唐史話三眛

唐初功臣傳を掲載中、約80人の予定。全掲載後PDFで一覧を作る。
その後隋末・唐初群雄傳に移行するつもりです。

国に背く

2006-08-16 09:05:43 | Weblog
「なんて馬鹿な事をしたんだ」

「あいつは蛇のような執念深い奴なんだぞ」

「そんな事をしているから君は出世しないのだ」

太常卿權輿は、友人の徐晦を責めていた。

「憑とは俺も親しい、しかしこういう時は知らぬ顔をするのが官界の掟だ」

京兆尹楊憑が、中丞李夷簡の弾劾にあって遠隔地に左遷となった。

前任の江西での悪質な蓄財がとがめられたのだった。

日頃は門前に市をなすほどの賑わいだった友人達も

左遷となると誰も見送りにきていなかった。

ただ徐晦だけが藍田まで見送っていったのだった。

その光景を夷簡は家の陰から密かにみていた。

数日後、人事異動があり晦は一躍監察御史に昇進した。

しかも推薦者は夷簡である。

「処罰されるならともかく、推薦してくれるとは?」

いぶかりながらも晦は上司である夷簡の所に御礼の挨拶に出向いた。

厳酷で知られる夷簡は、晦を見て言った。

「君は自分の利益をかえりみず、逆境の友人に背かなかった」

「そういう君であれば国に背くことはないだろう」