その彼が、80年台の始め頃に、お奨めの冒険小説を取り上げ、“読まずに死ねるか!”というタイトルでコラムを雑誌に書いていた。
私もそれに感化され、志水辰夫に船戸与一、それから逢坂剛、佐々木譲、大沢在昌、馳星周やジェーソン・ボーンのロバート・ラドラムらの文庫本を当時読み漁り、ハード・ボイルドの主人公に憧れた若き日があった。
しかし現実は、早く食べたいがために、ハード・ボイルドになり損ねた熱々のゆで卵の殻をむいていると、殻に白身がごっそりと引っ付いてきて、その奥から流れ出たドロドロの黄身が掌に漏れ出し、思わずアッチー!。
ハード・ボイルドの主人公とは正反対の間抜けさが漂う。
ところでクラッシック・ロックで“聴かずに死ねるか!”となるとどうなるだろうか?
まあ、特にロックに興味のない方々は、別に聴かなくともど~って事は無いのだが。
無難なところでは、ビートルズ全集買って順番に聴いて行く。
お金と時間が~って言う人は、例の赤盤・青盤の二枚組もしくはシングル盤を集めたBeatles 1はいかが~ってことになる。
博士:月並みな事言ってもらうのは困るのう~
ワシなんか、1973年に出たイエスの6枚目のアルバム、海洋地形学の物語(Tales From Topographic Oceans)なんて一押しじゃ!
助手:当時LP2枚組で発売され、各サイドに20分程度の長尺曲1曲のみが其々納められているやつですね。
博士:その通り!A面 神の啓示(20:27)、B面 追憶(20:38)、C面 古代文明(18:34)そしてD面 儀式(21:35)となっておる。
このレコードをオン・タイムで買った当時は、パイオニアの密閉型ヘッドフォン装着しどんな音も聞き逃すまいとアンプの前に正座して聴いておったものじゃ。
助手:で、どうしてこれが“聴かずに死ねるか!”なんですか?
博士:いや~、“聴かずに、私(し)寝るか”って事じゃ。
今や、聴いている途中にちょっと退屈してしまって、最後まで聴かずに寝てしまうようになったのじゃよ。
助手:単なる駄洒落ですか?
博士:まあその様な側面もあるが、このアルバムの構想は、インドの宗教の経典がヒントになったらしく、出だしからお経のようなサウンドが展開するのじゃよ。
これって、法事でお坊さんの長尺な読経を後ろで正座して聞いていているように思えるのじゃよ。
退屈で眠たくなるの我慢し更に足の痺れと格闘しながら数十分お経を聴いていて、聞き慣れたフレーズがお経の中に再度登場し読経もクライマックスを迎える。
読経無事終了し、眠気と足の痺れから開放されると何か修行を終えたホッとした気分になるのじゃ!
しかし歳をとるにつけ同様に集中力も無くなり、そうもいかなくなったのう~と言う事じゃ。
助手:なるほど、イエスを極めるにはかなりの修行が必要なわけですね。
博士:その通りじゃ。
真のイエス・ファンなら、少なくとも2015年に出た、ほぼ同じ演奏形態を収めた1972年の7公演のCD14枚組みライブ・ボックス・セット、Progenyは一気に聴いてもらは無いと困るのう。
さらに極めつけは、2016年に出たブルーレイと3枚のCDからなる海洋地形学の物語、決定版じゃ! 4枚のディスクにトータル10数時間のオリジナル海洋地形学の物語の同じような音源がこれでもか~とてんこ盛り!
イエスのファンならこれを一気に聴かずに死ねるか!
助手:イエス様、どうかお許しのほどを…