これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

うわさの二人

2008年11月27日 20時17分02秒 | エッセイ
 職員室には休暇黒板(白板)というものがある。
 その日に休暇や出張などで不在の教員を書き出すものだ。
 単なる事務連絡の道具ではない。そこではいくつものドラマが生まれている。

 前の職場の話だ。
 歓送迎会が終わり、私は二次会の誘いを断って店を出た。
 同僚の康夫クンと美恵子サンも帰る様子だったので、一緒に駅まで行くことにした。
「お料理はまあまあだったけど、量が少なかったわねぇ」
 二人の間に入って、たわいのない話をしているうちに駅に着いた。
「じゃあ、私、こっちだから。お疲れさま~」
 私が二人に別れを告げると、康夫も美恵子もとびっきりの笑顔になって頭を下げた。
「お疲れさまでしたぁー!!」
 その後気づいたのだが、どうもこの二人、同じ日、同じ時間帯に休暇黒板に名前が並ぶことが多い。もしやもしや……?!
「えっ、知らなかったの? あの二人はとっくの昔からデキてるのよ」
 気の置けない同僚にこう言われ、私は青ざめた。お邪魔虫だったのか!!
 人間観察は好きだけれども、人の幸せには興味がないので気づかなかった……。
 その後、ついに二人はゴールインした。めでたし、めでたし。

 ときどき、娘の通院などで休暇を取ることがある。自分が休んでいるときは休暇黒板を見られないが、そのほうが本人のためになる場合もある。
 休み明けに出勤したら、いきなり気分が悪くなることを言う人がいた。
「昨日は、笹木さんと山村さんの名前が、仲良く並んでいましたよ~」
 山村というのはメタボ体型な上、口臭と加齢臭をプンプンさせて威張り散らす50代の男性である。
 他にも休んだ人がいればともかく、二人の名前だけしかないと、やけに目立つものだ。
「二人で温泉にでも行ってたりして、なーんて話していたんですよ」
 んなわけないだろっ!
 何と屈辱的な……。しかも、続きが待っていた。
 午後から出張する用事があり、申請手続きをした日のことだ。休暇黒板を見て「あっ」と声を上げそうになった。
 出張欄にはすでに、山村氏の名前が書かれていた。
 うわっ、どーしよ、どーしよ、また名前が揃っちゃうよ!!
 私の困惑をよそに、副校長は山村氏の下に「笹木」と書き始めた。やけに名前がくっついている。もっと離してくれればいいのに!!
 そして、案の定、茶化す人が現れた。
「ややっ、今日は二人で出張ですかー。帰りが遅くなりそうですね」

 娘の話によると、小学生でも先生方の色恋沙汰には気づくらしい。
「高橋先生は吉田先生が好きなんだよ。いつもベタベタくっついて話しかけているもん。でも、吉田先生は高橋先生が嫌いみたいで、迷惑そうな顔してるんだよ」
 ちなみに、高橋先生というのは娘の隣のクラスの担任で、推定年齢55歳、細木数子タイプのオバさまである。対する吉田先生というのはそのまた隣のクラスの担任で、30歳そこそこの爽やかなスポーツマンだ。
 追うオバさまに、逃げる若造という図式が目に浮かぶ。
 昨年の今頃、娘の学年は社会科見学で群馬県の自動車工場を訪れた。朝から弁当を作り、おやつと水筒も持たせて送り出した。
 その日の夜、娘に「どうだった?」と感想を聞いてみた。
「楽しかったんだけど、高橋先生はインフルエンザで休みだったの。2組のバスには副校長先生が乗ったんだよ」
 担任不在では児童も心細かったことだろう。さらに娘は話を続けた。
「吉田先生も、ノロウイルスで吐いちゃって休み。3組のバスは用務主事さんが乗ってたよ」
 4クラス中、2クラスの担任が校外学習に不在とは珍事である。滅多にあることではない。
 そして、小学校の休暇黒板にも、二人の名前が寄り添って書かれていたに違いない。
「一生の不覚!!」
 吉田先生の叫びが聞こえるようだ。



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コメント (10)
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