「若狭めのう細工」
Description / 特徴・産地
若狭めのう細工とは?
若狭めのう細工(わかさめのうざいく)は、福井県小浜市周辺で作られている石工品・貴石細工です。めのうは、無量寿経という仏教の経典の中で、極楽浄土の荘厳と言う意味で「七宝」として親しまれてきました。若狭めのう細工は、日本における貴石細工のルーツとしても知られています。
若狭めのう細工の特徴は、炎のように鮮やかで赤く半透明な色彩です。その色彩の秘密は、若狭めのう細工独特の「焼き入れ」という工程によって生まれます。鉄分を使用したこの焼き入れという技法によってできるめのう細工は、茶色がかった深みのある赤に仕上がり、若狭めのう細工独特の味を引き出しているのです。そのため、若狭めのう細工では、お椀や箸置きなどの日用品だけでなく、鶏や鯉などの飾り物も多く作られており、贈り物としてもよく利用されています。
History / 歴史
若狭めのう細工 - 歴史
若狭めのう細工の起源は、今から約270年以上前にさかのぼります。1716年(享保1年)から1735年(享保20年)にかけて、高山吉兵衛という人物が、浪速(なにわ)の眼鏡屋に奉公中に習得した技をもとに、若狭に帰郷してきました。そして、技術をもとにめのうの玉造りを始めたのがきっかけだと言われています。
そして、この玉造りだけだっためのう細工に転機が訪れたのが明治時代初期のことです。明治時代の若狭めのう細工の職人であった中川平助は、玉造りだけでなく、めのうを使ってもっと豊富な表現ができないかと考えます。そして、中川平助の試みによって、現在のように鯉や鶏といった動物、彫刻品としての道が開けて行ったのです。
このように、芸術品としても幅を広げたことによって、各地の美術博覧会で展示され、国内だけでなく海外でも注目を浴びるようになりました。そして、1976年(昭和51年)には、国の伝統工芸品として指定されました。
*https://kogeijapan.com/locale/ja_JP/wakasamenozaiku/ より
焼入れが生む炎の彫刻 若狭めのう細工
あざやかに赤く発色するめのう細工。世界的にもきわめて珍しい焼入れと根気のいる削り・磨きが宝石工芸の最高峰を演出する 。
焼入れが引き出すみごとな赤のグラデーション
若狭めのう細工では雄鶏と雌鶏や鯉などの動物がよく題材にされる。その赤く燃え上がる炎のような色は“焼入れ”という工程で生まれる。灰色をした原石に文字通り熱を加えることで、鉄分が酸化して赤く発色するのだ。世界的にも珍しいこの工程が、若狭めのう細工の大きな特徴でもある。どのようにして“焼入れ”技法が発見されたのかは定かではないが、焚き火などで赤く変色する石があることを誰かが見つけ出したのだろうと言われている。
硬い素材を丹念に磨く
めのうは硬い鉱石である。硬度は7。原石を切って板状にするだけでも切断機を使って約70時間かかる。曲玉などの小さくて比較的単純な形を仕上げるにも3日がかりの仕事。精密な細工を施し、みごとな艶を出すとなるとひとつの作品に30日から45日間、職人がつきっきりになるという。
完成品だけを見ていては知ることができない多くの苦労が、美しい細工に刻み込まれている。硬い石を彫り込み、艶やかに磨くためには、どうしても作業に時間がかかってしまい価格も高くなってしまうが、その工程の困難さを知ればその価値がわかってもらえるだろう。
由来にまつわる二人の歴史的な職人
約270~280年前の享保年間。「高山喜兵衛(たかやまきへえ)なる人」が若狭めのうの由来として登場する。浪速に出て眼鏡屋に奉公中、玉造の技を習得し、帰郷後若狭でめのうの玉造りをはじめたと言い伝えられている。その後、明治初年に中川清助(なかがわせいすけ)という人が玉造に飽きたらず、さまざまな工芸彫刻法を編み出し、現在の彫りの技術が伝えられるようになった。
細工技術を今に伝える職人
今回お話をうかがった高鳥純一さんも、中川清助氏の細工技術を今に伝える職人の一人。「めのう職人には玉屋と細工屋がいます。私は細工屋、形を作っていくのが好きでこの仕事をしています。」
「めのうはとても硬く、彫刻の素材としてはきわめて特殊。彫りや削りで形を作っていくのは(たいへんだけど)楽しいし、細かい作業も気にならない。でもその後の磨きが本当にたいへんなんです。」ろくろに取り付けた鉄ゴマに研磨剤の金剛砂(こんごうしゃ)をかけてめのうを磨く作業。砂を少しずつ細かくしながら何度も何度も磨く。こうして長い時間をかけて、ようやく美しい艶が出てくるのだ。この磨きの困難さが、他の素材での細工と大きく異なる。とくに細かな細工を施した部分には研磨剤が入りにくく、彫り跡もなかなか消えない。
完成間近に訪れる一瞬のできごと
この仕事の難しさを伺ってみると、「良くあるのは、細工が終わって、後は磨きだけという段階の時に、摩擦熱で(めのうを)割ってしまうこと。摩擦熱というのは一瞬のうちに温度が上がります。まさに、アッという間。」しかも完成が近づくほど、その危険性は増すという。
「また、ある程度彫り進んでから、原石がもともと持っていたキズや穴にぶつかってしまうこともあります。お客さんにもよりますが、穴が出た時点でもうだめという場合も多いです。その他にも、焼入れで思った通りの色がでなかったり、適当な原石そのものを探すのに1年かかったり。失敗や苦労はきりがありません。ようやく完成したと思っても見ているうちに欠点がどんどん見えてきて・・・。」厳しい職人の目には、自分自身の技への妥協はない。
めのうらしさが出たときのよろこび
「それでも、半透明で向こう側が透けて見えるようなめのうらしさが出たときはとてもうれしいです。ガラスとも違うめのうという素材が持つ独特の美しさですね。」と言って、高鳥さんはめのう細工のカップに水を入れて、水面の揺らめく様子を光にかざして見せてくれた。微妙な色合いや透明感はこれまで経験したことのない不思議な質感を帯びている。また、そのひんやりとした石肌のなめらかな手触りも大きな魅力だ。本物の職人がひたすら石と向き合った結果生まれる芸術を、その目とその手でじっくり味わってもらいたい。
職人プロフィール
高鳥純一
25歳の頃から始め、すでに25年以上の職人歴。ざっくばらんな語り口でめのうの歴史はもちろん、地元の文化や社寺についても詳しく話し、やさしい笑顔が印象的。
こぼれ話
滑らかな感触が嬉しくて、つい取り出してしまう小さな曲玉の根付け(ねつけ)を携帯電話のストラップ代わりにつけて、光にかざしてみるとみごとなグラデーションが鮮やかに浮かび上がります。濡れたような艶、ひんやりとした滑らかな肌触り。電話をかけるつもりがなくても、つい鞄から取り出してその存在感を確かめてしまいます。
「根付け」とは、印籠などにつけたいわば江戸時代のアクセサリー。動物などのユーモラスなものが多く、人とは違うオリジナリティあふれる面白いものが求められました。まさに今で言う携帯電話ストラップ。同じような形の電話で持ち主の個性をアピールするアクセント。もちろん、江戸時代に携帯電話などありませんでしたが、自分だけの愛着のある小さな宝物をもっていたいと思う心は、今も昔も変わらない粋な楽しみといえそうです。
*https://kougeihin.jp/craft/1202/ より
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