期限ギリギリに駆け込む人の鉄則、それは「絶対に間に合わせなければならない」だ。
大体においてスタートからして遅いのだから、タイムリミットに間に合わなかったら「そら見たことか!」と集中砲火を浴びる。それはプロとして恥ずべきことである。
私は意地でも期限に間に合わせる。たとえ、寝る時間が2時、3時になろうとも、自分のプライドを守るほうが大切だ。さらに、翌日はツラそうな顔ひとつ見せず、澄まして過ごさなければならない。
「笹木さんに任せれば安心ね!」
裏事情を知らない同僚にこう言われたことがある。言われて悪い気はしないけれども、人を見る目がないというか、私を操縦するのが上手いというか……。
私は授業でプリントを使うことが多い。教科書だけしか使わない同僚には変な感心のされ方をした。
「笹木さんは熱心だねぇ。オレ、プリントなんて作ったことないよ。授業はいつもアドリブだもんなー!」
……そんな月給泥棒のような人に褒められても嬉しくないけれども、たしかにプリント作成は結構な骨だ。完成するのはいつも授業の直前となり、あわただしく印刷して教室に駆け込んでいる。
運がいいと、同じ科目を受け持っている先生からプリントを分けてもらえることもある。お返しに、私もその先生に別の単元のプリントを渡す。どこの学校に赴任しても、こうして助け合って授業のできる仲間がいるものだ。
10年前、私は埼京線沿線の各駅停車しか止まらない駅を使っていた。当時は電車の本数が少なく、通勤時間帯でもせいぜい1時間に数本程度だった。
その日は私がプリントを書き、他の先生にあげる約束をしていた。早目に行って学校で作るつもりだったのだが、ギリギリに家を出て駅まで行こうとしたら、不幸なことに道路工事をしていた。車が渋滞し、自転車も歩行者も足止めを食っている。
ゲッ!! 間に合うかなぁ!?
予想外の展開に焦り、工事区域を抜けてから猛ダッシュしたが、電車は無情にも走り去ったあとだった……。
時刻表を見たら、次の電車が来るのは20分後となっている。これでは授業に間に合わない。「しまった!」と私は青ざめた。自分だけならまだしも、私のプリントを当てにしている人のことを思うと、できませんでしたでは済まされない。
そうだ、ここで書いちゃえー。
私は暴挙に出た。駅のベンチに腰掛け、ボールペンを取り出し、バッグを下敷きにしてプリント原稿を書き始めたのだ。教科書では難しい言葉で説明されているため、わかりやすい言葉に置き換えて用語の意味を書く。練習問題は穴埋め形式で作り、カッコには番号をふり解説しやすく工夫する。
隣に座っていたサラリーマンが、横目でチラリと手元を見た。ベンチ前を通り過ぎたOLが、一瞬スピードを落として視線を向けた。高校生らしい少年は、見て見ぬふりをしたようだった。
きっと、変な人だと思われているだろうなぁ。
妙な人だと白い目で見られることよりも、私の意地とプライドを守るほうが何倍も大事である。幸い、近所づきあいはないから顔見知りもいない。
恥は一時、評価は一生だ。
待ち時間の20分を有効利用し、一心不乱に書き上げた原稿が完成したときは奇跡だと思った。職員室よりも、駅で仕事をしたほうがはかどるとは、なんたる皮肉!
「ありがとー! いつも悪いわね」
タイムリミットを死守して印刷したプリントを渡すと、仲良しの先生は笑顔で受け取った。
でも、どこで書いたかは決して言えない……。
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※新ブログ 「いとをかし」 へは、こちらからどうぞ^^ (10/8更新しました)
大体においてスタートからして遅いのだから、タイムリミットに間に合わなかったら「そら見たことか!」と集中砲火を浴びる。それはプロとして恥ずべきことである。
私は意地でも期限に間に合わせる。たとえ、寝る時間が2時、3時になろうとも、自分のプライドを守るほうが大切だ。さらに、翌日はツラそうな顔ひとつ見せず、澄まして過ごさなければならない。
「笹木さんに任せれば安心ね!」
裏事情を知らない同僚にこう言われたことがある。言われて悪い気はしないけれども、人を見る目がないというか、私を操縦するのが上手いというか……。
私は授業でプリントを使うことが多い。教科書だけしか使わない同僚には変な感心のされ方をした。
「笹木さんは熱心だねぇ。オレ、プリントなんて作ったことないよ。授業はいつもアドリブだもんなー!」
……そんな月給泥棒のような人に褒められても嬉しくないけれども、たしかにプリント作成は結構な骨だ。完成するのはいつも授業の直前となり、あわただしく印刷して教室に駆け込んでいる。
運がいいと、同じ科目を受け持っている先生からプリントを分けてもらえることもある。お返しに、私もその先生に別の単元のプリントを渡す。どこの学校に赴任しても、こうして助け合って授業のできる仲間がいるものだ。
10年前、私は埼京線沿線の各駅停車しか止まらない駅を使っていた。当時は電車の本数が少なく、通勤時間帯でもせいぜい1時間に数本程度だった。
その日は私がプリントを書き、他の先生にあげる約束をしていた。早目に行って学校で作るつもりだったのだが、ギリギリに家を出て駅まで行こうとしたら、不幸なことに道路工事をしていた。車が渋滞し、自転車も歩行者も足止めを食っている。
ゲッ!! 間に合うかなぁ!?
予想外の展開に焦り、工事区域を抜けてから猛ダッシュしたが、電車は無情にも走り去ったあとだった……。
時刻表を見たら、次の電車が来るのは20分後となっている。これでは授業に間に合わない。「しまった!」と私は青ざめた。自分だけならまだしも、私のプリントを当てにしている人のことを思うと、できませんでしたでは済まされない。
そうだ、ここで書いちゃえー。
私は暴挙に出た。駅のベンチに腰掛け、ボールペンを取り出し、バッグを下敷きにしてプリント原稿を書き始めたのだ。教科書では難しい言葉で説明されているため、わかりやすい言葉に置き換えて用語の意味を書く。練習問題は穴埋め形式で作り、カッコには番号をふり解説しやすく工夫する。
隣に座っていたサラリーマンが、横目でチラリと手元を見た。ベンチ前を通り過ぎたOLが、一瞬スピードを落として視線を向けた。高校生らしい少年は、見て見ぬふりをしたようだった。
きっと、変な人だと思われているだろうなぁ。
妙な人だと白い目で見られることよりも、私の意地とプライドを守るほうが何倍も大事である。幸い、近所づきあいはないから顔見知りもいない。
恥は一時、評価は一生だ。
待ち時間の20分を有効利用し、一心不乱に書き上げた原稿が完成したときは奇跡だと思った。職員室よりも、駅で仕事をしたほうがはかどるとは、なんたる皮肉!
「ありがとー! いつも悪いわね」
タイムリミットを死守して印刷したプリントを渡すと、仲良しの先生は笑顔で受け取った。
でも、どこで書いたかは決して言えない……。
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