『わるいやつら』(←どうでもいいんですが、コレ、入力に、“kakko”“waruiyatura”って打ってるんですね。自分でいま気づいて脱力笑い)も残すところあと1週。
前週、第6章終盤で生存が明らかになった豊美、予告テロップから“史上最悪女誕生”と謳っていましたが、山林を裸足で生還→チセ料亭に現われるまで、どんな心境の変化があり、服装や化粧にどう反映したかのプロセスを一切合財すっ飛ばして、それまでのオンザ眉毛切り下げ前髪薄化粧から、いきなりワイルドな逆毛アップにフルメイク、銀狐毛皮コートで登場という荒ワザ。
そのかわり、すっ飛ばされた時間をつなぐリンクとして、扼殺未遂生き埋めを生々しく想像させるグレタ・ガルボばりのしわがれ声と、喉もとにトゲの様な爪跡を残した扼痕、というツールを使いました。突然の変身を唐突過ぎると感じる向きもあったでしょうが、これはナイス演出判断。前週ラストの朝靄の彷徨“闇から光への再生”場面と「私は一度死んだのです」のナレーションで十分過ぎるほど。これ以上説明するとくどい。
そこから一気に重石が取れたようにリッチゴージャスになった豊美の服装もなかなか考えてある。扼痕が治癒するまでは喉もとを隠す衿の詰まった服で通し、みずからを奮い立てるように復讐に傾注していく思い詰め感、息詰まり感を演出。
戸谷病院買収のため結託した下見沢弁護士を誘惑し、自分で喉をさらけた場面では、黒赤紫にぼやけた内出血痕と、目尻を強調した黒太アイラインとの相乗効果で、“吸血鬼になりかけ”みたいな殺気がありました。
米倉涼子さん、地顔はタレ目なのかな。看護師時代の薄化粧より、フル塗って目描いて付け睫毛してるほうがどっかタヌキ顔というか、田舎顔というか、ツッコミどころの多い愛嬌顔になるんですよね。
隆子のアトリエに乗り込んで豪華ドレスを買い込む段階で初めて喉首解禁。ホルターネックの銀灰色の薔薇柄ドレスなど367万円也(←電卓見せた時の隆子、喧嘩売ってる顔)のお買い物、でもその先も終盤まで黒×白メインのモノトーンで、モノトーン以外の服は一着も着ませんでした。
看護師時代の私服も、質素なりにモノトーンだったので、豊美がもともとカラフルな服を好まないという裏設定があるのかもしれませんが、1章で戸谷から突然プレゼントされた深紅のタフタのドレスと対照的で、どこか修行僧のようなストイックさも感じさせます。“高温になるほど白くなる炎”とでも言うか。
一方、豊美チセ・下見沢&隆子の変則タッグに縦横に翻弄され転落まっしぐらの戸谷も虚脱感あふれて実にいい感じ。堕ちる男はこうでなくっちゃね。特にチセに「あんた温泉に来とったの?」と図星さされて「勘だよ」ととぼける顔ったら。悪ガキがオカンに「あんたここにあった饅頭食べたでしょ!」と言われて、「ん゛ーん゛」とクチいっぱいにして首振ってるのと一緒だっつの。テーブル叩いて大爆笑。もうね、上川隆也さんの持ちキャラと演技力が、日本ドラマ史上いまだかつてない悪役の新ジャンルを創り上げましたね。“権謀術数”とか“深慮遠謀”、“辣腕”などのイメージと対極の、刹那主義スーパーアホボンだめんず色悪。
そもそも、女から巻き上げたカネを別の女に貢ぎ、また巻き上げては借金返済にあて…みたいな自転車操業で、資金源の女に軒並み本気になられて迫られるようでは、本当の色悪、女蕩しとは言えないでしょう。“軽いノリ”ができないという戸谷の致命的な欠点は、上川さんならでは演じられない要素です。
初めてのエステマッサージを受けながら「私にはまだやらなければならないことがある」とつぶやく豊美の復讐のベクトルはどちらへ向かうのか。ラスト、ホテルロビーで戸谷と運命の再会しかけて、豊美のあずかり知らない、戸谷の骨董茶碗ネコババ容疑で連行しようとする刑事に間を裂かれた場面が象徴的に表わしていたように、“復讐”を見つめる豊美の視野には、司直による法的裁き、量刑、厳罰などのタームは無いと思います。どういう方向性、手段を選ぼうと、彼女は結局(戸谷に埋められる前日、下見沢に事務所で仄めかしていたように)“自分の手で”やり遂げなければならないのです。
ここへ来て残り1章というストーリーテリングのテンポがちょっともったいない気もしますが、それ以上にもったいないと思うのは、いまだ米倉さんを『黒革の手帖』『けものみち』のアグレッシヴなイメージでしか見ることができず、「米倉は豪華な衣装を取っかえ引っかえして巨悪相手にわたり合ってこそ」と思い込んで、1~5章までの地味な看護師としての豊美はぜんぶ“前置き”“助走”と思ってしまう人が相当多そうだということ。米倉さんがどれだけ演技的に脚質を広げているか、ちゃんと見てさえいればちゃんとわかるだけに、これは非常にもったいない。
特に1章、「なんて医者だ」と思っていた遊び人院長に苺詰められ→夜勤明けvs.情事帰りの車窓越し会話→朝市で魚モリモリ(←「すぐ眠りたい」と言っていたのに)→ひとりワンルームに帰って白衣干し…辺りの、マグマのような感情の揺らぎ表現は、抑えた演出とともに見事で、同章終盤に龍子が乗り込んできてからの豊美大爆発に気脈をきちんとつなげる重要な役割を果たしました。ドラマの“地固め”に当たるこういう芝居を「本領発揮してない」「イメージと違う」としか感受できない人は本当に損だと思います。
関わっては危険な男に本気になってしまった豊美は、自分の利得にはひとつも結びつかない、ある意味“純愛”に生きる女性ですが、健気に楚々と、黙々と耐える純愛ではなく、「理解できません!」「イヤです!」「大っ嫌い!」「いい気味よ!」と吼え、抗(あらが)い、戦う純愛。これも、米倉さんが演じたからこそリアルなキャラになったのです。
最終章、豊美は色のある服を着ることはあるのでしょうか。
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