イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

そんなバナナ

2010-07-24 20:53:10 | アニメ・コミック・ゲーム

23日(金)放送回でめでたくビフォーアフター成った村井家(@『ゲゲゲの女房』)の食卓にある、しげるの好物コーヒー用クリーミングパウダーのラベル。綴りは“Creamy”とも“Crearity”とも読めるけれど、黄色地のロゴデザインはまったく、あのおなじみロングセラー品を再現してますな。

このドラマには貧乏時代から、お台所には“カネクレンザー”、しげる(向井理さん)の仕事机には“明墨汁”、商店街の看板には“ユニコーンビール”など、「アレのことね」とわかる架空の商標ラベルが絶妙の似せデザインで満載です。ユニコーンビール、普通に飲んでみたいんですけど。平成のいまは“一搾り”とか、発泡酒“麗生”、新ジャンル“コクの時”とかを製造してるのかしら。

ライバルは“ヒノデビール”の“ウルトラドライ”と“クリアヒノデ”だろうね。

昭和41年夏時制ですでに部数80万部を勇躍越えたらしい雄玄社『少年ランド』編集部の柱には、同社の少女誌部門の看板『少女ガーデン』表紙写真が貼ってありますが、テイストがなんとも当時の講談社『少女フレンド』っぽいカントリーくささで嬉しくなります。ライバルの集英社『マーガレット』に比べると、なんとはなし、非日常に突き抜けてないというか、生活感、家庭感、みたいのがありましたからね、少フレ。

『マーガレット』の集英社が、『少年ジャンプ』で少年誌マーケットに殴り込んできたのが、確か昭和44年。創刊当初は週刊ではなく隔週刊ぐらいで分も厚かった。『男一匹ガキ大将』で本宮ひろ志さんの名前と絵柄を初めて知りましたね。“友情”“努力”“勝利”の同誌ですから、もしドラマに出てくるとしたら『少年ビクトリー』とかかしら。負けるなランド(でも抜かれるんですよねマガジン)。

絵に描いたような貧乏ボロ家が、遅ればせながら昭和41年の、幼子持ちの民家らしい、冷蔵庫も炊飯器も、魔法瓶もコーヒードリップもあるしつらえになって、「あの頃は…」と懐古する材料がたくさん出来た分、ちょっと演出が甘くなったかなという気もしましたが、22日(木)のまだボロ家のままの時点での水木プロダクション発足祝賀会に駆けつけてくれた戌井さん(梶原善さん)が「いま思い出してたんですよ、『鬼太郎』が復活すると聞いてお祝いに来たとき、奥さん、ここに座り込んでた」と、ひとり宴席を離れて、茶碗酒片手に裏庭で述懐する場面は良かったですね。

「あんたが早く現われんかと待っておったんですよ」としげるは熱い握手で迎えてくれ、戌井さんも「今日はじっくり水木さんと話したくて来ました」としげる大好物のバナナを土産に訪れたのですが、飛ぶ鳥落とす大手出版編集者、映画会社Pや新人アシスタントら上り坂の人たちが“水木センセイ”をいやが上にも盛り立てんと取り囲んで賑わう席に、下り坂をともに踏ん張る同士だった身が加わるのは何とはなし居心地が悪く「人あたりしそうで」。

奥さんの布美枝さん(松下奈緒さん)相手に、不遇時代に貸本版『悪魔くん』を傑作視して日の目を見せた恩を売るつもりはまったくないのだけれど、水木先生との出会いと親交には貧乏の思い出がついて回り、それは今夜のこの宴にはふさわしくないものなのです。

でも貧乏をともに耐えた時間の長さなら誰にも負けない布美枝(松下奈緒さん)が、「誰も認めてくれない、どこの出版社からも冷たくされて、応援してくれたのは戌井さんだけでした」「これから先どげなるのか、お祭りみたいな騒ぎがいつまで続くのか、怖いような気がします」と、前に進むのみとはなれない一抹の後ろ向きをひととき吐露できるのは、当夜の面子だとやはり戌井しかいないのです。

初めての里帰りで、“本当は貧乏でどうしようもなかったのよ”をぶっちゃけられる相手が実家の中で、両親でも兄でも嫁いだ姉でもなく弟・貴司(星野源さん)だけだったというのと、どこか相似している。努力して、刻苦勉励して、いまより幾らかずつでも上を目指すのが人生のあるべき姿とみんな思っているけれど、上への気流に乗っても四六時中前向き、イケイケどんどんだけでは人間、疲れてしまうのです。ひととき後ろを振り返り、「低迷していた頃も、あれはあれで良かった」「この上向きが続くか不安、怖い」と心ゆくまでしんみりじんわりできるサムタイムがあり、そんな気分を共有できるサムワンがいないとね。

“努力上等、でも要所では懐古躊躇モードでうじうじ”をワンシーンだけでも肯定してくれた、このドラマの風通し良さを象徴するような場面だったと思います。前向きオンリー一方通行でラクさせてくれない朝ドラ、続きましたからね。

「しっかしボクも気が利かないなあ、(皆が高価な酒や菓子を持って来るような水木先生になったのに)いまさら土産にバナナでもありませんでしたよねぇ」と苦笑する戌井さんに、「そんなことないですよ、いちばんうれしい、何よりのお土産です」とお世辞でなく元気づける布美枝。しげるも同じ気持ちだったに違いありません。

できれば祝い客がはけて布美枝がひとり後片付けする深夜、しげるが「酒の飲める人はええなあ」「次から次へと話の相手してるうちに、せっかくのオマエ(=布美枝)の太った餃子、みんな食べられてしまった、宴会の後とは腹が減るもんだな」「あーうまいな、戌井さんのバナナ、あの人は気が利いちょる」とニコニコぱくつく場面があったら良かったですね。

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