鬼頭洋

1974年

物価高の年の瀬に、球団提示の限度最高の25㌫ダウンにも「仕方ありません」と、あっさりサインした二人の男がいる。大洋の平岡、鬼頭のベテラン両左腕。それもそのはずこの二人はつい九日前にいったんは「戦力から外れたから身の振り方を考えなさい」と、球団から整理通告を受けたばかり。その時のショックに比べればたとえ25㌫ダウンでも二人は口をそろえて「もう一年野球をやれてよかった」という。どうやらこの勝負、二人の年棒を大幅にダウンさせる球団側の判定勝ちであったようだ。もちろん二人はニコッと笑いこそしなかったが、ホッとした様子は、からだ全体で表していた。話し合い直後の二人は「来年にすべてをかけるよ」（平岡）「契約してもらってよかった」（鬼頭）とまっさきに話した。大洋の25㌫ダウンは黒い霧事件の時の鈴木、坂井以来だが、二人はそんなことより路頭に迷わずにすんだことで満足感に浸っていた。さる十一日、両投手は横田球団社長から「来季の戦力に入っていない。どこかあてのある球団があるなら考えなさい」と突き放された。途方に暮れた平岡は仲人である別当監督に相談し、鬼頭は家賃六万円のマンションを引っ越す腹を固めていた。それが百八十度の転換となったのは「過去に貢献のある男だし、この年の瀬に気の毒じゃないか」と中部オーナーがそれとなく球団フロントに言ってきたからだ。こうして二人は再度大洋のユニホームを着るが、よほどがんばらなくては一年後には再び今回のようにならないとも限らない。月給もぬるま湯モードに浸っていたこれまでとちがい、平岡は最高時の45万円から18万円と大幅ダウンだ。鬼頭も一時の40万円から25万円に下がった。「生活を相当きりつめるのは女房と話し合った。でも、ダウンした分は来年がんばって必ず取り戻しますよ」と二人はいう。大洋の選手は年々力が落ちながら「オレは生え抜きだから首はないだろう」と楽観している者が多いが、今回の二人へのやり方でほかのナインにもかなりのショックを与えたはず。

菊村徳用

1974年

ロッテがドラフト1位に指名した兵庫育英高・菊村徳用投手（18）＝1㍍78、74㌔、左投げ左打ち＝の入団が決定した。二日午後四時十分、尼崎市七松町三の菊村の実家をたずね、本人、父親栄一さん（43）母親道子さん（42）らと会い、席上、契約金五百万円、年棒百八十万円を提示。菊村側はこの条件を受け入れて入団が決まった。正式契約は四、五日ごろ、東京の球団事務所で行われる予定。

 

菊村投手の話 決まってうれしいです。金田監督はいい人ですね。

1974年プロ野球退団者

1974年

新しい波に押されて、川上（巨）金田（神）宮崎（洋）森永（広）稲尾（太）と五人の監督がユニホームを脱いだ。Ｖ９という不滅の大記録を残して長島にバトンタッチした川上は球団の企画担当事務として新分野を切り開こうとしている。金田と稲尾は地元のラジオ解説者、宮崎はスカウト部長として長年のキャリアを生かすことになった。自営業に打ち込む森永は野球と縁が切れる。コーチでは牧野、森（兼任）木戸の巨人組、岡本（神）長谷川（広）島田（近）といったところ。牧野、森の巨人コンビはマスコミ関係で貴重な体験をファンに披露する。プレーヤーをポジション別にみると投手では水谷（中）菅原（巨）千葉（広）オースチン、アマーン（急）森中（日）たち。水谷はスカウトに転向、菅原は試合中、目に受けた打球が原因で視力減退、ホーム後楽園で15連勝（セ新記録）のまま引退する。四十四年度の広島ドラフト1位指名、千葉（日鉱日立）は一軍公式戦0勝2敗の成績で球界から消える。29歳でロッテ入り、子連れルーキーと話題をまいた近藤も第三の人生へ再スタートする。コーチ転出をけって引退させられた森中（日）も大洋時代の四十二年に巨人から7勝をあげた男だ。捕手では宮寺（太）が「右ヒジ痛による体力の限界」で自ら退団を申し出た。梅村、稲生（南）も野村という巨人の前には歯がたたなかった。内野手では職人的な守備をみせた城戸（コーチ兼任）が早々とクビをいいわたされている。同じヤクルトの東条も永尾の成長で追われた。国貞（広）は代打男として太平洋のテストを受けた。しぶといバッティングはまだ捨てがたい。チーム刷新をはかる近鉄では関根、溜池、佐野と一軍クラスが三人。マクガイア（広）もルーツ新体制からはみ出した。中日の代打男・広野も9年のプロ生活に終止符を打った。日本一のロッテからは青野の名が消える。外野ではウイリアム、盛田（中）ヒックス、宮川（広）阿部（神）アルトマン（ロ）三沢（日）北川（近）ら。宮川と三沢はスカウトになる。