世界の果てのこどもたち | |
中脇 初枝 | |
講談社 |
昭和50年代後半、中国残留孤児の訪日調査が行われ、その結果身元が判明して親族と肩を抱き合って泣く姿をニュースなどでよく見た。
当時小学生だった自分には、はるか昔の遠い世界の出来事にしか感じられなかった。
それから30年の時が流れ、自分自身が当時来日した残留孤児たちと同年代になってみると、また捉え方が変わってくる。
40歳代からみた30年前というのは実はさほど昔のことではない。
ところが、残留孤児たちは、実の父母家族と離れ離れの運命を辿り、自身が日本人であったことの記憶も失い、かつては喋っていたはずの母国語も話せなくなっていたのだ。
この小説の主人公である3人の女性のうち1人は、まさにそのような運命を生きた人物である。
満州で、それなりに豊かで穏やかな暮らしをしていた一家の境遇は、敗戦とともに一気に過酷なものへと暗転する。
このあたりの描写はドキュメンタリーか何かで知ってはいたが、その壮絶さは筆舌に尽くしがたい。
本当の意味での戦争の悲惨さ、人間という生き物が生来有している残虐さを思い知ることになる。
人間の残酷な本性という点では、3人のうちのもう1人、大空襲で戦争孤児となる横浜の少女のエピソードも哀しい。
空襲前まで、かなり豊かな家庭で、天真爛漫に育っていた様子が窺えるだけに、そのギャップに切なさが募る。
残り1人、在日朝鮮人として戦後を生きることになる女性と合わせて、3人が、大雨で行方不明となる中おにぎりを分け合った幼き日の記憶を胸に抱きながら、戦後を生き抜き、再会するまでが描かれる。
戦後のパートは駆け足で駆け抜けるが、そのペースこそが、生き延びるために懸命であった3人の人生を力強く表しているようにも思われる。
力作。
戦争と戦後を考えるには、秀逸な教材となり得る小説だと思う。