1966年
さる十七日、森安は強打が売り物の大洋を完封した。その試合後、東映西村ヘッドコーチに問いかけられた。「どうや、牧とどっちがいい」と。甲乙つけがたい。即座の返答につまったが「森安はどちらかといえば打たせてとる投手のように思える。牧のほうが力でおさえ込む感じで、いかにも投手らしい投手のようだ」と答えた。この試合での森安はそれほどスピードはなかった。カーブももうひとつひねりがきいておらず、内角へはずれたのが多かった。その点を指摘すると安藤コーチが「いや、スピードはもっと出る。岡山での対阪神戦なんかすごく早かった」とむきになった。森安を大いに売り出したい気持ち、牧、それに南海にたいするライバル意識がそういわせたのだろう。東映の投手陣はエース尾崎が故障中、土橋も完全に復調していない。また久保田と入れ替わった伊藤もどうれだけ働けるか見通しがつかない。そんな事情だけに森安にかける期待はなみなみでないわけだ。南海もスタンカ、杉浦が投手陣から抜け、林は故障、期待の村上は打たれる…で、前途多難を思わせている。お先真っ暗の中で牧がひと筋の先明となっている状態だ。両チームにとっては森安、牧のどちらが新人王になるか、などより彼らがチームにたいしてどれだけ貢献してくれるかが大問題なのである。新人にチームの興廃をかけるといえば、いささかオーバーだが彼らの働きいかんが、ペナントレースを有利に展開するカギとなっていることは確かだ。両者を比較検討してみよう。
球歴 ともに高校出。高鍋高の牧は春夏の甲子園大会に出場、昨夏は準決勝まで進出した。岡山関西高の森安は甲子園のひのき舞台こそ踏んでいないが予選で21三振奪取の記録をつくった。
体格:牧=178㌢、76㌔、肩幅広く、胸板も厚い、下半身に比べ上半身が発達している感じ。森安=179㌢、81㌔、均整がとれている。牧より筋肉が柔らかそう。
投法:牧=巨人の藤田コーチの現役時代そっくり。純粋の上手投げ。森安=横手投げ、無理のないなめらかなフォーム。
球威:牧=直球はいわゆる重い感じ。カーブは上手から投げるのでドロップになる。大きく曲がり落ちる。シュートの鋭い。森安=速球が武器だが、球質は軽いほう、現段階ではカーブの制球力がいまだし。フォークボールがいい。
プレート度胸:どちらも強心臓で、高校を出たばかりと思えない。
ナインの信頼度:投球に安定感があるせいか、ともにベテラン投手と同じほど信頼されている。
オープン戦での成績:牧=5試合に登板、うち先発3、救援2、投球回数24、被安打18、奪三振11、与四球8、自責点6、防御率2.50。森安=4試合(救援1、先発3、うち完投1)22イニングス投げ、13安打、14三振、9四球、自責点6で防御率2.73。このように、優劣をつけるのはむずかしい。評論家たちの意見を聞いて回った。いずれもまず「うーん」とうなる。その結論をまとめると「牧のフォームには打者の心理を圧するなにかがある。球威も全般的には森安以上。ただ森安の内角高めでナチュラルシュートにするタマは牧にない。ともに新人らしからぬ度胸のいいピッチングをするが、まかり間違えば一発ぶち込まれる危険性もある。セットポジションにはっての投球は、牧が高校時代ノーワインドアップで通してきたので、その意味でのなれが残っている。森安の場合はちょっと球威が落ちる」で、ほんのわずかだが牧に歩を認めている。新人投手だから打者のクセはわからない。彼らの力を引き出し、活用するのは捕手の役目だ。その点、東映の種茂、鈴木に比べ、南海にはリーグ一の名捕手野村がいる。勝ち星をどれだけあげられるかは多分に打線の援護力に左右される。南海と東映の打力を比較すれば、機動性、長打力でやや南海が上回るようだ。この二点で牧有利のケが出るが、牧には森安以外にも高校時代いらいのライバルがいる。東京の木樽である。ヒジを痛めてまだオープン戦には登場していないが、二十九日の大洋戦には登板するそうだ。甲子園で牧に投げ勝った木樽がプロでもまた投げ勝てるかどうか。新人王争いはことしのパ・リーグの見どころの一つとなることだろう。
さる十七日、森安は強打が売り物の大洋を完封した。その試合後、東映西村ヘッドコーチに問いかけられた。「どうや、牧とどっちがいい」と。甲乙つけがたい。即座の返答につまったが「森安はどちらかといえば打たせてとる投手のように思える。牧のほうが力でおさえ込む感じで、いかにも投手らしい投手のようだ」と答えた。この試合での森安はそれほどスピードはなかった。カーブももうひとつひねりがきいておらず、内角へはずれたのが多かった。その点を指摘すると安藤コーチが「いや、スピードはもっと出る。岡山での対阪神戦なんかすごく早かった」とむきになった。森安を大いに売り出したい気持ち、牧、それに南海にたいするライバル意識がそういわせたのだろう。東映の投手陣はエース尾崎が故障中、土橋も完全に復調していない。また久保田と入れ替わった伊藤もどうれだけ働けるか見通しがつかない。そんな事情だけに森安にかける期待はなみなみでないわけだ。南海もスタンカ、杉浦が投手陣から抜け、林は故障、期待の村上は打たれる…で、前途多難を思わせている。お先真っ暗の中で牧がひと筋の先明となっている状態だ。両チームにとっては森安、牧のどちらが新人王になるか、などより彼らがチームにたいしてどれだけ貢献してくれるかが大問題なのである。新人にチームの興廃をかけるといえば、いささかオーバーだが彼らの働きいかんが、ペナントレースを有利に展開するカギとなっていることは確かだ。両者を比較検討してみよう。
球歴 ともに高校出。高鍋高の牧は春夏の甲子園大会に出場、昨夏は準決勝まで進出した。岡山関西高の森安は甲子園のひのき舞台こそ踏んでいないが予選で21三振奪取の記録をつくった。
体格:牧=178㌢、76㌔、肩幅広く、胸板も厚い、下半身に比べ上半身が発達している感じ。森安=179㌢、81㌔、均整がとれている。牧より筋肉が柔らかそう。
投法:牧=巨人の藤田コーチの現役時代そっくり。純粋の上手投げ。森安=横手投げ、無理のないなめらかなフォーム。
球威:牧=直球はいわゆる重い感じ。カーブは上手から投げるのでドロップになる。大きく曲がり落ちる。シュートの鋭い。森安=速球が武器だが、球質は軽いほう、現段階ではカーブの制球力がいまだし。フォークボールがいい。
プレート度胸:どちらも強心臓で、高校を出たばかりと思えない。
ナインの信頼度:投球に安定感があるせいか、ともにベテラン投手と同じほど信頼されている。
オープン戦での成績:牧=5試合に登板、うち先発3、救援2、投球回数24、被安打18、奪三振11、与四球8、自責点6、防御率2.50。森安=4試合(救援1、先発3、うち完投1)22イニングス投げ、13安打、14三振、9四球、自責点6で防御率2.73。このように、優劣をつけるのはむずかしい。評論家たちの意見を聞いて回った。いずれもまず「うーん」とうなる。その結論をまとめると「牧のフォームには打者の心理を圧するなにかがある。球威も全般的には森安以上。ただ森安の内角高めでナチュラルシュートにするタマは牧にない。ともに新人らしからぬ度胸のいいピッチングをするが、まかり間違えば一発ぶち込まれる危険性もある。セットポジションにはっての投球は、牧が高校時代ノーワインドアップで通してきたので、その意味でのなれが残っている。森安の場合はちょっと球威が落ちる」で、ほんのわずかだが牧に歩を認めている。新人投手だから打者のクセはわからない。彼らの力を引き出し、活用するのは捕手の役目だ。その点、東映の種茂、鈴木に比べ、南海にはリーグ一の名捕手野村がいる。勝ち星をどれだけあげられるかは多分に打線の援護力に左右される。南海と東映の打力を比較すれば、機動性、長打力でやや南海が上回るようだ。この二点で牧有利のケが出るが、牧には森安以外にも高校時代いらいのライバルがいる。東京の木樽である。ヒジを痛めてまだオープン戦には登場していないが、二十九日の大洋戦には登板するそうだ。甲子園で牧に投げ勝った木樽がプロでもまた投げ勝てるかどうか。新人王争いはことしのパ・リーグの見どころの一つとなることだろう。