これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

2011 東京マラソン

2011年02月27日 20時19分35秒 | エッセイ
 本日、第5回東京マラソンが行われた。
 職場の者が何人かボランティアに参加しているので、天候に恵まれよかったと思う。家でダラダラしている私は、9時にテレビをつけ、中継を見ることにした。
 スタート地点の新宿・都庁が映っている。ここから皇居、品川駅、銀座、日本橋、浅草、豊洲を通過して、ゴール地点の東京ビッグサイトを目指すわけだ。
「銀座四丁目、和光の時計台です! ここを走るのを楽しみにしているランナーの方も、大勢いるようです!」
 レポーターの弾んだ声が、お祭り気分を盛り上げる。
 和光で思い出すことは、かれこれ10年前に、母とニット展に行ったことだろうか。当時通っていたエッセイ教室に、編み物教室を開いている女性がいて、「仲間と共同でニット展を開催するから、ぜひ来てちょうだい」と招待状を渡された。
 私の編み物は初心者レベルだが、母はもう少し上の腕前である。場所も銀座だし、きっと興味を持つと思って誘った。
「あら、面白そうね。行ってみたいわ」
「じゃあ、和光でランチしようよ。ニット展には午後行って、お茶飲んで帰ればいいんじゃないかな」
「そうしよう、そうしよう」
 正午に母と待ち合わせした場所が、ちょうどレポーターの背後に映っていた。
 その日は、和光別館にあるフレンチレストラン「アルペッジォ」に行き、優雅な店内で豪華なランチを楽しんだ。コーヒーのおかわりを終えて、いざニット展へと急いだのだが……。
「何か、思ったより地味ね」と母がつぶやいた通り、パッとしない作品ばかりに見えた。技術的にはハイレベルなのだろうが、きらびやかなランチのあとでは、見劣りしてしまったようだ。
「よく来てくれたわね、ありがとう」とエッセイ仲間は歓迎してくれた。しかし、買いたいものが何もない。手ぶらで帰るわけにもいかず、「何かないか」と必死で品定めをした。
 すると、水色のポップなセーターが目に入った。外国製の毛糸を使ったそうで、太い部分と細い部分の繰り返しになっている。このため、完成品には凹凸ができ、楽しい雰囲気となる。
 しかし、家でこのセーターに袖を通したら、全然似合わなかったのでショックだった……。「高かったのに!」と悔しがっても、もう遅い。無駄な買い物をしたものだ。

「浅草寺です! 東京スカイツリーも見えて、すごい迫力です!」
 中継が切り替わり、今度は雷門が映っている。東京マラソンでは、ここが約28kmの地点となる。浅草寺は好きだが、仲見世を見ると、苦い記憶が蘇ってくる。
 あれは大学生のときだった。冷たい雨の日曜日、当時の彼氏と浅草でデートをした。思ったよりも気温が低く、あっという間に体が冷えてきた。仲見世を歩いていたら、ズキズキとお腹が痛む。生理痛だ。男性にはわからないだろうが、下腹を内側から叩かれるような、強い痛みが耐えがたい。冷えたせいで普段よりも悪化し、太鼓がわりにバチで殴られるような激しさである。私は苦痛のあまり、会話もできなくなってしまった。
「ごめん、お腹が痛いから今日は帰る」と、お昼も食べずに駅に向かう。家に帰り、布団で寝ていたら治ったが、こんなに苦しんだのは初めてだったかもしれない。
 夜、彼氏から電話があった。
「どう? 下痢はよくなった?」
 
 下痢じゃないってば!!

 私は腹が立って、電話を叩き切った。

「豊洲です! こちらは風が強く、起伏のある厳しい地形となっております!」
 画面には、また別のレポーターが登場している。
 豊洲では……と思いだしかけてやめた。記憶をたどると、どうもこのコースには、不愉快な思い出しかないようだ。私はテレビを消し、結果だけを見ることにした。

 11時20分頃にテレビをつけると、ちょうど男子1位のメコネン、2位にビウォットがゴールするところである。そのあとに、わが国の川内優輝が歯を食いしばって3位、尾田賢典が4位に食い込んだ。
 ベランダに出て、布団をひっくり返したら続きを見る。今度は女子だ。トップを走っていた渋井陽子が、後ろから迫ってくるアリャソワに抜かれたところだった。「あーあ」とため息をついて消す。
 5分ほどしてまたつけると、アリャソワが力強い走りでゴールテープを切るところだった。樋口紀子も続いてゴールする。渋井は、ペトロワにも抜かれて4位だったが、ひとまず安心した。
 レース展開を見ていなくても、ゴール地点での映像は感動する。
 選手のみなさん、お疲れ様でした。




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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (14)
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