第227回 2019年7月9日 「技の巧みな掛け合わせ~長崎 波佐見焼~」リサーチャー: 南沢奈央
番組内容
皿やカップ、そしてポットもピッタリ重ねる事ができ、見た目もモダンと人気の器がある。これは正確に重なるようにするため、皿作りが得意な工場、ポット作りが得意な職人と、それぞれ別の所に発注して作ったもの。高い技術力を持つ焼き物の里、長崎の波佐見町で生まれた「波佐見焼」だ。ほかにも手作業で彫りを施して温かな風合いを出した器。子どもや、お年寄りも使いやすいと評判のカップなど。女優の南沢奈央がリサーチする。
*https://www.nhk.or.jp/archives/chronicle/detail/?crnid=A201907091930001301000 より
1.HASAMI PORCELAIN(西海陶器)
「HASAMI PORCELAIN」(ハサミポーセリン)は、長崎・波佐見焼の老舗商社・西海陶器と、L.Aを拠点するデザイナー・篠本拓宏さん(tortoise)が共同で開発したグローバルなテーブルウェアです。
アメリカで先行販売され人気となり、平成23(2011)年には日本でも発売されて以降人気を博して、今ではスタンダードなテーブルウェアとして定着しています。
まさかのアメリカから逆輸入な波佐見焼です。
2015年のグッドデザイン賞を受賞しています。
「HASAMI PORCELAIN」(ハサミポーセリン)は、磁器に10%程の陶器を混ぜた土で生み出された「半磁器」なので、通常の磁器よりも優しい感触でありながら、陶器に比べてもシャープさがあります。
マットでしなやかなである一方、土の手触りにも似たざらりとした感覚も感じられます。
電子レンジや食洗機もOKなので、日常の器として使うことが出来ます。
また日本のお重のように、器同士をピッタリ重ねて収納出来るためスペースを取りません。
皿とポットの本体、ポットの蓋はそれぞれ違うところで作られています。
ディレクターの陶磁器デザイナー・阿部薫太郎さんが精密な設計図を作ってそれを持ってそれぞれの職人と連絡を取り合いながら実現させました。
「皿」は「ローラーマシン」で成形しますが、生産を軌道に乗せるまでが大変でした。
「HASAMI PORCELAIN」(ハサミポーセリン)は、磁器に10%程の陶器を混ぜた土で生み出された「半磁器」なので、磁器と同じように扱うと歪みが出てしまうからです。
磁器の原料は比較的水分が少なく、型に入れると石膏が水分を吸収してくれるため形が崩れることはありません。
しかし「半磁器」の原料は磁器よりも水分が多いため、同じ石膏を使うと早く乾燥してしまうため、変形してしまうのです。
そこで、乾燥するスピードを遅らせるために、従来のものよりも水を吸いにくい石膏を探り当てることで、
この難題を解決。
「半磁器」という特殊な焼き物を㎜単位の正確さで作ることに成功しました。
「ポット」の本体は「鋳込み」という製法によって成形します。
急須や花瓶など、中が空洞になった袋状の器の量産に適した方法です。
「半磁器」の原料を水で溶かした「泥しょう」を、乾燥した石膏型に流し込んで作る成形法です。
石膏型が泥しょうの水分を吸収して張り付くので、目指す厚みになったら型の中の泥しょうを排出して乾燥させ、型から外します。
縁の厚みは厳密に決められており、その誤差は0.5㎜以下。
待つこと40分。
普段の磁器を「鋳込み」を作る時よりも3倍もの時間を掛けて作ります。
「蓋」は「機械ろくろ」によって成形します。
器の外形をした石膏型に陶土を入れて回転させ、金属板のコテを当てながら水を使って生地を滑らせ形を作る
「水ゴテ」とも呼ばれる成形法です。
主に飯碗や湯呑、カップなど回転体の成形に適しており、職人による高度な技術が必要です。
作るのは、「機械ろくろ」の道で40年以上に渡り生地屋一筋のキャリアを歩んでこられた溝口明さんです。
溝口さんは石膏の型に半磁器の土を載せると、コテを当てて土が伸ばし、型を埋めていきます。
簡単にこなしていますが、まさに修練のたまものです。
蓋は薄く表面積は広いため乾くのが早いので、早くやることが肝心なのだそうです。
次に焼きの工程。
ポットの本体と蓋は一つの釜で焼き上げます。
西海陶器 長崎県東彼杵郡波佐見町1 折敷瀬郷2124
3.手彫りの技「飛びがんな」の器(利左エ門窯)
波佐見焼の始まりは400年前に遡ります。
隣の佐賀県の、磁器の「有田焼」と陶器の「唐津焼」もその頃に生まれました。
「波佐見」はその2大ブランドの影響を受けて、陶器も磁器も作る町として成長し、かつ有田や唐津よりも値段の手頃な日常の用途に使われる食器の生産地として発展してきました。
「利左ェ門窯」(りざえもん)さんは、陶器(土もの)を手掛けている町内では珍しい窯元です。
また、分業制ではなく自社で生地づくりから焼成までの全ての工程を一貫生産を行う、「職人集団」の窯元でもあります。
昭和43(1968)年に初代の名から「利左エ門窯」と命名して開窯、現在は13代目の武村裕宣(たけむら ひろのり)さんが経営を、弟・博昭さんが商品開発を担い、職人さんとともに、いにしえの伝統を受け継ぎながらも、現代の多彩な食生活に合うモダンで温かみのある手頃な値段の器を作陶しています。
「利左エ門窯」の一番人気は、削り専用の特殊な道具を使って、焼く前の素地の表面に彫りの深さと広さを一様に揃えて紋様を作り上げていく「鎬」(しのぎ)の技で作られた器です。
彫っていくと立体感のある表情に。立山貞子さんが黒い土で作ったカップに等間隔に太い線をひとつひとつ丁寧に彫っていきます。
これは「線彫り」というもので、黒土の上に白い化粧土を施したカップは彫ったところ出た黒いラインのシンプルな模様がモダンで、手仕事ならではの味わいが出ます。
黒の鉄の様な質感でマットな色合いが高級感を醸し出している「玄鎬」(くろしのぎ)シリーズは、落ち着いた色合いが料理を引き立ててくれる、落着いた大人の雰囲気の器です。
スタッキングも良く、収納性にも優れています。
「2017年長崎デザインアワード」で奨励賞を受賞しています。
長崎の爽やかな青い空と青い海をイメージしてデザインされた「蒼鎬」(あおしのぎ)シリーズは、他のカラーの倍の時間をかけて焼き上げることによって深みのある色「蒼」になっています。
お料理をより鮮やかに魅せてくれるだけでなく、流行中のグレートーンや定番のホワイトとの相性も抜群です。
「黒刷毛飛び鉋」や「白刷毛飛び鉋」のお皿も「利左エ門窯」さんの人気のアイテムです。
「飛び鉋」(とびかんな)は放射状に広がる細かな模様をしたものです。
生地に化粧土を塗り適度に乾燥した器をロクロに載せてゆっくり回します。
特殊なハガネの道具「鉋」を同じ力で押し当て化粧土を削っていくと、美しい紋様が浮かび上がります。
熟練した職人だけが出来る、昔から受け継がれた特殊な技法です。
職人歴34年の井手義信さんが黒い化粧土を乗せた皿を鉋で削っていきます。
その作業はあっという間で3秒。
大きさの揃った粒が同じ間隔で出来ています。
釉薬をかけて焼いたら完成しました。
利左エ門窯 長崎県東彼杵郡波佐見町稗木場郷548-3
2.motteシリーズ(aiyu(アイユー))
波佐見焼の磁器の中に、ユニークな形で大人気なものがあります。
握力が弱くなってきた高齢者の方、手が自由に動かせない方、手の小さなお子様が分け隔てなく、一緒に食卓を囲んで、楽しく食事をしていただきたい・・・その思いから生まれた、aiyu(アイユー)さんの「motteシリーズ」です。
「aiyu」がものづくりを始めたのは明治30(1897)年。
皿山郷の窯元で「小吉陶苑」を開業し、昭和の食卓で活躍した「若竹シリーズ」など、多くのヒットシリーズを生み出しましたが、昭和57(1982)年に閉窯しました。
昭和59(1984)年、現社長の小柳吉喜さんが「aiyu」としてオリジナル商品のデザイン開発をスタートさせ、波佐見焼をセレクトして広める活動を行う一方で使い手目線のオリジナル商品開発・デザイン開発に取り組み続けています。
手の不自由な人のためのカップを作ろうと考えた「aiyu」の社長・小柳さんは、福祉用具メーカー「シーズ」の代表取締役・山﨑 一雄に器の形についてアドバイスを求めます。
「シーズ」は、障害者用のオーダーメイド製品、チャイルドシート、高齢者向けの椅子、誰もが使いやすいプロダクトの開発などに取り組んでいるメーカーです。
こうして生まれた「motte」のカップには、大人の指4本が収まる程の大きさの持ちやすいリング形状のハンドルがついています。
内側には丸みを持たせソフトな握り心地になっています。
取っ手の下の部分はテーブルに接するように設計されているため、少々のことでは倒れないほど安定感も抜群です。
またハンドルに通した指がカップに触れた時にもなるべく熱くないように、ハンドルとカップの接合部分は二重に、厚みを持たせてあります。
motte-マグカップ(S)」は、ハンドルが2つついたキッズサイズのmotteマグです。
「スープマグ」は、重心は低く、口径は広くなっています。
スープの具をスプーンで掬いやすいような傾斜もついています。
磁器の重さを活かした「プレート」は、片手で掬う時にプレートを押さえることが出来なくても、プレートが動きづらくなっています。
また内側には返しが付いているので、細かいものでも掬いやすくなっています。
より食べこぼしを少なくするためのリムも付いています。
「e-series」は人間工学に基づいて作られたシリーズです。
子供もお年寄りもいろんな人が持ちやすく、使いやすい形を考えてデザインされています。
「KIRITRU IRON」シリーズは、独自に開発された特殊な釉薬がかかった部分と素地の部分のコントラストが特長の器です。
封筒をモチーフにしたプレートとハンドルがハサミのようなマグカップは食器としてはもちろん、小物収納にもおススメです。
「重宝皿」は、アイユーの人気ナンバーワンのお皿です。
小さなくぼみと溝がついていることで様々なシーンで活用出来る便利なお皿です。
スタッキング出来るのでまとめ買いもおすすめです。
aiyu 長崎県東彼杵郡波佐見町皿山郷380
*https://omotedana.hatenablog.com/entry/Ippin/Nagasaki/Hasami_2 より