柳美里さんが、ご自分の、直近の岸田國士戯曲賞の選評を、賞の主催者・白水社が公式サイトに掲載しないということから、選考委員を辞した。そして、その選評と経緯を説明する文章が、2021年9月21日刊行『ゲンロンβ65』に掲載された。
同賞の最年少受賞者である柳美里さん同様、この賞は二十代の私を初めて公式に認めてくれた場であった。感謝している。かつて二期六年にわたり同賞の審査員を務めたこともある私だが、今回のことでは、白水社さんに対しては、ただ素朴に、「掲載すればいいのに」と、思う。彼女の選評を「イレギュラー」なものと捉えたのかも知れないが、私の感じるところでは、ここ二十年くらいの間、白水社さんこそ、ある意味、岸田賞に於いては、受賞作に対して「イレギュラー」を求めてきたのではないか、とも思うからだ。その話は長くなるから、やめておく。
本文中、柳さんの、
「物書きだって、米を買う。パンを買う。(中略)〜宿泊費、宅配便代、切手代、冠婚葬祭の香典、結婚式の祝儀、お年玉、喫茶や飲食などの交際費も馬鹿にならない。」
という、暮らしの中で何にお金がかかるかという、細かく長い記述が面白いし、
孫引きされている高樹のぶ子さんの芥川賞選評「絶対文学と文芸ジャーナリズムの間で」、
「作家は自分の中に絶対文学とも呼べるものを持っている。ほとんど生理的なレベルで。」
で始まるこの文章が、読みがいがある。
もちろん意見はいろいろ違うはずだが、柳美里さんのこの文章に私は励まされるし、読めて良かったと思うし、彼女の存在を貴重に思う。
第65回岸田國士戯曲賞に寄せて|柳美里(2021年ゃゃ9月21日刊行『ゲンロンβ65』)
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https://genron-alpha.com/gb065_02/?fbclid=IwAR3Kcpmviys64a7Wn2koELmBER8oJ7cBB1teFioYl3imJKZA7hA_hPt9TXQ