Blog of SAKATE

“燐光群”主宰・坂手洋二が150字ブログを始めました。

『朝、目覚めると、戦争が始まっていました』

2018-08-18 | Weblog

「あの日のこと。」と、帯にある。

太平洋戦争開戦の日を人々がどう迎え、どう受け止めたのかがまとめられている。

 

「ものすごく解放感がありました。パーッと天地が開けたほどの解放感でした。」(吉本隆明)

「今日みたいにうれしい日はまたとない。うれしいというか何というかとにかく胸の清々しい気持だ。」(黒田三郎)

「僕は、アメリカとの戦争が始まったとき、二、三の客を前にしながら、不覚にも慎みを忘れ、「ばかやろう!」と大声でラジオにどなった。」(金子光晴)

「清沢は「けさ開戦の知らせを聞いた時に、僕は自分達の責任を感じた。こういう事にならぬように僕達が努力しなかったのが悪かった」と、感慨をもらした。」(正宗白鳥)

 

等々、知っているものもあったが、知らなかったものもある。

漫画一冊よりも早く読める軽さだが、内容は重い。

受け止めやすいだろうから少年少女に贈りたいが、大人こそ読むべきだろう。

過去の戦争のことよりも、昨今の、違憲の集団的自衛権合法化の動きや共謀罪にまつわる騒ぎ、そういった事態にどう態度表明をするかというとき、私自身が味わった孤立感、そして理不尽さに対する怒りがこの世の中に浸透していかないいたたまれなさに、思いが至る。この頃と今と、どう違うというのだろう。

 

 

以下、方丈社ホームページより。

 

あの日のこと。
昭和16年12月8日、太平洋戦争勃発。あの日、日本人は戦争をどう感じ、何を考えたのか? 当日の知識人・著名人の日記、回想録から偽らざる戦争の実感を甦らせる。
付録:太宰治短編小説『十二月八日』。

「きょうの日記は特別に、ていねいに書いて置きましょう。昭和十六年の十二月八日には日本のまずしい家庭の主婦は、どんな一日を送ったか、ちょっと書いて置きましょう。もう百年ほど経って……こんな生活をしていたという事がわかったら、すこしは歴史の参考になるかも知れない。」(太宰 治『十二月八日』より)

 

◆ 目次

ラジオニュース(午前七時) 
吉本隆明/鶴見俊輔/加藤周一/黒田三郎/ピストン堀口/新美南吉/岡本太郎
ラジオニュース(午前十二時・東條英機首相演説) 
野口冨士男/竹内 好/埴谷雄高/保田與重郎/中島敦/火野葦平/亀井勝一郎
ラジオニュース(午前十二時三十分①)
高見順/坂口安吾/伊藤 整/神山茂夫/木山捷平/阿部六郎/古川ロッパ/島木健作
ラジオニュース(午前十二時三十分②) 
今日出海/山本周五郎/上林暁/中野重治/矢部貞治/井伏鱒二/横光利一
ラジオニュース(午後三時) 
尾崎士郎/金子光晴/獅子文六/近衛文麿/河合栄治郎/清沢洌
ラジオニュース(午後五時) 
青野季吉/中江丑吉/室生犀星/木戸幸一/長与善郎/折口信夫/木下杢太郎
ラジオニュース(午後七時) 
東條英機/高村光太郎/秋田雨雀/斎藤茂吉/松岡洋右/永井荷風/正宗白鳥
ラジオニュース(午後九時)
真崎甚三郎/徳田秋声/鶯亭金升/幸田露伴/徳富蘇峰
「十二月八日」太宰 治 
略歴一覧
解説:武田砂鉄

 

◆ 編集者からひとこと

 意外なことだが、知らないうちに始まっていた太平洋戦争に、多くの国民、知識人は感動した。戦争を体験したことのない世代が、ほとんどとなりつつある現在、日本が体験した直近の戦争を振り返り、「あの日、日本人は戦争をどう感じ、何を考えたのか?」を追体験してみるという意図のもとに、本書は編まれた。太平洋戦争の勃発に、短編小説『十二月八日』で応えた太宰治は、こう書いている。「きょうの日記は特別に、ていねいに書いて置きましょう。昭和十六年の十二月八日には日本のまずしい家庭の主婦は、どんな一日を送ったか、ちょっと書いて置きましょう」。太宰治が書き、伝えようとした言葉を、77年後の私たちは、どう受けとるのだろうか。

 

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メガソーラー、海を埋めつくす

2018-08-17 | Weblog

瀬戸内市・牛窓オリーブ園の、メガソーラー建設中の現場を見下ろす牛窓の山頂に、久し振りに立った。

もともとパラグライダーの飛び立つ台のあった場所である。

一昨年の燐光群公演『天使も嘘をつく』の劇中に登場する「セノウチ市のメガソーラー」のモデルである。

錦海塩田跡地に、国内最大級の太陽光発電施設「瀬戸内Kirei太陽光発電所」。80万枚を越える太陽光パネル。直接面積だけで、東京ドーム10個分だという。

建設はどんどん進んでいて、本当に、かつて海(塩田)だった場所を埋め尽くす真っ黒なパネルの広大さに、茫然とする。

塩田時代の印象は「海」だったわけで、ずいぶん違う世界に見える。

最近、水害のあった岡山。この地域は安泰だったが、堤防に守られた海抜の低い土地だけに、リスクを指摘する声はなくならない。

いよいよ操業開始が近づいてきている。再生可能エネルギーによる発電の成功例となるだろうか。

自然と文明が、折り合うかどうか。未来が、問われている。

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映画『憲法くん』

2018-08-16 | Weblog

映画『憲法くん』

8月15日(水)新文芸坐にての「先行スペシャル上映」に行く。

完全な初お披露目である。

渡辺美佐子×井上淳一監督の「スペシャル・トークショー」も。 

映画ではカット割りされているが、美佐子さん、憲法前文をすべておぼえたのである。すごい。

戦中、戦後を生きてきた美佐子さんが語る冒頭の決意というか覚悟が、圧巻。

PANTAの音楽がまたとてもいい。

12分の短編。ぜひ劇場で観てほしい。

 

 

以下、情報。

「ヘンなウワサを耳にしたんですけど、ホントですか? わたしがリストラされるかもって話?」

芸人・松元ヒロが20年以上公演している日本国憲法を擬人化した「憲法くん」を完全映画化。

作:松元ヒロ  主演:渡辺美佐子  音楽:PANTA  監督:井上淳一 製作・配給:ドッグシュガー 

 予告編

https://www.youtube.com/watch?v=7RE07Ym_RLo&t=10s

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ブレヒトの芝居小屋「劇団移転 応援基金」のクラウドファンディング

2018-08-15 | Weblog

東京演劇アンサンブルは、1980年より約40年間拠点劇場としてきた「ブレヒトの芝居小屋」を、2019年3月公演を最後に閉じることになったという。

大家さんの事情らしい。

で、東京演劇アンサンブルは「劇団移転 応援基金」のクラウドファンディングを始めた。

詳細は、以下。

●移転応援基金にご協力をお願いします。募集開始2018年3月 一口2,000円から

●振込口座のご案内     有限会社 東京演劇アンサンブル

○三井住友銀行 武蔵関支店 普通 6621610

○郵便振替口座 00160-4-650062


で、かつて「ブレヒトの芝居小屋」で、東京演劇アンサンブルに招かれ、『荷』(写真 左=チョン・スンギル 右=ウ・ミファ)を演出した御縁で、私が「応援のためのインタビュー」を受け、それが記事になったので、ご紹介する。

https://camp-fire.jp/projects/84498/activities/60334#main

一昔前の自分の写真を流出させるのは、そろそろ終わりにしないといけないだろう。

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「争い、ひずみ、分断」をつくったのは日本国とアメリカであり、翁長さんではない

2018-08-14 | Weblog

9月30日投開票の知事選に向け、宜野湾市長の佐喜真淳氏(54)が14日、正式に出馬を表明したという。佐喜真氏は辞職願を提出後、報道陣に対して「元気で明るい、対立や分断から無縁な沖縄を取り戻すために全身全霊をかける」と決意を語り、「県民所得の向上など沖縄の発展に向けた県土づくり、沖縄の未来づくりが争点になる」とした、そうだ。翁長県政に対しては「国との関係などにおいて争いが絶えず、ひずみや分断が生まれてしまったことも事実だ」と述べたという。

佐喜真氏は辺野古新基地建設の是非については明らかにしていないが、「何よりも大切なのは普天間飛行場の危険性の除去で、継続使用があってはならない。移設先は後日述べたい」と語っており、立場は明らかだ。

「普天間飛行場の危険性の除去」と「新基地建設」は、直結することではない。なぜそれがわかないのか。

 

そして、もしも翁長県政に問題があると私が感じたとしても、それは決して、佐喜真氏が言っている意味では、ない。私は、翁長さんのやったことが「国との関係などにおいて争いが絶えず、ひずみや分断が生まれてしまった」ことの原因であるかのように語るこの人に、呆れてしまう。

すべては、日本国とアメリカが、撒いた種である。少なくとも翁長さんが向き合おうとしたために生まれた「争い、ひずみ、分断」である。

「県民所得の向上など」を求めるがために、戦時・戦後の苦難を忘れたかのように語るこの人に、沖縄の未来を託せるわけがない。

……そして、沖縄県名護市辺野古の新基地建設を巡り、政府が17日に予定している埋め立て土砂投入を9月30日の知事選以降まで延期することを検討していることが13日分かった、という。

国は県側に意向を伝えており、県は対応を検討している。国は翁長雄志知事が8日に死去したことを受け「喪に服す期間」への配慮としているが、知事選への影響を考慮したものとみられる。複数の関係者が明らかにした。らしい。

「喪に服す期間」はやらない、なんてきれいごとを言うが、要は、反発されて知事選に影響が出ることを恐れてできないと言うだけだ。

どうして「喪に服す」配慮がいるのだ。本当は正しくないということを、わかっているからではないのか。

土砂投入と県の撤回判断が知事選以降になれば、9月30日の選挙で選ばれる新たな知事が撤回の判断を下すことになるが、富川盛武副知事は記者団に、土砂投入前の撤回は「当然だ」と述べているという。やってくれるだろう。

まったく、当然だ。

 

 

 

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映画『立ち去った女』

2018-08-13 | Weblog

ずいぶん長尺という噂ばかりが聞こえてきていたラヴ・ディアス監督のフィリピン映画『立ち去った女』を、遂に観る。

第73回ベネチア映画祭金獅子賞受賞。モノクロ。四時間超。確かに長い。

アジア共同プロジェクトのメンバーで、マイレス・カナピに次ぐ燐光群最多出演のフィリピン女優マージ・ロリコが出ている(左)。チャロ・サントス・コンシオ(右)演じる主人公の娘役。

劇中、娘が七歳の時に別れた二人は、三十年ぶりに再会するのだ。

封切りでは見逃してしまったが、とにかく、特殊な映画だが、シンプルだ。

据え置きのカメラ、長回し。しかし、ドキュメンタリー・タッチだが、ふつふつと、たぎっている、何かがある。

途中から、プロットがぐぐっと巡って来る瞬間がある。それが見事である。

写っていないこと、画面の外で行われたことに、多くの意味がある。

これは、そういう種類の、まさに「映画的」な作品である。

ある意味、『カメラを止めるな』とは対極にある。しかし、まったく別な方法でだが(静がで、動かない)、パズルのピースが噛み合っていくクライマックスの過程は、あるのだ。

映画というジャンルは、幅広いし、やはり可能性に満ちている。

 

※ マージは、この映画ではかなり太っているが、我々との三年越しの共同作業『リタイアメン』の時はだいぶ普通の体型、最新の出演作の写真を見るとかなりほっそりしている。デ・ニーロばりに作品ごとに体型を変えているのかな。

※ ラヴ・ディアス監督の映画の近作で、ロディ・ヴェラがシナリオを書いてるものもあるはずだ。「あれは普通の長さのシナリオを書いたんだが」が、本人の弁だった。燐光群出演歴がノル・ドミンゴに次いで多いロディだが、オリジナル・シナリオの映画『ダイ・ビューティフル』も大当たり、映画人としても存在を確立しているようだ。

 

http://www.magichour.co.jp/thewoman/introduction/

 

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『カメラを止めるな!』観ました。

2018-08-12 | Weblog

世評の高い自主映画『カメラを止めるな!』観ました。

新宿のシネコンの、一番客席数の多い劇場が、前々日、既にほぼ完売。

すげえ。

で、満員の客席の一員となりました。 

70年代、演劇以前に、「自主映画」からこの世界に入ったと思うところのある自分としては、フィルムでなくデジタルで作った映画がこうしてど真ん中で劇場公開されるという時代の変遷に、驚嘆するし、いやいやこれは素晴らしいことだと、賛辞を惜しみたくない。

内容的には、思うことはいろいろ。

何言ってもネタバレになるから言わない、と、みんながなる、というのも、いいね。

アメリカの超低予算ホラー自主映画『ブレアウィッチ・プロジェクト』をパンテオン系(若い人はわかるまい……)でやった以来の快挙、でしょうね。

つくったのが「ENBUゼミナール」というのも、感慨深い。すごいことだ。

否定的な意見は言わない方が良い感じかな。

 

ただ、世間からオジサンが消えている現在、ジョージ・A・ロメオ監督『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』がどのような時代背景で生まれてどういう問題を含んでいるか、ということをよそに、今の「日本」の「ドキュメンタリー」としてのこの映画が存在する意味を冷静に検証すると⋯⋯、とか、言いたいことは山々で、いろいろ複雑です。

これはきっと、いずれどこかに書きます。

ある意味、批評的にはなるかもしれないけど。

でも、よかったなー、と言いたい。

 

ともあれ、少しでもこの「社会現象」的イベントに関心を持たれる皆さん、是非、ご参加ください。

この映画が今に存在することで、「夢」を見ることができる、と、思うことができる人が多く出て来るだけでも、素敵なことです。

 

 

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「九月、東京の路上で」まぼろしの冒頭シーン

2018-08-11 | Weblog

八月五日に初演の上演を終えたばかりの「九月、東京の路上で」だが、じつは、上演されなかった「まぼろしの冒頭シーン」がある。

イントロダクションということになっているが、「前説」「前口上」といわれるものに、近い。ドキュメント的な演劇なので、現実と地続きという感じを出したくて、設定したのである。

上演時間が長くなりすぎるのと、やはりスキッとダイレクトに内容に入った方がいいという判断でカットしたのだが、この上演を撮影してくれた姫田蘭さんにあらかじめ台本を読んでいただいていたのだが、「どうしてカットしたの?!」と繰り返し言ってくださるのと、スズナリの野田さんから「過去のスズナリについて語られたその部分を知りたい」というご要望もあって、ここで特別に公開させていただくことにした。

読んでおわかりになるように、当初の予定では日替わりで出演者が喋ることになっていたが、そのアイデアは割と早い時期に「無理だろうなあ」ということになった。というのは、それだけ「九月、東京の路上で」の内容そのものが始まってからが、たいへんだったからなのだ。その後、いちおう、当初のトップバッターとして構想していた、さとうこうじさんに、そのままやっていただくという案に落ち着いたが、やはりなくしてしまったのである。翻弄されながらも、ちゃんと台詞を覚えてくださったさとうこうじさんには、感謝しかない。

その「まぼろしの冒頭シーン」は、以下の通りである。

 

 

              ※ イントロダクション ※

 

         さとうこうじ、客席通路を、来る。

         客席の前の端の方に、立つ。

         しばらく、立っている。

         客が鎮まるまで待つ。

         鎮まらなければ、片手を斜め上に挙げて、その姿勢をキープ。

         客が鎮まるまで待つ。

         それでも鎮まらなければ、それはそれで仕方がない。

         その場でぶつぶつ喋り始める。

 

さとうこうじ ……まあ、そういうことでやってみようということなんで、こうして出てきたわけなんですが、うん、必ずしも納得しているわけじゃないんですよ。ええと、いいですか、喋って。あ、こうして立ってみたら言いたくなっちゃいますね、「まもなく開演です、トイレはロビー奥突き当たりです。突き当たりといっても、幕の向こうじゃないですから、手前を右側に入って下さい」。幕の向こうは楽屋なんです。楽屋といっても、四畳半、和室。アパートみたいだなあと思ったら、アパートだったんですってね、スズナリって。で、一九八一年、スズナリがオープンしたときには、まだ、立ち退きが終わっていなくて、二人、住んでたみたいなんです。今の楽屋に。坂手さんが言うには、ロビーにいて、開場して、いらっしゃいませ、って声をかけると、申し訳なさそうに俯いて、自分の部屋に入っていく若い男の人がいて、ということだったみたいです。そんなふうに住人が住んでいたわけですから、とうぜん、ロビーは二十四時間開放されてて、坂手さんとか、当時の演劇人は、呑んでて終電がなくなったりすると、こっそりロビーに泊まったりしてたみたいです。その頃、スズナリで『淋しいのはお前だけじゃない』ってドラマの収録が行われていて、ロビーで寝ていた坂手さんが女の人の悲鳴で目を覚ますと、目の前に、わりと有名な女優の、……Mサンがいて、「人がいる!」って、逃げてったらしいんです。朝一番の収録だったんですねえ。言っちゃまずかった? まあ、もう時効ですよね。ああ、こっそりっていうと、某劇団が仕込みが追いつかなくて、搬入口の鍵をこっそり空けておいて、夜中に入って仕込みを続けて、それがバレちゃって何年間か出入禁止になったことがあるらしいです。燐光群じゃないですよ。もう今は活動していない劇団らしいですけど。……ああ、それから。……あ、そうか、携帯電話等、音の出るものは、電源からスイッチをお切り下さい。ああ、言っちゃった。

 

         しばらく黙る。

 

さとうこうじ ……こんにちは(こんばんは)。さとうこうじです。本日はご来場ありがとうございます。あ、今日は場内係をするってことじゃなくて、出演者です。最初は日替わりで毎日別な役者が喋るっていうことになってて、今日だけです。今日だけだといいんですけど。全部で二十ステージありますから、出演者が十五人なんで、誰かがあと五ステージぶん、やらなきゃならないんですよね。俺になるのかなあ。まあせめてあと一回で終わるなら、それでもいいんだけど。

 

         さとうこうじ、後ろ手に持っていた本を出してみせる。

 

さとうこうじ ……はい。これです。「九月、東京の路上で」。原作。原作ってことになってますよね。「九月、東京の路上で」、「加藤直樹」。「1923年関東大震災 ジェノサイドの残響」。

 

         さとうこうじ、本を捲って、見る。

 

さとうこうじ ……でね、坂手さん言うんですよ。稽古初日に。今度は大丈夫だ。本はある。はい。これですから。「九月、東京の路上で」。本はあります。ありました。稽古初日から。確かに。原作。でもこれって原作でしょ。そしたら坂手さん、「今度は原作通りにやるって言っただろ」って。いや、原作通りって。

 

         さとうこうじ、いったん本を自分から離して遠ざける。

 

さとうこうじ ……坂手さん曰く、台本通りにやる演劇があるなら、原作通りにやる演劇があっていい。台本通り、……それ普通でしょ。……いやいや、例えばサイモン・マクバーニーは台本通りじゃなく原作をもとに劇を作っていったんだ。「エレファント・バニッシュ」も「春琴」も。聞いてない? ……えっと、なんか、聞いたことはありますよ、原作を元に俳優が自分たちでシーンを作るみたいな? なんか初日の三日前までどんどん変わっていって、ラストシーンも本番中日過ぎてから変わったとか。え、そんなふうにやるんですか。……とりあえず原作通りやってみようよ。……いいですよ。本はある。はい。稽古初日から。確かに。原作。いや、原作通りって……。

 

         さとうこうじ、本を読む。

 

さとうこうじ ……「九月、東京の路上で」、「加藤直樹」。「ころから(出版社名)」。

 

         さとうこうじ、ページを捲り、本を読む。

 

さとうこうじ 朝鮮人あまた殺され。

  その血百里の間に連なれり

  われ怒りて視る、何の惨虐ぞ

  ……萩原朔太郎

  ……関東大震災の折、群馬県に住んでいた萩原朔太郎が、同県内で起こった藤岡事件への怒りから震災の翌年に発表。同事件では、デマを信じた自警団によって人の朝鮮人が殺害された。

 

         さとうこうじ、ページを捲り、本を読む。

 

さとうこうじ まえがき

  新大久保の路上から

  ……ええ、前書き読んでみましょうかね。

 

         さとうこうじ、そして、この間に登場していた人物たち、本を読む。

 

         以降は、皆で「まえがき」本文を読んでゆく展開で、実際に上演したとおりである。

         実際の上演は、「九月、東京の路上で」「加藤直樹」「ころから」から始まった。

         写真は、冒頭の、さとうこうじ。お客の入っていないゲネプロでの撮影。撮影は、姫田蘭。

 

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リチャード・フラナガン『奥のほそ道』

2018-08-10 | Weblog

リチャード・フラナガン著『奥のほそ道』(訳:渡辺佐智江 白水社)を読む。

後書きにもあるように、部分的に、映画『クワイ河に虹をかけた男』にも関連する内容。
ここ三年、「アジア共同企画」でタイに通い、舞台の一部となっている泰緬鉄道跡地にも、取材に行っていた。これは自分にとっても、読まなければならない本だった。
タイトル通り、「日本」という要素が、外部の様々な認識を通過して、解体され、或いはより直截に、迫ってくる。
 
圧倒される緻密さと骨太さ。繊細と剛胆が同居する、大作。まさに小説らしい小説、というべきだろう。
人間の意識と無意識、客観と主観、過去と現在、現実とまぼろしを行き来する、ここ数十年来の小説技法の世界的な進展を貪欲に取り込んでいるともいえる。
凄まじい勢いで一読したが、これからも読み返すことになるだろう。
 
自分と同年の海外の作家が、戦争と歴史をめぐる、そしてジャンルとしての実験を試みる、こんな重厚な小説を書いていたのだ。
 
ここには、シンプルな教訓がある。
人は決して、自分自身のことなんか、わかってはいないということだ。
逆にいえば、わかっているからこそ、そこから逃れようとするのだ。
 

早川書房「悲劇喜劇」時代、ハヤカワ演劇文庫でもお世話になった鹿児島有里さんが、編集を担当されている。

 

以下、白水社HPより。

リチャード・フラナガン著『奥のほそ道』(訳:渡辺佐智江 白水社)

ブッカー賞受賞!「傑作のなかの傑作」と絶賛 過酷な〈死の鉄道〉建設と、ある女性への思い

1943年、捕虜の軍医ドリゴは〈死の鉄道〉建設で地獄のような日々を闘っていた。そこへ一通の手紙が届き、すべてが変わってしまう……

1943年、タスマニア出身のドリゴは、オーストラリア軍の軍医として太平洋戦争に従軍するが、日本軍の捕虜となり、タイとビルマを結ぶ「泰緬鉄道」(「死の鉄路」)建設の過酷な重労働につく。そこへ一通の手紙が届き、すべてが変わってしまう……。
本書は、ドリゴの戦前・戦中・戦後の生涯を中心に、俳句を吟じ斬首する日本人将校たち、泥の海を這う骨と皮ばかりのオーストラリア人捕虜たち、戦争で人生の歯車を狂わされた者たち……かれらの生き様を鮮烈に描き、2014年度ブッカー賞を受賞した長篇だ。
作家は、「泰緬鉄道」から生還した父親の捕虜経験を題材にして、12年の歳月をかけて書き上げたという。東西の詩人の言葉を刻みながら、人間性の複雑さ、戦争や世界の多層性を織り上げていく。時と場所を交差させ、登場人物の心情を丹念にたどり、読者の胸に強く迫ってくる。
「戦争小説の最高傑作。コーマック・マッカーシーの『ザ・ロード』以来、こんなに心揺さぶられた作品はない」(『ワシントン・ポスト』)と、世界の主要メディアも「傑作のなかの傑作」と激賞している。

[著者略歴]
リチャード・フラナガン
オーストラリアのタスマニア州で生まれ育つ。高校中退後、リバーガイドなどさまざまな職業を経て、タスマニア大学、オックスフォード大学で文学を学ぶ。デビュー作Death of a River Guide(1994)で南オーストラリア州文芸祭文学賞をはじめ、オーストラリアの主要文学賞を受賞。3作目の『グールド魚類画帖:十二の魚をめぐる小説』の英連邦作家賞受賞(2002年度)で世界にその名を知らしめた。第二次世界大戦中に父親が生き延びた過酷な捕虜経験を元に12年の歳月をかけて書かれた本書は、2014年度ブッカー賞を受賞し、各国の書評子から「傑作のなかの傑作」と絶賛された。その他の作品に、The Sound of One Hand Clapping、『姿なきテロリスト』。(以上、邦訳はすべて渡辺佐智江訳、白水社)。 

[訳者略歴]
渡辺佐智江
英米文学翻訳家。キャシー・アッカー『血みどろ臓物ハイスクール』で翻訳家デビュー。1993年、同書の翻訳紹介によりBABEL国際翻訳大賞新人賞を受賞。リチャード・フラナガン『グールド魚類画帖』、ジム・クレイス『死んでいる』(以上、白水社)、アルフレッド・ベスター『ゴーレム[100]』(国書刊行会)、アーヴィン・ウェルシュ『フィルス』(パルコ)など訳書多数。


https://www.hakusuisha.co.jp/book/b357614.html

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辺野古基地前に座り込むことを約束していた翁長知事が、異を唱えないはずがない。

2018-08-09 | Weblog

翁長雄志沖縄県知事の死の重さは、沖縄の皆さんの間で、思った以上にずしりと響いているようだ。

健康状態のことは周知の事実であり、残念ながら予想されていた事態ではあるけれど、米軍基地建設に反対する人たちの初心は、ぶれることなく維持されているはずだ。

タイミング的にはずいぶん待たせたけれども、翁長知事が辺野古の埋め立て承認撤回を表明したことは事実であり、辺野古で基地建設に抗う人たちはじめ、残された者たちによって、その先へと反対の動きは進められていくはずだ。

新知事選挙については、困難が予想される。「辺野古に新基地を造らせないオール沖縄会議」を中心とした体制を見直すことも必要になってくるのかもしれない。

沖縄から離れて生きている者に何ができるかわからないが、少しでもやれることは見つけていきたい。

 

そんな状況下で、菅義偉官房長官は米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設について「日米同盟の抑止力維持、普天間飛行場の危険除去を考えたとき、唯一の解決策ということに変わりない」と改めて辺野古移設推進を強調した。何に対する「抑止」かさえきちんと説明できないくせに、何を言っているのか。正しい「解決策」は、基地を作らないということだけだ。

公明党の山口那津男代表に至っては、「ほかに現実的な選択肢がみられない以上、これからも丁寧に県民の理解を求めながら危険を取り除くための努力をしていかなければならないと思います。総じて、沖縄県の皆さまの基地負担を軽くしていくことが、政府の責任であると思っています。翁長知事も異は唱えられないと思っています」と発言。

これは、「万策尽きたら夫婦で一緒に(辺野古基地前に)座り込むことを約束している」と常々言っていた翁長県知事の意向・実情に反した、まったく事実無根のデマを飛ばしたことになる。「翁長知事も異は唱えられないと思っています」という有り得ない暴言は、死者への冒涜である。政権政党の代表がフェイクニュースを垂れ流す現実は、あまりに醜悪だ。

そもそも翁長知事の考えは「基地負担を軽く」、ではない。「基地をなくせ」と言っているのだ。

 

写真は、辺野古の抗議船。

抗議船の船長の一人、横山知枝さんが、「非戦を選ぶ演劇人の会 ピースリーディングvol.22 」の、8/29(水) 全労済ホール/スペース・ゼロでの「リレートーク」に参加してくれることになりました。

 

https://www.facebook.com/HisenEngeki/photos/a.303791699798909.1073741828.141024729408941/1013424245502314/?type=3&theater

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オペラ『白墨の輪』DVD発売

2018-08-09 | Weblog

こんにゃく座で演出させていただいたオペラ『白墨の輪』のDVDが発売されます。

自分で言うのも何ですが、とてもうまくいった仕事でした。

曲も素晴らしく、いまでも時々、頭の中をぐるぐるします。

こんにゃく座メンバーもとても素敵です。

島次郎さんの舞台美術も、かつてないものです。

映像でもその世界にぜひ触れていただけると幸いです。

ベルトルト・ブレヒト原作。広渡常敏脚本。林光作曲。

2015年2月、世田谷パブリックシアターで公演した舞台を収録しています。

[価格] 一般4,000円 こんにゃクラブ会員3,500円

[お申込み]オペラシアターこんにゃく座 TEL044-930-1720(平日10:00~18:00)

オペラシアターこんにゃく座オンラインストア 
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「永代橋」を舞台上に作る 演劇版『九月、東京の路上で』

2018-08-08 | Weblog

『九月、東京の路上で』。

上演は終了しましたが、なんだか終わったような気がしません。

写真は、舞台に登場した「永代橋」。

関東大震災の朝鮮人虐殺現場の一つです。

二人の俳優とロープ一本で作ります。

これが橋の欄干です。

後は、演者がしっかりと「橋の上にいる」ことができればいいだけです。

演劇の魔法です。

 

 

撮影・姫田蘭。

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四国で新設された「TOON戯曲賞」梗概発表

2018-08-07 | Weblog
新設された四国の戯曲賞の審査員を務めることになりました。
 
 
◆ アートヴィレッジ TOON戯曲賞 ◆
 
四国の山間の小さなまち、「とうおん」。
舞台芸術の聖地として全国に門戸を開くこの地で次代を担う劇作家を発掘する戯曲賞を開催。
2019年には大賞作品上演に向けて演出家・役者を募り演劇製作を実施します。

2017年東温市は舞台芸術の聖地としてアートヴィレッジとうおん構想を発表し、文化芸術によるまちづくりをスタートさせました。
本賞では、次代を担う劇作家を発掘。上演を前提とした戯曲賞です。

作品内容
募集作品は現代演劇の戯曲とする。
応募資格
不問。
応募規定
1人1作品。
他の賞との重複応募は不可。
日本語による未発表、未上演のオリジナルの作品に限ります。
脚色不可。
提出仕様
□表紙:作品名と応募者名を記載
□あらすじ:800字以内(作品名と応募者名を記載)
□別紙:住所・氏名・年齢・電話番号・メールアドレス
□用紙サイズ:A4・縦書き(100枚以上150枚まで)
  • パソコンの場合A4サイズに20字×20行(縦書)
  • 手書きの場合A4サイズ・400字詰め原稿用紙(縦書)
  • □提出部数:作品原稿を綴じ、7部提出。簡易書留または宅配便
  • □提出先:東温市移住定住促進協議会
    (東温市総務部企画政策課地域振興係)
    〒791-0292 東温市見奈良530-1
  • □お問合せ:NPO法人シアターネットワークえひめ
    toon.gikyoku@gmail.com

※原稿にはすべてページ番号を記載してください。
※ペンネームの場合は、本名を併記してください。
※他の作品からの引用した場合は、作品の最後にその出典を明記。
※応募作品は返却不可です。予めご了承ください。

審査
2次審査(最終審査)は5人の審査員による公開審査を実施。
一般の方も審査投票できます。
  • 1次審査2019年1月下旬(非公開審査)
  • 2次審査2019年3月17日(公開審査)
  • 1次審査通過作品名と作者名をアートヴィレッジとうおん
    ホームページに掲載。
  • 2次審査結果は公開審査会場で発表。
大賞(1作品)
■正賞:東温市産ブランド米
■副賞:賞金 150万円(税込)
※賞金には上演権料、放送権料を含む。
優秀賞(1作品)
■正賞:東温市産ブランド米
■副賞:賞金 5万円(税込)
 
[応募受付期間]
・10月1日(月)ー11月15日(木)
 
[審査員]
・鈴江俊郎、篠原久美子、坂手洋二、松井周、矢内原美邦
 
 
**未発表・未上演のオリジナル作品のみ受付。
**大賞受賞作品の出版権・上演権・放送権は、2020年3月31日まで主催者に帰属するとのこと。
**上演に際し、作者同意のうえ作品を改変・翻案する場合があるとの記載がありますのでご留意ください。
[お問合せ]
NPO法人シアターネットワークえひめ

 

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「九月、東京の路上で」千秋楽を終えました

2018-08-06 | Weblog

「九月、東京の路上で」。

下北沢ザ・スズナリでの初演、千秋楽を終えました。

皆さん、おつかれさまでした。

客席限定スタイルの舞台美術というか演出なので、立ち見も不可能、決めた人数以上は絶対に入れられないという公演だったため、最後の数日は、当日券を求めてせっかくご来場いただいたお客様に見ていただけないというケースもあり、たいへん申し訳なく思っています。

上演中からこれほど「再演」を期待する声、他の町でも上演してほしい、という意見が上がるのは、確かに希なことです。

前向きに考えてゆければと思っています。

 

原作者の加藤直樹さんはじめ、八十年代に関わったいろいろな方々との出会い直しの機会もありました。

あらためて感謝の気持ちもおおきく、有意義なことですし、自分自身の現在を見直していく機会にもなりました。

 

皆様、ありがとうございました。

 

写真はラストシーン。彼岸花。

 

撮影・姫田蘭。

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小西・中西・大西

2018-08-05 | Weblog

「九月、東京の路上で」に登場する国会議員中西のモデルが、小西洋之参議院議員。演じるのが大西孝洋。

二人並んで写っています。(撮影・古元道広)

ええ、もちろん、小西議員を大西が演じるので中西という役名にさせていただきました。

小西議員と、終演後にお話。憲法についての自民党のペテンに対する克明な説明を聞かせていただきました。

 

「九月、東京の路上で」、いよいよ本日、千秋楽。

ご予約受付は終了しました。

⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯

 

「九月、東京の路上で」上演情報


 8月5日(日)千秋楽!

下北沢ザ・スズナリ

原作◯加藤直樹

作・演出○坂手洋二

 

詳しい情報は以下を御覧ください




http://rinkogun.com/Kugatsu_Tokyo.html

 
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