一ヶ月前から排水管が詰まり、逆流するようになってしまった。
今を遡るほど一年半前も同じようなことがあり、クラシアンにお世話になった。
原因は髪の毛だった。あれからずっと、排水口に網状のシールを貼って気を付けていたんだが、駄目だった。
午前中、クラシアンのサービスマンが来てくれるというので、早起きして玄関と風呂場を必死に掃除した。
玄関と風呂場だけは、なんとか人様に見せられるようになった。
予定時刻までに化粧とブローを済ませた。
気分はもう、愛しのダーリンが我が家に来てくれるというシチュエーション。
ドキドキ。
玄関付近の臭いが気になり、香水とか撒き散らしてみる。
最終チェックにも余念がない。
ピンポーン。
クラシアンのサービスマンだ!
ドアを開けると、なんとも素敵な殿方がっ!
「こんにちは!」
すっげースマイル!
「ようこそ」
意味不明なウェルカムビームを発し彼を迎える私。
クラシアンのサービスマンは、早速見積もりを出して、作業に取り掛かる。
その間、私は居間にて「アッコにおまかせ!」を観ていた。
いや、観ているふりをした。
ドアを一枚隔てたところに殿方がいる!
しかも排水管の詰まりを直してくれるという未知なる行動力、…殿方免疫がない私はその強い力にクラクラしてしまうんである。
「終りました」
サービスマンさんは満面の笑みで、水を流し、排水が詰まっていないことを披露してくれた。
「女性は髪が長い方が多いので、排水管が詰まりやすいんですよ」
と言われた。
「そうなんですかー。私、自分のだらしなさを責めちゃいました。てへっ」
少々、可愛い女子っぽく微笑み返す私。
はっきり言って、目の前の殿方は私好みではない。
だが、しかし。
パブロフのワンコみたいに、私は殿方に接するとこのような条件反射をしてしまう。
しかも、私には為し得ない「排水管を直す」という行為自体で既に私は彼をリスペクトしているんだから。
料金を支払い、作業確認のサインをする。
「では。また何かあったら駆け付けますので!…って、何も起こらないのが一番なんですけどね~(キラッ←歯が光る擬音語)」
と、サービスマンさん。
帰っちゃうの?
恐らく彼とは二度と会わない気がする。
一期一会ね。
春の日曜日、都会の片隅ですれちがう私と…あ・な・た。
そんなのもアリね。
さみしいけど。
さよならだけどさよならじゃない♪(←やまだかつてないWink)
サービスマンさんがドアに手を掛けたその瞬間!
ドアの内側に備え付けてあるポストが突然開いたんである!
ドサっ、ドサドサ…。
中からは、埃っぽいチラシやわけわからん書類が次から次へと出てきた。
ちょっとした雪崩。
春だから雪崩も起こってもおかしくないわな。
ぼんやりと考えつつ、ふと冷静になってみる。…ええっと、最後にここを開けたのは記憶にないほど太古の昔…。
サービスマンさんは必死に謝り、その埃っぽい書類を拾ってくれた。
ああ、なんて骨体…。チェック甘かったなあ、自分。
こんな適当人間だから排水管が詰まるんだわ…。
大量の私の毛髪と共に、サービスマンさんは去っていった。