サイモンとガーファンクルの明日にかける橋のCDを取り出し久しぶりに聞いてみた。昨年発売のボックス・セットで復刻された紙ジャケットのやつ。
1970年発売されたこのアルバムは、アメリカイギリスだけではなく欧米各国ではチャート1位を獲得(日本、オリコン11位)。
また、アルバムからカットされた4枚のシングル(ボクサー・明日にかける橋・セシリア・コンドルは飛んでいく)は、それぞれ7・1・4・18位と大ヒットを記録。
改めてその内容に触れるまでもなく、多くのリスナーが賞賛した素晴らしい内容の大ヒットアルバムだった 。
少し状況は異なるが、ビートルズがアビー・ロードを出した時のように、完璧なアルバムを作ってしまうと、 リスナーは次作にさらに進化したアルバム、最低でも同等レベルのものを期待するのは常で、 その制作にかかるプレッシャーは並大抵のものではなくなる。
息抜きがどうしても必要となり、バンドであったら、全てをやり尽くしたと言うような理由で解散もしくは活動停止と成る。また、ディープ・パープルのように、メンバーを入れ替えて 目先をかえ、バンド存続を計る例もあるが、そのような努力をしてもどこかで バンドを継続していく事に行き詰まる。
その観点から考えると、ストーンズというバンドは、すごいバンドだと思う。
彼らが新しいアルバムを制作する毎に、前作を超えて進化しなければならないというプレッシャーがあったかどうか、知る術はないが、ベガーズ・バンケットを出した頃から、それまでの音作りではなく原点回帰を目指したように思えるのだが…
その後に出すレコードは、その時々のトレンドは消化吸収し、ストーンズなりの解釈で楽曲に表現するのだが、基本的にはやっている事はそれほど変わってはいないように感じる。すなわち少し言葉は悪いかもしれないが、“偉大なるマンネリ”とだ思う。
マンネリとは、英語のマンネリズム(形式もしくは様式主義)が日本語になったもので、日本的な意味としては“飽きが来る”とか“ネタ切れ”とかの否定的な意味に使用される場合もあるが、マンネリこそが長続きの秘訣であると思う。
日々の生活は、マンネリの連続で特別の出来事はそれほどない。変化の連続で毎日が充実しているなどと言う人もいるが、それはあくまでも対応の出来る変化に対してである。もし対応する事のできない大きな変化が連続してその身に起きる事になると、大抵の人はプレッシャーに押し潰され事になるのでは…
あまり意識しないで ルーティーンに沿った行動で、日々の時間を着実に消化していく事により、長続きが出来るでは?
ところで昨今の紙ジャケCDは完全復刻を目指していて、このCDにも米オリジナルのレコードに添付されていたと思われる、インナーが再現されている。それの裏を読むと、
インナー表
インナー裏
THE BEST FOR LESS
録音された媒体(メディア)の中では、レコードは最高の品質であり且つ安価である。
オープン・リール・テープは、音質は良いが値段が高く、コンパクト・カセットはオープン・リール・テープと比べると、当時音質的にはまだかなり差があったのと、また再生装置であるコンパクト・カセット・デッキが一般に普及していない高価なものだった。
THEY ALLOW SELECTIVITY OF SONGS AND TRACKS
再生するためセットされた面において、トーン・アームを移動させるだけで、好きな位置から瞬時に再生出来る。
THEY’RE THE TOP QUALITY IN SOUND
表面上は1948年に導入された当時の技術にみえるが、数え切れない進化した技術の導入により、音楽再生媒体としてLPレコードはベストの品質であると言える。
THEY’LL GIVE YOU HOURS OF CONTINIOUS AND UNINTERRUPTED PLEASURE
オート・チェンジャーのレコード・プレーヤーを使用することにより、数時間の再生継続がレコード交換の手間なしに楽しむことが出来る。
昔、数枚のLPレコードがセットできたオート・チェンジャー・プレーヤーのことであろう。再生が終了すると、トーン・アームが元の位置に戻り、上から別のレコードが一枚ずつ落ちてきて再生をスタートするやつである。
THEY’RE ATTRACTIVE, INFORMATIVE AND EASY TO STORE.
オープン・リール・テープと比べて、収納に場所を取らないのと、ジャケットのデザインを楽しんだり、ジャケ裏に記載された曲の情報や解説を読むことが出来る。
IF IT’S IN RECORDERD FORM, YOU KNOW IT’LL BE AVAILABLE ON RECORDS
音楽だけでなく、映画、コンサート、ドラマなどの長時間の記録可能な音源であれば、それらはLPレコードという形で発売され、手に入れる事が出来る。
THEY MAKE A GREAT GIFT
思い出になる贈り物にはぴったり。
などなどと記載されていて、デジタル時代到来のはるか昔の、60年代から70年代にかけてのレコードの時代がよく表現されている。
アナログ・サウンドの波形にほぼ近似させる事の出来るデジタル・ハイレゾ音源の登場によって、LPレコードの優位性はあまりなくなったにも関わらず 、LPレコードは今でも細々ではあるが製造されてる。
当然、小さなCD紙ジャケから得られる事のできない、 オリジナル・ジャケットのアートを楽しむ事や、記載されているデーターを読んだり出来る利点があるのもその理由の一つだが、それ以外にレコード音源の再生準備における余計な手間や再生装置のある室内でしか聴く事の出来ない不便さなどを、懐かしみまた楽しんでいるのでは…
シンプルなハイレゾ音源の再生においてマンネリを感じ、不便で手間の掛かるアナログ再生に回帰しているのだろうか?
レコードというメディアがCDの登場で完全になくなるのかと思いきや、趣味とは便利さや効率などでは捉えられない奥の深い世界であると感じる今日この頃でした。