久しぶりのロケⅢ。
雲行きは怪しいものの、ネバつくのどの渇きを癒すように、ロケⅢをガレージから出す。
久しぶりのカノジョは、小首をかしげてオレのライドを待っている。
逢瀬の悦びにおいて髪をなでるようにタンクに手を当てる。
火の入っていないエンジンだが、何がしかの鼓動を手に感じるようだ。
イグニッションをツねり、セルボタンを押し込む。
少し、拗ねるカノジョをなだめるために、クランク10回転ほどまわす。
彼女の喘ぎが、吼える。オレの半身に鳥肌がたつ。
旋律に酔いつつも、アゴ紐を締め、グローブのすそを引き上げる。
後ろからカノジョの肩に手を添えるつもりで、ハンドルに両手をあてがう。
右足を蹴り出してシートをまたぐ。
そう、オレは、幾夜も待ち続けていたのだ。
オマエと造り込む、この、時間を。
新品のフリクションプレートは、エンジンのトルクをタイヤを介して、路面に叩きつける。
そうか、そうか。
今日は、オゴってやるよ。とことん、付き合ってやるとも。
高速のゲートをくぐり、フルアクセル!
カノジョはオレを後方に振り払おうと、前方に突き出ていく!
脳内でmp3がONになる。
久しぶりだ。年に1回あるかないかのスイッチだ。
アクセルは戻さない。
バンプでわずかに振られながらも、フルアクセルのままだ。
1曲目はLADY NAVIGATION。
2曲目、LOVE2000。
3曲目、HELLO ROCK'NROLL CITY
至上のノリにはしゃぎだしたい衝動を抑えつつ、出口のゲートをくぐる。
目的地の某公園。
100m先でカノジョはいつものように、小首をかしげ、オレを、待っている。
と!
ブラックレザーの上下、黒いaraiのオトコが、突然、カノジョに勝手にまたがってるではないか!
「ゴルァ!!!何やっとんじゃぁっっ!!!」
オトコは全く動ずる様子もなく、むしろ平然と、ロケⅢをレーシングする。
!!!?
カノジョとオレのつながりの証、イグニッションキーは確かにオレのポケットの中にある。
たっしゃん!
ローにシフトする音が聞こえる。
オッがうオオンっ!!!
オトコはロケⅢのフロントを1mも持ち上げながら、ダッシュ!
ぬおおおおおおっ!
オレはマシンに向けて、全力で駆ける。
オトコはフロントをリフトさせたまま、遠ざかる。
おい!¥95000も掛けてクラッチ新品にしたばっかりなんだぜ!
丁寧にあつかえ!
マシンは見る見る小さくなる。
全力で駆ける、駆ける、駆ける。
マシンはわずかに排気音を響かせながらも見えなくなった。
でも、オレは駆けた。
駆けるのを、やめた。
不思議と、息は切れてない。
何だコレ?
悪夢だ。悪夢に違いない。
ポケットから取り出したイグニッションキーを見つめながら、もう一回、オレはツブやいた。
「悪夢だ。悪夢に違いない。」
そう、夢だった。
5時。タバコに火をつけて、なんとなく、隣でイビキかいてる奥様をたたき起こしてやろうと思った。