日本兵を殺した父: ピュリツァー賞作家が見た沖縄戦と元兵士たち | |
Dale Maharidge,藤井 留美 | |
原書房 |
衝撃的なのはタイトルだけではない。
著者の父、スティーヴ・マハリッジは太平洋戦争で海兵隊に従軍し、グアムと沖縄で激戦を戦いました。
戦後、復員して家族を儲けますが、日常生活においても突如激しい怒りが爆発することがしばしばあったことを著者は振り返ります。
戦争から半世紀以上が経ち、父の死を契機にして、著者は父がずっと仕事場に飾っていた戦友の写真を手掛かりに、当時同じ中隊に所属していた嘗ての兵士たちを探してコンタクトを取ることにより、沖縄で何が起こったのか、写真に映った戦友がどのように死んだのか、激烈な真相に迫っていくのです。
12名の元海兵隊員へのインタビューを綴った章こそが本著のクライマックス。
読んでいると、何だか重いものが胃のあたりに渦巻いてくる気分になります。
20歳そこそこで生き地獄に身を置き、その場で生命を落としてもなんら不思議のない体験をしながら、その後60年以上も生きながらえた彼らの口から出てくる体験談のなんと重いこと。
そしてまた驚くのは彼らが語る描写の精緻さ。
半世紀以上前の出来事をここまで生々しく語ることができるのかと驚かされます。
もちろん現在においてその信憑性を詳らかに検証する術はないのですが、戦後全く交流の無かった複数の人物が同じ内容を語り、また著者がその後沖縄を訪れて変わり果てた風景の中に幾つかの遺構を見つけることでその確かさが確認されるのです。
彼らが被った身体と心の傷の深さがどれだけのものだったのか思い知らされます。
そして彼らは例外なくその後遺症に一生付きまとわれることになりました。著者の父親がそうだったように。
沖縄戦というのは人類が歴史上経験した殺し合いの中で最も苛烈なものの一つなのかもしれません。
兵器や武器のレベルという点でも、夥しい数の市民が巻き込まれたという点でも。
彼ら海兵隊員、また日本兵にしたって、職業軍人というよりも殆ど一般市民に近い存在だったわけで。
これを読んで、やっぱり戦争なんて絶対やってはいけないものだなと改めて思うと同時に、限界を超えた状況において露わになる、人間という生き物が本来的に有している残酷さや生の儚さに思いを至らさざるを得なくなります。