ワインディナーをいただくため、横浜まで行くついでに、寄りたい場所があった。
今年で没後100年となる宮川香山の作品を紹介する「眞葛󠄀ミュージアム」だ。ブロ友さんに、土日しか開館していないと教わっていたので、日曜日のその日を逃すわけにはいかなかった。
「えーと、セブンイレブンの通りを直進……。あった、あそこだ」
小さな建物なので、15分から30分で見られるようだから、終わったらエッシャー展をはしごしようと思っていた。時計は15時15分を指している。閉館は16時だし、慌てることもなさそうだ。
「こんにちは」
建物の外には警備員の男性がいたが、来客とわかると笑顔で声をかけてきた。受付の女性も感じのよい対応で、わざわざ練馬くんだりから駆け付けた甲斐があると感じる。
入館料はわずか500円。しかも、この日はスペシャルなオプションつきであった。
「あのう、よろしければ、ご来館のお客様に解説をしたいのですが、お時間ございますでしょうか」
白地のシャツに、紺のコットンパンツを組み合わせた40代前半とおぼしき男性が、降ってわいたように登場し声をかけてきた。館内にいたのは私と年配の女性2人組の計3人であった。
「はい、大丈夫です」
「ぜひ」
何だかよくわからないが、とってもラッキーなのではという予感がした。
男性は「こんな格好をしていますが、私はこちらの館長をしている者です」と名乗り、宮川香山のエキスパートらしかった。
「香山は京都で代々焼き物を生業とする家に生まれました。眞葛󠄀が原という場所だったので、眞葛󠄀焼きという名がついています。坂本龍馬の7歳下になります」
「幕末の京都は戦乱期です。とても創作には向かず、香山は横浜に1000坪の眞葛󠄀窯を構えます」
「このジャンルでは、明治期の重要文化財が2つしかないのですが、どちらも宮川香山です。でも、香山の作品は国内にはほとんど残っていません。大部分を海外に売っていますし、横浜大空襲で3代目は亡くなっていますから」
ああ、という落胆の声が聞こえた。惜しい人を亡くした、というのはこのことだろう。
「香山は、作風を変えていくところに特徴があります。最初は薩摩焼風で、上絵付の作品なんです。明治9年頃には高浮彫りに変わります」
「明治15年には、シンプルで落ち着いたものが好まれるようになったため、清朝の磁器がブームになりました。香山はこれを研究し、明治20年には釉薬作品でアールヌーボーの作品を送り出します」
なるほど、「超絶技巧」の代名詞がつくのは、複数の作風でトップに躍り出た尋常ならざる技量を褒めたたえてのことか。
「アールヌーボーは曲線の美です。香山の作品は絵付けと曲線が見事に融合しています」
そういえば、姉もこの写真が好きだと言っていた。彼女は、高浮彫はくどくて受け付けないらしい。私はどちらも好きだけれども。
ちょうど、増上寺に貸し出し中の作品が、写真だけになっていた。
「これではない、ワタリガニの作品があるのですが、そちらが重文になっています」
そこで、ピンときたため、館長さんに質問をしてみた。
「その作品は、サントリー美術館で展示されていたものですか?」
このワタリガニはやたらとリアルで、お見事というしかなかった。
「正確にいうと、ワタリガニの作品は3つあるんです。ひとつは東京国立博物館が所蔵していて、2つめは田辺さんという人が持っています。サントリー美術館で展示されたものはこちらです。3つめは和菓子の源吉兆庵のものです」
「へええ~」
明確なお答えをありがとうございます。
顔料についての説明も興味深かった。赤や青の色は、高温で発色する。低温では違う色なのだ。何度でどの色が発色するかを試行錯誤しながら見つけ出し、美しい色彩の作品を生み出したとか。誰よりも研究熱心な方であったことは間違いない。
明るい緑色は他の窯ではなかなか出せず、眞葛󠄀色といわれたらしい。さきほどのアールヌーボーのような色彩である。気品があっていい色だと思う。
他にも、気に入らない作品は割っていたので、眞葛󠄀窯には磁器の破片が砂利のように敷き詰められていたこと、初代は絵も上手だったこと、ロイヤルコペンハーゲンと眞葛󠄀焼きが並ぶと「コペンハーゲンが青ざめる」と言われたことなども聞き、ますます香山が好きになった。
解説を聞くまで、高度な技巧に気づかない作品もあった。
「下地の模様は手作業でつけているんですよ。乾燥しないように工夫をしながら、規則正しく線を入れています」
「ええっ」
指摘され、初めて理解した。ラーメンの丼に描かれているような模様が、花瓶全体を覆っている。これを全部手でつけたというのか。何と粘り強く精密な作業だろう。私だったら、気が狂ってしまうかもしれない。まったくもって、尋常ではない。
解説は30分ほど続いたろうか。閉館までの残りの時間は自由に見学し、お土産を買って駅に戻った。
(ポストカード)
(クリアファイル)
すご過ぎて、エッシャー展にはもはや興味がなくなった。
栗原はるみの「yutori no ku-kan」という店で休憩する。
6種類のデザートから4種選び、飲み物つきで1080円は安い。しかも美味!
バニラアイスクリームにベイクドチーズケーキ、プレーンシフォンケーキ、カボチャのプリンにした。
とろける味のデザートプレートをいただきながら、入館してから退館するまでの45分を振り返る。
今日は運がよかった。他人様のアドバイスは素直に聞くものだと実感する。この施設を教えてくれたブロ友さんには感謝するばかりだ。
人生は宝探しのようなもの。いたるところに宝が埋まっているから、どこで何に巡り合うかわからない。
感性を研ぎ澄まし、これからも自分の信じる方向に「エイヤッ」と進んでいこう。
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クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
今年で没後100年となる宮川香山の作品を紹介する「眞葛󠄀ミュージアム」だ。ブロ友さんに、土日しか開館していないと教わっていたので、日曜日のその日を逃すわけにはいかなかった。
「えーと、セブンイレブンの通りを直進……。あった、あそこだ」
小さな建物なので、15分から30分で見られるようだから、終わったらエッシャー展をはしごしようと思っていた。時計は15時15分を指している。閉館は16時だし、慌てることもなさそうだ。
「こんにちは」
建物の外には警備員の男性がいたが、来客とわかると笑顔で声をかけてきた。受付の女性も感じのよい対応で、わざわざ練馬くんだりから駆け付けた甲斐があると感じる。
入館料はわずか500円。しかも、この日はスペシャルなオプションつきであった。
「あのう、よろしければ、ご来館のお客様に解説をしたいのですが、お時間ございますでしょうか」
白地のシャツに、紺のコットンパンツを組み合わせた40代前半とおぼしき男性が、降ってわいたように登場し声をかけてきた。館内にいたのは私と年配の女性2人組の計3人であった。
「はい、大丈夫です」
「ぜひ」
何だかよくわからないが、とってもラッキーなのではという予感がした。
男性は「こんな格好をしていますが、私はこちらの館長をしている者です」と名乗り、宮川香山のエキスパートらしかった。
「香山は京都で代々焼き物を生業とする家に生まれました。眞葛󠄀が原という場所だったので、眞葛󠄀焼きという名がついています。坂本龍馬の7歳下になります」
「幕末の京都は戦乱期です。とても創作には向かず、香山は横浜に1000坪の眞葛󠄀窯を構えます」
「このジャンルでは、明治期の重要文化財が2つしかないのですが、どちらも宮川香山です。でも、香山の作品は国内にはほとんど残っていません。大部分を海外に売っていますし、横浜大空襲で3代目は亡くなっていますから」
ああ、という落胆の声が聞こえた。惜しい人を亡くした、というのはこのことだろう。
「香山は、作風を変えていくところに特徴があります。最初は薩摩焼風で、上絵付の作品なんです。明治9年頃には高浮彫りに変わります」
「明治15年には、シンプルで落ち着いたものが好まれるようになったため、清朝の磁器がブームになりました。香山はこれを研究し、明治20年には釉薬作品でアールヌーボーの作品を送り出します」
なるほど、「超絶技巧」の代名詞がつくのは、複数の作風でトップに躍り出た尋常ならざる技量を褒めたたえてのことか。
「アールヌーボーは曲線の美です。香山の作品は絵付けと曲線が見事に融合しています」
そういえば、姉もこの写真が好きだと言っていた。彼女は、高浮彫はくどくて受け付けないらしい。私はどちらも好きだけれども。
ちょうど、増上寺に貸し出し中の作品が、写真だけになっていた。
「これではない、ワタリガニの作品があるのですが、そちらが重文になっています」
そこで、ピンときたため、館長さんに質問をしてみた。
「その作品は、サントリー美術館で展示されていたものですか?」
このワタリガニはやたらとリアルで、お見事というしかなかった。
「正確にいうと、ワタリガニの作品は3つあるんです。ひとつは東京国立博物館が所蔵していて、2つめは田辺さんという人が持っています。サントリー美術館で展示されたものはこちらです。3つめは和菓子の源吉兆庵のものです」
「へええ~」
明確なお答えをありがとうございます。
顔料についての説明も興味深かった。赤や青の色は、高温で発色する。低温では違う色なのだ。何度でどの色が発色するかを試行錯誤しながら見つけ出し、美しい色彩の作品を生み出したとか。誰よりも研究熱心な方であったことは間違いない。
明るい緑色は他の窯ではなかなか出せず、眞葛󠄀色といわれたらしい。さきほどのアールヌーボーのような色彩である。気品があっていい色だと思う。
他にも、気に入らない作品は割っていたので、眞葛󠄀窯には磁器の破片が砂利のように敷き詰められていたこと、初代は絵も上手だったこと、ロイヤルコペンハーゲンと眞葛󠄀焼きが並ぶと「コペンハーゲンが青ざめる」と言われたことなども聞き、ますます香山が好きになった。
解説を聞くまで、高度な技巧に気づかない作品もあった。
「下地の模様は手作業でつけているんですよ。乾燥しないように工夫をしながら、規則正しく線を入れています」
「ええっ」
指摘され、初めて理解した。ラーメンの丼に描かれているような模様が、花瓶全体を覆っている。これを全部手でつけたというのか。何と粘り強く精密な作業だろう。私だったら、気が狂ってしまうかもしれない。まったくもって、尋常ではない。
解説は30分ほど続いたろうか。閉館までの残りの時間は自由に見学し、お土産を買って駅に戻った。
(ポストカード)
(クリアファイル)
すご過ぎて、エッシャー展にはもはや興味がなくなった。
栗原はるみの「yutori no ku-kan」という店で休憩する。
6種類のデザートから4種選び、飲み物つきで1080円は安い。しかも美味!
バニラアイスクリームにベイクドチーズケーキ、プレーンシフォンケーキ、カボチャのプリンにした。
とろける味のデザートプレートをいただきながら、入館してから退館するまでの45分を振り返る。
今日は運がよかった。他人様のアドバイスは素直に聞くものだと実感する。この施設を教えてくれたブロ友さんには感謝するばかりだ。
人生は宝探しのようなもの。いたるところに宝が埋まっているから、どこで何に巡り合うかわからない。
感性を研ぎ澄まし、これからも自分の信じる方向に「エイヤッ」と進んでいこう。
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