに、平成10(1998)年、「FLEA」(フリー)は誕生しました。
「日本人の女性の肌に馴染む色」
「十人十色」コンセプトにカラーバリエーションも豊富です。
ですが「FLEA」(フリー)の特徴は何と言っても「顔に着けた時の軽い掛け心地」です。
一般的には、眼鏡の「ツル(テンプル)」は真っ直ぐですが、「FLEA」(フリー)の眼鏡は、蚤(FLEA)がピョンと跳ねるような、上方に大きくアーチを描いた”テンプルライン”になっています。
デザイン(オプティックマスナガ・増永幸祥さん)
蚤がジャンプする姿をイメージして作られた「FLEA」のメガネをデザインしたのは、オプティックマスナガの増永幸祥(ますなが ゆきよし)さんです。
増永さんは、メガネの「ツル(テンプル)」の部分にこだわり、「ツル(テンプル)」が湾曲したデザインとフィット感を追求してきました。
「ツル(テンプル)」はメガネの掛け心地を左右する重要なパーツです。
「ツル(テンプル)」は両耳に掛けることで、メガネの重量を支えているためです。
テンプルと耳のカーブがフィットしていないと耳の上部に引っかかり、大きな負荷が掛かってしまいます。
アーチ状にカーブした部分で頭を包み込むように支えてくれるため、「FLEA」のメガネは抜群のフィット感が得られるのです。
圧迫感なく、ズレにくいのも特徴です。
テンプルとフレームの繋ぎ目に「一ケ智」という部品を使用しています。
丁番が 一体になっている「一ケ智」を使用することで、テンプルの開きを抑え、メガネがズレるのを防ぐことが出来ます。
オプティックマスナガ 福井県鯖江市つつじヶ丘町1-3
製造(平等眼鏡製作所・平等浅教さん)
「FLEA」の独特な、頭をふんわりと優しく包み込むような湾曲した形状、実はこれ、1本1本職人さんの手曲げによって作り出されています。
「FLEA」は、誕生した時から現在まで一貫して「MADE IN 鯖江」にこだわり、全て同じ工場の同じ職人さんに生産を任せています。
「FLEA」のメガネフレームの「ツル(テンプル)」を作るのは、平等眼鏡製作所(たいらがんきょうせいさくじょ)の職人歴40年の平等浅教さん、ただお一人です。
増永幸祥さんのデザインを高い技術で具現化しました。
昔からの手法で一本一本手作業で作って、同じ形にしています。
平等眼鏡製作所 福井県鯖江市上河内町32-1
2.クリップ式チタンスプーン「Picklip(ピックリップ)
鯖江の精密なメガネは、各部品が分業して生産されていて、1つのメガネを作るために10以上の会社が関わっています。
近年、メガネの各部品の製造技術を生かした新製品が生まれています。
「Picklip(ピックリップ)」は「Pick(摘む)」+「Clip(挟む)」の造語です。
指で持つ(摘み挟む)とクリップの開口部が同時に広がるため、容器の縁にクリップを負荷を掛けずに行え、脱着も容易にスムーズに行うことが出来るスプーンです。
開発(吉岡ロゴテック・吉岡敦之さん)
「吉岡ロゴテック」は、ツル(テンプル)の部分にレーザーで文字を彫り込む作業を専門に行なっているメーカーです。
吉岡敦之さんは、メガネのフレームに使われている金属チタンの弾力性を別の製品にも行かせないかと考え、クリップ式チタンスプーン「Picklip(ピックリップ)」を開発しました。
このスプーン、上部がクリップ式になっているので、使った後のスプーンをグラスの縁に挟んだまま飲むことが出来、また繰り返し混ぜることが出来るため、ウィスキーや焼酎などをステアする時に重宝します。
しかも、クリップの部分に好きなチャームをつけられるので、パーティーの時は自分のコップが分かりやすいです。
材質には「高級弾性チタン合金」を使用していますので、軽量で弾性があり、錆びませんし、アレルギーレスで体にも優しく、衛生的でもあります。
経済産業省主管のクールジャパン2015「The wonder 500」にも選ばれています。
「マドラー」や「ココアスプーン」、転がっても絵が上向きで止まる縁起のよい箸「起き上がり個箸」などもあります。
吉岡ロゴテック 福井県福井市花堂南2-13-16
ベータチタン(服部製作所・服部祥也さん)
吉岡さんが製造を依頼しているのは、チタンのメガネフレームを作っている会社「服部製作所」さんです。
「チタン」は軽くて錆びなくてアレルギーも少ないので、メガネの材料として多くのメリットがあるのですが、硬いので加工の難しさがネックになっています。
今まで通りのやり方で作ると、金型の方が壊れてしまうそうです。
服部製作所さんでは長年の金型作りの技術の生かして、チタン加工のレベルを高めています。
社長・服部祥也さんに紹介していただきました。
材料はメガネフレームに使われている「ベータチタン」という金属です。
まず、スプーン全体の形にくり抜いた「ベータチタン」に穴を開けます。
この穴を開けたところが最終的にクリップの部分になります。
クリップ部分に弾力性を持たせるために、チタンをしなやかな弾力が生まれる最適な厚み0.6㎜にまでプレスして薄く加工していきます。
周囲の気温によって伸びたり縮んだりする金属なので、同じ作業でもその日の気温や湿度によって変わってくるため、正確に0.6㎜にプレス出来るよう、毎日機械をセッティングし直していきます。
プレスが終わったら、手作業でUの字に曲げクリップの形にしていきます。
最後にコーティングをしたら完成。
服部製作所 福井県福井市下河北町7-111
3.「鯖江 耳かき」(Kisso)
Kissoは、福井県鯖江市にあるメガネの材料商社です。
Kissoでは10年前より、メガネフレームに使われる樹脂からカラフルなアクセサリーの開発を始めました。
中でも人気なのは、「鯖江 耳かき」です。
金属の小さな匙がつややかな樹脂で覆われているとてもスタイリッシュな耳かきです。
メガネには、樹脂製の「ツル(テンプル)」の強度を高めるために、金属を入れる技術が使われていますが、この「鯖江 耳かき」にもこの技術が生かされていて、柄の部分にチタンの芯を挿入し、強度が確保されています。
また、高級メガネフレームの素材「セルロースアセテート」を使い、”かけ心地”から”かき心地”へと
素材のフォルムを変えた耳かきです。
「セルロースアセテート」は、コットンを主原料とした天然素材由来のバイオマスな材料で、アレルギーが少なく、肌に優しく馴染む素材です。
その濡れたような艶は、磨けば磨く程に輝くのが特徴です。
平成25(2013)年には「GOOD DESIGN AWARD 2013」GOOD DESIGN賞、平成28(2016)年には「OMOTENASHI Selection(おもてなしセレクション)」などを受賞しています。
このカラフルで透明感のあるグルーミングブランド「Sabaeシリーズ」には刃物の町として名高い岐阜県関市の爪切りに、「セルロースアセテート」を組み合わせた「鯖江 爪切り」の他、「鯖江 靴べら」、
「アニマルピンズ ANIMALE」、おしゃれな「ペンダントルーペ」、アクセサリー「KISSO」などがあります。
これらの製品を作っているのは樹脂製のメガネフレームの製造会社です。
担当の橋本俊之さんは、まず機械で樹脂を耳かきの形にカット。
この後、樹脂を熱し、指でつまみ上げた時のしなり具合を見て、一気に穴を開け、樹脂に金属を挿入していきます。
穴あけはワンチャンスで、熱した後、手早く行われます。
この時、手袋をすると樹脂の状態が分からないといい、橋本俊之氏は素手で作業を進めていました。
Kisso 福井県鯖江市丸山町4-305-
*https://omotedana.hatenablog.com/entry/Ippin/Fukui/glasses より