次クール昼ドラ『白と黒』の脚本情報から坂上かつえさんのお仕事・99年放送火サス『女優』を先週視聴しましたが、主演されていた毬谷友子さん。
劇作家矢代静一さんのお嬢さんで元・宝塚歌劇団娘役OGなのは情報として存じ上げていました。ご卒業後のTVドラマでは『せつない探偵・柚木草平シリーズ』タイトルロール鹿賀丈史さんの恋人(かつ女性キャリア捜査官)役で、ちょっとお間抜けカワイイ雰囲気をよく出しておられましたが、他にも何か忘れ難い役どころがあったな?と思ってここ2~3日ずっとヒマヒマに考えていたら、思い出しました中村吉右衛門さん版『鬼平犯科帳』第8シリーズでのゲスト出演。
エピソードタイトルは『はぐれ鳥』だったと思います。仇討ちのため剣術修業を志願、ゼロから執念で兄弟子たちを凌ぐ使い手に成長、女を捨てて男装し男として生き、遊女屋で女を買う“はぐれ鳥”となる初子→津山薫。
詳しい経緯は忘れましたが、心ならずも急ぎばたらきの盗賊一味とかかわりを持って鬼平率いる火盗改に追われる身となり、最後にかつての同じ道場の剣友でいまは火盗改配下の同心となっている吉見丈一郎の手にかかることを望む、悲運の女剣士。
やすらぎを求めて本気で愛したぽっちゃり女郎役・ピンクの電話竹内都子さんも意外にいい味を出していましたが、最後に涙をのんで薫に止めをさす吉見役が、『女優』では毬谷さんのアホなフィアンセ役だった羽場裕一さん。
放送日時で言えば、『はぐれ鳥』が『女優』の約1年以上前だったはず。道場時代からひそかに想っていた初子を賊一味として捕縛せねばならない立場となって、任務と情との板挟みに悩み、かつて初子とともに仰いだ剣の師の墓前で、平蔵と語らい夜を明かす場面は、“ちょっとヤなやつ”“ハラにイチモツある奴”役の多い羽場さんには珍しい、切々と胸を打つシーンだったと思います。
何より80年代、当時の宝塚男役トップ麻実れいさんの相手役として、娘役トップを熱望されつつかなわなかった毬谷さんを、あえて“男装の(背徳の)麗人”にキャスティングした鬼平スタッフのチャレンジスピリットもなかなか。
ちなみに原作の池波正太郎さんは、現代で言うジェンダーの問題にはきわめて寛容で、たとえば鬼の平蔵も、悪は悪、邪は邪として作中できっちり裁き、時には斬り捨てて容赦なく応報を与える中でも、女が男のなりをして男の行動をしたり、男が女の化粧をしたりする性向・行動には「それはそれで、そういう者もあろう」と受け容れ、そうした志向のみをもって悪風や醜態と排斥したり、否定したりはしませんでした。
愛妻家かつ、いい女好きでもある鬼平、火付け盗賊には峻烈でも、セクシュアルな方面はきわめてリベラルでさばけていたんですね。
同じ『鬼平』の第5シリーズ『市松小僧始末』ではやはり剣術に秀でた男勝りの町娘として女子プロレスの長与千種さんが、気弱ながら律義な盗っ人春風亭小朝師匠を相手役に豪放にして凛烈、かつ可憐な芝居をしていたし、『一本饂飩』では石橋蓮司さん扮する、いまで言う計理士になりすまして大店に入り込む知能犯盗賊が真っ向から「妻子がないのも道理、あれは男色です」と言われるキャラでした。
『剣客商売』では、レギュラー主役のひとり、老中田沼意次妾腹の愛娘・三冬(大路恵美さん→寺島しのぶさん)がいきなり男装の麗人です。第何話めかのエピでは伊原剛志さんが『眉墨の金ちゃん』というやがて悲しきヴィジュアル系刺客を演じてもいました。
いずれも作者のフォーカスは彼らの異形性や性的マイノリティぶりに揶揄や好奇のニュアンスをまじえず、なぜそうなったかの背景、心理を描出する筆もさらっとしていた。あるときは人としての滑稽味、諧謔味をたたえ、あるときは哀傷をふくめて、リスペクトに満ちた温かい描き方だったと思います。
99年本放送の『女優』を録画視聴してみて、『鬼平~』での美剣士・毬谷さんをもう一度見たくなりました。回想場面で仇討ちの気概を胸に道場に入門する清らかな武家娘と、命賭けで追いつめたはずの宿敵が実は…と知って抜け殻となったのちの虚無的なまなざし、両方とも実によかった記憶があるんですよね。
いつか近いうち、当地でいま再放送中の『危険な関係』での姿晴香さんのような役どころで昼ドラに…なんて思ってしまうのが月河の悪い(のか?)癖ですが。
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