正月恒例のこの番組も今年=令和2年、2020年で数えて十二回目だそうです。メイン司会の千原ジュニアが「消費税(率)何パーセントだったんや」と、“いかにも大昔”感を強調していましたが、第一回が2009年ですから、言うほど昔でもない、すでにネットもあったしお笑いブームも何次めか通り過ぎた後だし・・と思う一方、2009年からここまでの間には東日本大震災があり、アナログ放送完全停波と地デジ完全移行があり、『笑っていいとも!』が終わり、SMAPが解散し・・と、結構、テレビ界も、テレビを取り巻く人的物的環境も変わっているもんです。
今年いちばん番組内で大きく変わったのは、昨年までは一般視聴者アンケート“人気ドラマランキング”“人気バラエティランキング”だったのが、「2019年に視聴したテレビ番組・ネットの有料/無料動画を含めた、すべての映像コンテンツ」にまで対象を広げてランキング発表したことでしょう。一般人1000人に訊きましただったらしいけど、これ、集計するのも大変ですよ。
2015年(平成27年)の第八回ぐらいからだったと記憶しますが、すでにテレビの人たちから「ネットっちゅうもんをどうするか」という問題意識は常に提起されていました。最初は“娯楽のパイを奪い合う新興の競争相手”視して、「ネットに負けないコンテンツ・ソフト作り」「ネットよりテレビを選んでもらえるように」という姿勢だったのが、17年(同29年)の第十回頃からは“ネットとの共存”をポジティヴに考えるように完全に転じ、今年はさらに、見る視聴者側からでなく制作者側があらかじめ“ネットを利用して番組の面白さの切り口を増やし、楽しみ方を重層させる”仕掛けを、前がかりで考え実践していく発言が目立ちました。
実際、今回のランキングでもベスト10はすべてテレビ地上波の放送番組で、出揃った瞬間ヒャダインさんが「ネットいない・・!」と拍子抜けとも安堵ともつかないリアクションを示したのが印象的。どんな基準で選んだ1000人かわかりませんが、この程度のサンプルならやはりまだまだ地上波が優勢なのは納得がいきます。
さらに今年は台風・大雨など天災も相次ぎ、「災害時はNHK」の定説通り、即時性同時性にはすぐれるけれどもフェイクニュースも多いネット情報より、テレビ地上波の確実性を再認識した視聴者が多かったようです。これは当たり前っちゃ当たり前だけど、視聴者の皮膚感覚が正しい。
ランキング8位に入り流行語大賞にもノミネートされたドラマ『あなたの番です』の日本テレビ鈴間広枝Pがパネリストの一人で、「鈴間さんの番です!」(ジュニア)とばかり、前半の放送時間12分余り、“どうやってヒットドラマにしていったか”の話に集中しました。
昨日の記事タイトルの通り、月河はこのドラマも、放送中1話も、1秒も視聴していませんから、あくまで“世の中の話題の一端”“通り過ぎた風景の一郭”としてこのパートを聞いていましたが、SNSを駆使したトレンド醸成や、鈴間さんの言う“ツッコまれ”に特化したまとめ映像の配信などのデジタル戦術もさることながら、ヒットのいちばんの要因は「とにかく2クール(4月~9月、全20話)やる!」と決めて漕ぎ出し、出だしの数字が悪くても何しても折れなかったこと、これに尽きると思いました。
これが可能だったのは、日テレの10時代を含む夜時間帯がここすでに他局に比べて強いからなのか、企画原案秋元康さんの政治力と人脈力の圧のゆえかは微妙。しかし、“小ぶりに控えめに試し打ちしてみて、ダメだったら即撤退か方向転換”という消極的な姿勢ではヒットは生み出せないことは確かだと思います。
絶対やるし、やれば当たるんだと作り手が信じて作り抜くことが肝要。この辺り、ジャイアンツのバリバリエースだった頃の桑田真澄さん(いまは“Mattの親父”として有名?)が、雑誌の対談で(相手は現役引退し解説者になって間もない頃の東尾修さんだったと記憶)、「絶対打たれないと思って投げたら、ど真ん中に(球が)行っても不思議と打たれないですよ」と語っていたのを思い出しました。
もうひとつ、これも月河がこのドラマを未見だったから一段と強く感じたのかもしれませんが、2クールを通じて“座長”と目された主演田中圭さんの持てる魅力が与ってチカラ大だったと思います。この日も別撮りVTR出演で、撮影時の所感やこぼれエピを語ってくれていました。
「(『おっさんずラブ』に続いて『あな番』も序盤低調から後半跳ねるスロースタータータイプのドラマ主演で)オレ、“持ってる”のかなと思ったり、でもたまたまだと思う」と語る田中さんの起用無ければこの枠のこの作品の当たりは無かったはずです。鈴間P曰く、この日曜夜10時台の枠は「地上波のリアルタイムで安定した数字を取って行くことを目指すんじゃなく、エッジの立った、中毒性のある企画で、マルチプラットフォーム展開できるものを作る」のがミッションだそう。そこまで尖鋭に“ネットで沸騰”に絞って狙い撃ちに行くプロジェクトに、田中圭さんの何と言うか、おっとり感、尖んがらない感、ある種の透明感は願ってもない個性だったのです。このドラマ未見だけど、あざとく“エッジを立てた”肌合いのストーリー、映像に、田中さんの主演は視聴者が見て「がんばれ、生き残れ」「ワタシが見てるよ、味方だよ」という気持ちにならずにいられないものだったのではないでしょうか。
ジャンルは違うけど、平成『仮面ライダー』諸作品に相通じるものがあると思う。ライダーの主演は、ほとんどが演技経験のうすい若手俳優のオーディション抜擢です。よく言えばフレッシュな、悪く言えば“イケメンでかっこよくて身体の切れがいい以外、芝居的には何も取り柄がない”ド新人くんです。こういう子を東映伝統の特撮現場に主役として投入すると、当然当人は焦りまくります。現場にセリフ入れて来るだけで精一杯、監督は怖いわ、脇役やスーアクさんはベテラン揃いだわ、事務所からは期待されてるわ、いったいどうやれば乗り切れるんだよーーという戸惑い、苛立ち、プレッシャーは、脚本でライダーに変身する運命を課された主人公の苦悩そのものなのです。ここがシンクロして画面から伝わるから、視聴する小さなお友達も、かつてライダーウォッチャーだったお父さんも、イケメンならとにかくなんでもいいお母さんも、思わず手に汗握って応援する。
田中圭さんは、同じ日曜の“夜の、変身しないヒーロー”の役回りに唯一無二のキャストでした。他の俳優さんではちょっとこのポジション代わる人が思いつきません。
企画の豪胆さ図太さと、主演のド嵌まり。やはり「当たるべくして当たった」ドラマだったんだなと思いました。くどいけど、一話も視聴しなかった月河でも、この番組の情報だけでわかる(「そんなに当たったんなら、見ればよかった」と思うかどうかは全く別)。
鈴間P「キャストの皆さんも私も、大変なはずのスタッフも腐ることなく頑張ってくれて、ホンットーに幸せな現場でした」・・・・羨ましく聞いた他局のドラマ制作班、多かったでしょうね。
この『新春テレビ放談2020』についてはまだ投稿するつもりですが、内容のほかに気になってしょうがなかったのは、司会のジュニアと杉浦友紀アナの席の後ろにでかい水槽があって、海月(くらげ)さんたちがスイスイホヨホヨ泳いでるの。スタジオの照明半端ないはずですが、水温の管理、大丈夫なのかしら。しかも、今回のスタッフは相当な“海月押し”だったらしく、番組中で視聴者のアンケート回答などがテロップで画面に出るたびに「チャポッ」みたいな水音の効果音と、テロップ横に海月のイラストが。パネリスト紹介やランキング表示画面のバックもぜんぶクラゲ。何だったのかなアレ。『あな番』絡みの話題のあと、『凪のお暇』『同期のサクラ』『私、定時で帰ります』等、いまどきヒロインのドラマの話になり、“がんばらない”がキーワードになったりしたからかな。
クラゲさんなりに、ああ見えても頑張って水圧に耐えて(=浮上したら気圧でお終いだから)ホヨホヨしてるんじゃないかと思うんですが。
(この稿続く)
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