固定5指のことを前回書きました。
ドからソまで12345の指を置いておくと曲は弾けてしまう、という導入法です。
指の番号を見るだけでも弾け、音を読む手間が省けてしまいます。
最初はハ長調でそれを行い、次は手の位置をト長調やヘ長調に移動させ、また同じことをやるだけの便利な導入法です。
習い始めから5本の指を色々と使えます。
上達感が味わえます。
この方法に馴染んだ生徒さんが、右手メロディーの中に上行形「ドミソド」と、もし出てきたらどのように弾くでしょう。
指使いは「1235」
多くの生徒さんは頑張って指を開くと思います。
届くようになるまで何十回も練習する生徒さんもいるかもしれません。
仮に、それで届くようになったとして、手を開いたまま弾く「ドミソド」はどんな音がするでしょう?特に「ソド」の所です。
痛々しく硬くこわばった音だと思います。音楽にはなりえない音です。
そして先生方はこう言います。
「もう少し手が大きくなったらもっと楽に弾けるようになるから、今はこれで十分よ」と言ったことを。
残念ながらこの生徒さんは手が大きくなってもこの弾き方しか知らないので、このままです。
表情のない素っ気ない音です。
機械的な音とも言います。
固定5指でピアノレッスンを始めることで起きるデメリットの代表はこれだと思います。
この導入法で始めても、指導者が手の使い方を注意深く教え、生徒さんも進みが速ければ、この状態を長く続けることはないので、大きな弊害に合わずに済むかもしれません。
しかし標準的な進度の生徒さんの場合、固定5指は悪い癖しかつかない可能性が大きいです。
子供だからこんなものだろう、小さい内は皆こんな音だ、ともし思っていらっしゃるとしたらそれは間違いです。
初めてピアノを弾く時から、腕を大きく使い、腕の重さで音を鳴らし、指・手首・腕が力まないように教える方法が今の日本にはしっかりあります。
一番使いにくい1の指からピアノを習い始めさせることは、悪循環を生みます。
固定5指で半年でもレッスンを受けてしまった生徒さんがどのような状態になるかを、これまで何人も見てきました。
たった半年で腕は固まります。
指だけで弾くと手首も腕もロックされて動かせなくなります。
それを解くのは最低でも習った倍の時間がかかります。
ピアニストのような腕や手首を使った弾き方は、専門家や上手い生徒さんだけが出来ることではなく、誰でもできます。
何歳からでもできます。
但し、8歳までに覚えた身体の使い方は一生残るそうです。
人間は慣れるのに66日。
初めから本物を習った方が楽です。
それから固定5指は曲のレパートリーが狭くなりがちです。
右手メロディー、左手伴奏、音域2オクターブ位という定型。
腕が大きく使えると、広い音域を白鍵だろうが黒鍵だろうが初歩から弾け、様々な音楽のパターンを弾くことが可能になります。
子供は大人が考えるほど出来ないものではありません。
パターン化したもので固まってしまう前に、指導者が世界を広げること。
難しい曲を早くから弾かせる意味ではありません。
そのような曲ではなくとも、音楽の扉を大きく開く曲がたくさんあります。
3の指でノンレガートから始める導入法を「ロシアンメソッド」と日本では言っています。
この指導法を実践されている先生は以前より増えているはずですので、内容をお知りになりたい方は探されてみると良いと思います。
ただ、日本では音楽表現そのものを追求する高度な内容を指導される先生方もいらっしゃいます。
子供たちに教える基本的なことを知りたい場合は、子供の指導を中心にされている先生を探された方が良いと思います。
実践しなくとも、ピアノを教える先生はこのメソッドのことを知っておくべきかな、とは思います。
趣味の方の方がピアノの先生より詳しい場合もあるので、負けてちゃいけません。