いやぁ走るねえ、田中初音67歳(@『てっぱん』)。富司純子さん64歳。12月1日で65歳。余計なお世話か。
バックに井上尭之バンドが流れてくるかと思った。“皇潤”のエバーライフが音羽屋に速攻オファーの電話よこしたらしい(妄想)。たまたま帰ってきていた寺島しのぶさんが「おとといおいで下さい」とガッチャン断ったらしい。それもフランス語で(もっと妄想)。
前夜、あかり(瀧本美織さん)が皮剥きのお手伝いして「ポロポロぽろぽろこぼしな」とたしなめられていたグリンピースが、あかり退去後思いがけないところから出てきて、このまま尾道に帰したらあかん!と思い立ち追いかけるくだりは、ベッドの下でピアス拾った男と女のラブストーリーみたいでしたな。追いかけて「あかりーー!」「おばあちゃーーん!」と抱き合ったりなんかはせず、「うちの忘れもんや、ひと言言わせてんかっ!」「大阪で立派にやっていけるとこ見せてほしい、あれはハッタリか!」「ハッタリ違う!」と売り言葉に買い言葉。本当に面倒くさいツンデレ母娘。じゃなくて祖母孫。
初音さんが、手放しで情愛開けっ放すのをみずから封印、きわめて自己流に“スジを通そう通そう”と突っ張っている一方、あかりちゃんも実の母とわかった千春さん(木南晴夏さん)のことをもっと知りたい、初音ばあちゃんにいろいろ訊いてみたい気持ちはますます高まっているんだけど、開かずの間を開けた(て言うか鍵壊した)だけで、「あんまり掻き回さんといてんか」とお祖母ちゃんせつなそうだったし、何よりあかり、尾道の村上家家族が大好きです。お父ちゃん(遠藤憲一さん)が挙動不審になるほど激昂し、お母ちゃん(安田成美さん)が間に入って胸を痛めるなら、自分は不本意でも、淋しくても、あえて“その件には触れない”でいい。あかりちゃんが気い遣いの外柔内剛とすれば、初音さんは自分の中で“スジ”と思えることを通すためなら、外の人から「いけず」「頑固」の謗りも甘んじて受けようという、言わば外剛内剛。どんだけゴーだ。「お腹すいた~」と言われたときだけ“柔スイッチ”が入るのね。
このドラマ、たとえば今日(16日)放送分の上述の場面でも、セリフだけ聞いていると理屈っぽいのですが、初音ばあちゃんに扮する富司純子さんの、突っ慳貪でも不愛想でも、どこか気品のある空気感でもっている部分が大きいと思う。声に出すセリフより、こっちを向いていた顔をそむけるときとか、反対に、声をかけられたり気配を察して振り返るときの首の角度や、身体の方向を変える際の目線の切り方、残し方の加減が本当に素晴らしい。顔の映らない、後ろ姿、あるいはお辞儀姿などに至ってはもう反則級です。
富司さんって、“藤純子”時代はもっぱら東映任侠映画でご活躍のイメージが強く、当時のそれ系映画館は子供には縁がなかったですから、ワイドショーの司会でもなくトークゲスト梨園夫人でもなく、セリフをしゃべって役を演じている富司さんを継続して見るのは、月河、これがほとんど初めての様な気がします。こんなに“できる”人とは思わなかった。櫻井よしこさんの女優版みたいな、お上品爆弾の人だとばかり思っていたんだけどな。お見それしました。
このドラマ、制作の当初、ヒロイン役が決まるずっと前から「祖母役は富司さんに」がプロデューサーさんの念頭にありオファーしましたが、なにしろご存知七代目尾上菊五郎夫人ですから、夫君の舞台の初日と楽日はご自身の、泊まりを伴うロケ仕事などは入れないように長年スケジュール管理をされているそうで、それもあってかヒロインオーディションまでにOKの返事は来ませんでした。「富司さんダメかな…」と危惧しつつも、Pは“富司さんとの祖母孫2ショット”をイメージ、多数の応募の中から選んだのが瀧本美織さんだったそうです。
その後、めでたく富司さんから出演快諾が得られ、今般の名(?)コンビ誕生へ。設定上の主人公はあかりちゃんですが、作品の中軸はむしろ富司さんの初音ばあちゃんかもしれない。存在すら知らなかった自分の家族がひょんなことから身近に出現。あかりのほうは血のつながり以上に強い愛の絆で結ばれた尾道の村上家家族がいますが、初音さんの唯一の家族だった千春さんはすでに亡いことがわかってしまった。取り返しのつきようもなく途切れた絆を、孫のあかりを通してどう取り返し、開かずの間にした心の錠前を開け解きほぐしていくか。これは67歳の成長小説、遅れてきた“ビルドゥングス・ロマン”なのです。
14日(木)放送回、「お好み焼き屋さんやっとったんですね、娘さんの名前を店に」といちばん触れられたくないところをつかれて思わずあかりの頬を張ってしまった手を、18年前の回想とともにじっと見つめる場面では、つい富司さんと、愛嬢の寺島しのぶさんとを重ねて見てしまいました。あまり芸事が好きではないのかな?と思っていた娘が女優の道を選んで、文学座研究生となり、退団して映画に出はじめた頃はポジティヴに見守り応援しておられたでしょうが、全裸濡れ場シーンを演じると聞かされたときには、頬を張ったりは(顔が命の女優さん同士でもあるし)さすがになくても、「母子の縁を切る」までは実際やりとりがあったそうです。
富司さん自身も、刺青の女侠客“緋牡丹お竜”は当たり役にこそなりましたが、当初は背肌を露出するのに自分の中で大変な葛藤があったとのこと。しのぶさんの覚悟の挑戦に、女優としてのかつての自分と、母親としての現在の自分がどれだけざわめき、心波立ったことか。
“母と娘の修羅”を踏み越えてきた富司さんだからこその初音役。プロデューサーさん、このキャスティングにこだわった成果はありましたね。
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