アンティークマン

 裸にて生まれてきたに何不足。

お名前をどうぞ

2020年03月03日 | Weblog
 はからずも、蜂窩織炎(ほうかしきえん)で入院。
 どんな病気かって?皮膚とその下の脂肪膜の間に良くない菌(溶連菌、黄色ブドウ球菌、白癬菌など)が入って炎症を起こす。私の場合は、足の甲の上と、その上方(脛)にソフトボール大のレッドマンゴーを2個くっつけたような状態となり、激痛で歩行困難。熱は37度4分~7分。脹ら脛(ふくらはぎ)まで、パンパンに腫れていた。

 閑話休題、入院中、「本人確認」が繰り返されます。患者を取り違えちゃあ一大事。それは、わかる。だけど、かなり杜撰かつ滑稽。
 外来患者で、顔と名前が一致していないなら、「本人確認」は、もちろん必須。だけど、1週間以上も入院している患者に、「お名前をどうぞ」…これって、おかしいでしょっ!儀式かっ?

 食事の配膳の時、
看護師 :「斉藤さんお食事ですよーっ」
斎藤さん:「あっ、どうも」
看護師 :「斉藤さん!お名前をどうぞ」
斎藤さん:「斉藤です」
 滑稽でしょ!これ、本当の話ですよ。

 患者に名前を言わせるのは、「本人確認じゃなかった」んだぁ!?と、思ったことがありました。どんな会話があったかって…
看護師 :「徳田さん、お名前を言えますか?」
徳田さん:「と、徳田秀一」

 つまり…
① 「耳がきこえるか(難聴検査)」
② 「自分の名前をおぼえているか(認知症の検査)」
③ 「発声できるか(発声器官検査)」
 を調べるためのものであった…。んなわけないね。


極夜行

2020年03月03日 | Weblog
「極夜行」。タイトルをみて「なんなんだろう?」。内容が想像できませんでした。
 夜行列車の極みなのか?「極夜」という夜ってどんな夜?極夜があるのであれば、「極朝」も「極昼」もあるんじゃないか?でも、聞いたことがない。
 急な入院だったので、カミサンが自分が読みかけの本を手渡してくれたんですけどね。それが、「極夜行」。
 本の帯には、「・・・太陽が昇らない冬の北極を、一頭の犬とともに命がけで体感した探検家の記録」と。角幡唯介(かくはたゆうすけ)さんのノンフィクション小説。

 読後感ですか?「凄かった」につきます。まず、出てくる単語(固有名詞も含めて)が「難しい」ものばかり。長く生きてきて、一端のもののわかった大人のつもりでおりましたが、わかっているものがいかに狭小か、いや、いかに超狭小かを思い知らされました。

 最も印象に残っているのは、イヌイットが定住していた地域の最後の住人で、アイダーダック(毛綿鴨)と、呼ばれた男の話。(ラムッセンの本に載っているという)
 アイダーダックは、妻への執拗なハラスメントをする男から逃れるため、一家で、北の土地へ移住することにした。北極圏の北って?!これだけでも凄い。
 旅の途中でアイダーダック一家は、深刻な不猟、それに伴う飢餓に襲われた。1917年より前の話ですから、狩猟で食料を調達しながらの旅で、獲物がなければ飢え死にするしかない。当時のイヌイット社会では、飢餓が発生したときに最初に犠牲になるのは子どもたちだったという。
 アイダーダック夫妻は、まず愛する子どもたちを途中で通過する空き家に次々と閉じ込め…生きたまま置き去りにして、出られないよう岩で封鎖した。岩は巨大で子どもの力では動かせない。事実上の生き埋め。一人また一人と彼らは愛する我が子を生き埋めにしていった。もっともかわいがっていた最後の一人の子も、極限状態の飢餓のため橇(そり)から放り投げて殺害しなければならなかった。
 「もういい、もういい、もう聞きたくない」という声が聞こえるようですが、もう少しですから。
 夫妻は生き延び、わりと多くの人が楽しく幸せに暮らせる土地に到着した。その土地では、飢餓の恐怖とは無縁で暮らせるのだが、夫妻はさらに北を目指した。アウンナット(グリーンランド北西部のツンドラ地帯にある。海に面している)に到着した夫妻は、そこで修道院のような世間と隔絶された暮らしをしていた。
 何年か後、彼らを訪れた人によって、「死体」で、発見された。貯蔵庫には、十分な量の肉が残っていた。
 アイダーダック夫妻は、我が子を殺した罪業に懊悩(おうのう)し、その苦悶に耐えられず子どもたちのあとを追って餓死する道を選んだのであろうか。

 この話、いつまでも私の脳裏から消えないだろうなあ。「極限」に直面したとき人間は、どんな行動をとるのか…