ぱたぱた仙鳩ブログ

徳島から書道文化を発信します。

さぬき市細川林谷記念館準備 作品鑑定

2022年08月31日 | 日記
8月30日(火)、この日は一日中、香川県さぬき市におりました。さぬき市寒川からは江戸時代末期に細川林谷(りんこく)という篆刻家が出ています。彼は頼山陽からも篆刻を求められる名家でしたが、漢詩も書も絵画もできる「文人墨客」で、日本中を旅しながら各地の風景を描写しそこに漢詩をしたためた旅行記のような作品も多いです。この子孫の方が三重県に在住で、現在は建設会社を経営されていて、故郷のさぬき市に細川林谷記念館を建てるための寄付を2年前にされました。既に多くの作品が寄託され、記念館の計画案も完成し、準備が進んでいます。あと1年半後の開館を目指し、作品の解読や研究を進めているところです。
私もその研究チームの一員となって、昨年は30点ほどの書作品や絵画の賛の解読に関わり、論文も書きました。

この日は、研究済みの作品約70点の作品の真贋を見極め、作品タイトルを決定する鑑定会が開かれました。一度に5点ずつの掛軸を見ながら、絵や文の内容を確認し、タイトルを付けていきます。昔の書画作品には贋物も多いので、筆致や落款印、作品の構図、文章内容との関連、紙や表具の形状などを見ながら、真贋を見極め、タイトルも考えていきました。教育委員会文化財課の職員さんをはじめ、建設準備会のメンバー、美術商、表具師、大学の研究者などが互いに意見を出し合って決めていきます。多くは本物ですが、いくつかはやはり贋物と考えざるを得ない作品もありました。ただ、記念館が開館すれば、このような贋物も、どのような点が贋物と考えられるのかを見せる素材として展示に使えます。



細川林谷の作品はユーモアにあふれ、一見するとへたっぽい絵などもあります。文人の描く「南画」と呼ばれる絵画は、その賛の漢詩の意味が解らないとその魅力は理解しにくいですから、解読作業が不可欠です。
現代のように、学校教育の中で漢文や草書体が軽視される時代には、解説抜きではこのような作品は一般の人の興味を引かないので、まずは作品の一部を図録にして紹介することが計画されています。

大学の教員がこのような研究に関わることは公共的な義務の一つだと考えていますが、後期授業が始まる前の今の時期がこのような研究をするチャンスです。結局朝9時から3時間、午後は13時から16時半まで3時間半かかりました。
多くの作品を鑑賞して、心地よい疲労を感じながら、会場を後にしました。その後は研究者仲間を高松市牟礼町の「郷屋敷」に案内しました。ここは江戸末期から明治時代にかけて活躍した地元の名士の家が保管され、現在はうどん店になった名店です。ここで作品鑑賞や食事をして帰宅しました。


デザイン書道2022

2022年08月30日 | 日記
8月29日(月)~9月1日(木)、今年の2年生の集中講義「デザイン書道」が始まりました。担当は京都在住の上田普先生です。昨年度はZoomの遠隔授業でしたが、今年は対面で実施できました。もちろん、感染対策はしっかり実施しています。夏休み中の選択授業ですので、9名の希望者のみの参加でした。


2限目の課題は「走っている鹿」を書で表現するというもので、学生たちは熱心に作品制作に取り組んでいます。先生は時々学生の作品を紹介しています。



机の間を巡りながら、学生の相談に乗っていました。




上田先生は、書道に現代文化を積極的に取り入れられています。デザインの世界にも詳しい先生ならではの授業です。学生たちも楽しそうに取り組んでいました。

今回は、VR書道についても扱う予定です。4年生の祖月輪音々さんがVR書道に関する卒業研究をしていますので、午後にはゴーグルなど機材の調整に協力していました。また、31日(水)午後には、専門家のグラフィックデザイナーの泉屋宏樹さんの話をZoomで拝聴する時間も設定されました。このZoomは受講生以外の書道文化学科学生や、生活科学科デザインコースの学生たちにも紹介しています。泉屋宏樹さんは下記のような方です。

実際の授業中のZoom講演の様子です。教室内で受講している学生と、Zoomで参加している学生がいます。一部、私も拝見・拝聴しました。


泉屋さんのお仕事内容をいくつか紹介されていました。ポスターの文字デザインの様子。和装女性のイラストは中川学さんという僧侶でイラストレーターの方の手になるものだそうです。


9月に京都で行われる予定の上田先生の個展のポスターデザイン。この題字は上田先生の揮毫で、泉屋さんがその背景に縦線を引いている筆の写真を配し、日程や場所の文字を横書の活字で入れています。高級感を出すことを目指したそうです。「山」と「水」の間には英文が2行で入っています。



デザイナーさんの仕事の進め方や、具体的な作品の作り方を映像や動画でいろいろと観ることができました。
上田先生の授業はもう1日です。


東京点描

2022年08月22日 | 日記
8月21日(日)・22日(月)と、東京出張がありました。会議の前後の時間を活用して、いくつかの美術館・博物館を巡りました。これは授業や研究のための資料収集を兼ねています。三井住友銀行本館の右隣にある三井記念美術館です。左隣には三越が有ります。


茶器や掛物の展示をしていました。重要文化財の井戸茶碗などが多く展示されていて驚きました。さすがに財閥なので良い宝物を持っています。今回は展示がありませんでしたが、三井家は有名な書の手本もたくさん持っていて、法帖として学生も多く世話になっています。「三井本」とついているのがほとんどそうです。古筆もいくつか展示されていました。この展示は9月19日(月祝)までありますが必見です。


この建物の近くに日下部鳴鶴の書いた有名な看板もありました。「有便堂」という文字を隷書で書いています。「便」の字はかなり今の楷書とは異なりますので、読みを下にローマ字で記載しています。でも敢えて古い看板を使い続けているのは、100年かけてこの看板の書のイメージが既に多くの客に刷り込まれているからでしょう。


また近くの日本橋の麒麟の像は、映画の題材にもなったものです。麒麟は想像上の神獣ですが、山本鼎がキリンビールのラベルに描いているのが有名です。翼に見えるのは背びれだそうです。



乃木坂の国立新美術館では、ドイツの所蔵するピカソや近代美術品の展示がありました。美術の教科書に出てくる有名作家の作品ながら、あまり見たことのない作品が多く、新鮮でした。



六本木ヒルズの52階にある森美術館では、現代美術をたくさん見ました。


兵庫県出身の堀尾貞治を初めて知りましたが、書の観点から見てもたいへん興味深い作品群でした。壁面全体に飾られた作品は圧巻でした。このような展示方法もあるのかと驚きました。


やはり東京のビル群はいつ見ても、すごい量ですが、すぐ近くに青山墓地があって、緑があると少しほっとします。


美術史・書道史の総覧のような学習ができました。やはり本やインターネットで見るだけでなく、実物を見ることは重要です。

父の使っていたコーヒーカップ

2022年08月19日 | 日記
8月19日(金)です。18日に長野から徳島に移動し、本日は休みを取っています。実家で片付けをしている際に、父親が没間近に使っていた珈琲カップを弟が出してくれました。没直前には2番目の弟が面倒を見てくれていたのですが、私は死に目には会えませんでした。5年ほど前に、八寸先生のご指導で作った藍色の珈琲カップを父の日のプレゼントで贈っておきました。その後の2019年秋に実家が水害で床上浸水に遭い、そのカップも混乱の中で処分されたと思い込んでんでいたのですが、その災害を乗り越えて、父がそれを使い続けていたことに驚き、また嬉しく思いました。



多分、今まで自分で作った珈琲カップの中では最も上手くできた作品だったので父親に贈ったのですが、大切に使っていてくれたことに嬉しくなりました。3月末に亡くなり、死に目には会えなかったのですが、このような道具を通じて父とつながった気がした瞬間でした。人の気持ちというのはこのような物一つでもつながっていくのだなあ、と感慨にふけりました。これも一種の芸術作品ですが、上手・下手を超越して人の気持ちを動かしていくのだと思います。ここにこそ芸術の価値があるのでしょう。このカップは、母親に時々使ってもらえるよう、弟に頼んできました。

富山県美術館 ミロ展

2022年08月19日 | 日記
8月13日(土)、父の初盆と土蔵の荷物の整理作業で自家用車で長野県に帰省しました。台風を避けて、北陸回りで帰省したので、途中に富山県美術館に立ち寄り、話題のミロ展を見学しました。この美術館は初めて訪れましたが、5年前に開館したばかりのお洒落な建物です。


ミロ展の入口。



珍しく、いくつか撮影・SNS OKでしたの掲載します。ミロ(1893~1983)はスペインバルセロナ生まれで、ジャポニズムの影響を強く受けた画家です。人物画の背景に日本の浮世絵をわざと入れたりしています。


カラフルな抽象画が有名です。これは「絵画(パイプを吸う男)です。


日本の書画の影響を強く受けています。日本の絵巻物や文人画の賛の影響だと思いますが、絵画の中に文字を組み込んでいます。


書の影響も強く受けました。京都の森田子龍は『墨美』で早くからミロのことを何度か取り上げましたし、井島勉も注目しました。2度来日していますが、その時には宇野雪村や森田竹華ら、毎日展関係の書家と交流しています。大阪万博では、パビリオンの壁面に、書作品に近い大胆な作品制作しました。次の作品は、その時期のもので、「絵画」というタイトルです。


焼物にも造詣が深く、陶芸家と共同して制作しました。


屋上には、動いて遊べる遊具的彫刻作品があり、子供連れが楽しんでいました。天気が良ければ北アルプスが望めるはずですので、借景としては最高でしょうが、曇天だったので景色は今一つでした。


東京・名古屋の大都市に並んで、地方の小都市である富山でミロ展が開催されるのは、この美術館の立地の素晴らしさもあるだろうと思いました。日本でのミロ展は20年ぶりだそうです。機会があれば、ぜひご観覧ください。9月4日(日)までです。