『わが友、第五福竜丸』には、「乳歯検証ネットワーク」という団体が登場する。
その職員を演じるのは、南谷朝子。(撮影・姫田蘭)
ストロンチウム90は骨や歯に蓄積しやすく、とくに胎児には影響があると言われる。もともと自然界にはないが、カルシウムと似て体内に取り込まれやすく、半減期は三十年近く。
乳歯が生えるのは八ヶ月から三歳半頃までに二十本。抜けるのは六歳から十四歳くらいまで。「前歯が四本以上、奥歯なら二本以上」揃えば、乳歯を診る機関に送ると、受け付けてくれるという設定。
じっさいに、そういう組織は複数、存在する。
土佐で知ったのだが、ビキニ界隈で被ばくした漁師たちは、歯茎から血が出て、一般よりも早く、四十過ぎたら次々と歯が抜けて、総入れ歯になっていることが多いという。歯というのは、そういう宿命があるのだ。
さて、乳歯を最初に集めたのは、一九五〇年代、ネバダ州で百回もの大気圏内核実験が行われたさい、子どもたちの心配をしたアメリカの母親たちだという。風下のユタ、アリゾナに放射性降下物が降り、影響はアメリカ全土に拡がった。子どもたちの健康を心配したセントルイスの医師ルイーズ・ライスさんたちが乳歯収集プロジェクトを開始、のべ三二万本もの乳歯を集めて分析、子どもたちの被爆が証明され、科学雑誌に載ったその記録を送付するという直訴を受けたケネディ大統領が、一九六三年、イギリスとソ連に働き掛け、大気圏内核実験禁止条約を締結した。たいへんな大英断だが、それがケネディ暗殺の原因じゃないかという人もいるらしい。
アメリカではビキニでの被ばくの事実はなかなか伝えられず、国民には浸透しなかったようだ。本当のこととは思われないという方が多いと思うが、ネバダから八〇キロ離れたラスベガスでは、「核実験ツーリズム」が大当たりしたという。ホテルのプールサイドでグラス片手に水着姿の観光客がキノコ雲を見物してる写真や絵はがきが出回った。キノコ雲が観光の目玉だったのである。
アメリカという国は懲りていなくて、昨年も、そのネバダで、爆発を伴わない未臨界核実験を三回実施した。計画したのはトランプ、実施したのはバイデンである。それが現実である。
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燐光群創立40周年記念公演 『わが友、第五福竜丸』 東京公演は11月26日までです。
今回は、全国六都市のツアーがあります。
燐光群『わが友、第五福竜丸』上演情報です。
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