唐史話三眛

唐初功臣傳を掲載中、約80人の予定。全掲載後PDFで一覧を作る。
その後隋末・唐初群雄傳に移行するつもりです。

流転

2006-08-25 18:23:50 | Weblog
激しい風が戸に吹き付けガタガタと音をたてた

「城壁をはいのぼり門を開きます・・・」
吹雪の中、愬をみて祐は叫んだ。

「お前のような勇将が荊南軍などにおったとはな」
縛り上げられた祐をみて少誠が言った。

さらに激しい風が戸をゆらしたとき、李祐の意識が戻った。

「ここはどこだ・・・?」
高熱にうなされてつぶやいた。

「城内の殿の部屋でございます」
周囲を取り巻いていた家臣が答えた。

「城内? どこの城だ?」

「もちろん滄州城でございます」

祐の記憶が戻ってきた。

横海軍節度使として反乱していた李同捷を平定し、滄州城に入ったばかりであった。

その後高熱を発し床についていたのだ。

ふたたび目を閉じた頭の中を走馬燈のように記憶が巡った。

荊南軍の將として、淮西征討に出撃したのはまだ三十になるかならぬかの時だった。

軍は総崩れとなり、勇戦していて退却の機を逸して捕らえらた。

多くの將は斬られたが、祐は呉少誠に勇敢さを認められて赦された。

その後、呉少陽・呉元濟に従い、反乱軍の將として恐れられていた。

元和12年油断をして李愬に捕らえられたときにはもう死を決意した。

それまでの残虐行為が赦されるとは思えなかったからだ。

ところが愬は赦しただけでなく、討伐の中心として重用した。

祐は感激し、蔡州城を奇襲する大功を上げたのだった。

そして今は、官軍の総司令として反乱を鎮圧する立場となった。

「なんとめまぐるしい・・・」

激しい風が再び戸を揺らした。

「俺はどんな時も必死で生きてきたのだ」

その月、祐は死んだ。