「どもー、どもっミルクボーイですよろしくお願いいたしますー、ありがとうございますっ、いまね、とんかつソースを戴きましたけどもねー、ありがとうございますっ、こんなんなんぼあってもいいですからねー」
「ほんまありがたいですねー、ところでうちのお母んがですね」
「わからへんのがあるんでしょ」
「そやねん」
「そうや思うたわー、何がわからへんのよ」
「好きなお菓子があるらしいんけどな、名前をちょっと忘れたらしくて、いろいろ訊くんやけど」
「ほなボクがお母んの好きなお菓子、一緒に考えてあげるから、どんな特徴があるか教えてみてよ」
「お母んの言うにはね、和菓子で、ひらがなで“と ら や”って印刷した袋に入ってるんやて」
「おー、羊羹やな。それは羊羹や。羊羹以外の何ものでもないな。昔から、“とらや”と言えば羊羹、羊羹と言えば“とらや”や。“とらや”て印刷した袋に、羊羹以外のものが入っとったら、99.99パーセント、袋の再利用やからね。お母んの好きなお菓子は羊羹や」
「オレも羊羹やと思たんやけど、お母んの言うには、その“とらや”の袋に入ったお菓子は、中国の人らぁが“どうぞ”て持ってきたんやて」
「ほな羊羹と違うなー。中国の人らぁがお菓子ですよ言うて持って来るいうたら、マンゴープリンか杏仁豆腐やもんな。百歩譲ってタピオカや。ほんでな、中国では“羊羹”言うたらお菓子ではないんやて。知っとった?中国では、羊(ひつじ)の羹(あつもの)、ヒツジのダシのスープのことをヨウカン言うんやて。中国の人らぁがわざわざ来てな、こないな恰好で“ヨウカンモッテキタアルヨ~”言うて出してくるんは、ヒツジのダシのスープや」
「熱っつあつやね。お菓子とちゃうな」
「そうや。もうちょっとお母ん何か言うてなかったか」
「お母んの言うにはな、誰ぞエラい人に、ものを頼んで“よろしゅうお願いします”言うときにあげるもんやて」
「羊羹やないかー。エラい人に“よろしゅう”頼むときにあげるお菓子の定番中の定番言うたら羊羹をおいてほかにないでー。考えてみ、エラい人に“よろしゅう”言うてイチゴショートあげたら、よろしゅうする前にイチゴが黒ずんでまうやろ」
「活きが下がりやすいわな、なまもんやし」
「もっと考えてみい、エラい人に“よろしゅう”言うて最中(もなか)あげたとする、“おー最中もろたな、ほなよろしゅうしてやろか”て一口食べたら、上あごに皮がぜんぶ持ってかれて、皮に気を取られて何をよろしゅうしてやったらええのんか忘れてまうやろ。ここは羊羹や。お母んの好きなお菓子は羊羹しかないて」。
「オレも羊羹や思うんやけどな、お母んの言うには、袋の中に一緒に、福沢諭吉さんが300枚入っとったんやて」
「・・・それは羊羹ではないな!福沢諭吉さんが300枚入っとったら、福沢諭吉さんの圧倒的な存在感におされて、羊羹、影うすうなるやん。君、福沢諭吉さん300枚て見たことある?」
「記憶ないなぁ」
「そやろ。考えてみ、かりに、ここに福沢諭吉さんが10枚あったとしてもな、あたりを圧するオーラ出るやん。“あぁボクらには手の届かない世界や”て引くやろ。それが300枚やで。羊羹の存在感なんか木っ端みじんになって、もとのアズキと寒天に戻るかもしれへんで。それは羊羹ちゃうな。もうちょっと何か言うてなかった?」
「お母んの言うには、エラい人がもろうたら、“絶対羊羹でした”って言い張るんやて」
「ほな羊羹やないか!エラい人が羊羹や言うたらどこまで行っても羊羹やん、それは羊羹やて」
「そやろ、オレも羊羹やろ言うたんやけどな、お母んは“羊羹ではない”言うねん」
「それやったら羊羹ちゃうやないか!それ先に言えよ!オレが中国の人になって“ヨウカンモッテキタアルヨ~”言うのをどない思うてたん」
「申し訳ない」
「ほんまにわかれへんがな!どないなっとんねん」
「お父んが言うにはな、それ賄賂やて」
「全然ちゃうやないか、特捜に通報せな、もうええわ、ありがとうございました~」
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