昨日、母と墓参りに行ってきた。今回は姉と娘のミキも来てくれて、4人で賑やかに墓石を拭き、花と線香を供えてきた。
祖母の命日に合わせ、5月にお参りしたときは、雑巾がない、ゴミ袋を忘れたなどと失敗の連続だったが、今回はバッチリ。正午を回ったあたりで帰りのタクシーに乗り込んだ。
お昼は蕎麦にしたくて、運転手にどの店がよいかを聞いてみた。
「駅前には2軒あるんですが、1軒はやめた方がいいです。もう1軒はまあまあだけど、わざわざ行くほど美味しいわけじゃないですよ」
「そうですか。じゃあ、まあまあの店で下ろしてください」
「わかりました」
実に正直な運転手さんだった。やはり地元に人に聞いてみないと、裏事情はわからない。
駅から2kmほど離れた場所には、有名な蕎麦屋があるらしいが、そこまでしなくてもよいだろう。
「こちらが無難な店ですよ、どうぞ」
車から下りて店の入口を開けたら、すでに満席だった。せっかく教えてもらったけれど、これでは入れない。かといって、別の蕎麦屋に行く気はないので、眉がㇵの字になる。同じ表情を浮かべた姉と相談した。
「どうしようか」
「蕎麦じゃなくていいから、何か食べられるところを探そう」
「カレーでよければ、いつもお茶する店にあるよ」
そんなわけで、5月にも来たカフェでランチということになった。全体的に駅前の人出は多かったが、運よくこちらは席が空いていた。81歳の母にメニューを説明する役は娘に任せて、私も食べたいものをチョイスする。うーん、肉が食べたいな……。
まずは姉が口火を切る。
「みんな決まった? アタシも野菜カレーにするわ」
「ミキはハヤシライス」
「角煮カレー」
「おばあちゃんも野菜カレーだって」
母が「ご飯は少なめにして」とつけ加える。
「わかった」
あら、ご飯の量を減らすなんて珍しい……。母は年の割にはよく食べる方なのだが。そういえば、昨年4月に腸の手術をしているし、年々体力は落ちているだろうから、もっと気をつかわないといけないのかもしれない。
そんなこんなで体調に気を取られ、母の味覚をコロッと忘れていた。
「お待たせしました」
角煮カレーが来たぁ~!

「ご飯少なめの野菜カレーです」
「あ、こっちです」
母の前にトレイを誘導する。野菜が意外に大きくて、箸を使った方が食べやすいようだ。箸を持ったついでなのか、母は先に野菜を全部食べてしまい、ご飯とルーが残っていた。スプーンに持ち替え、ご飯を2~3回口に運ぶと、困ったようにつぶやく声が聞こえた。
「あれえ、これは辛いね」
そこでやっと思い出した。母は山葵の辛さなら平気なのだが、カレーはハウスバーモントカレーの甘口でないと厳しいのだ。この店のカレーは、実際には中辛程度なのに、ひと口食べては水を飲み、ツラそうに食べている。野菜はひとつも残っておらず、ご飯を減らしたことも裏目に出たのだろう。ハヤシライスを勧めればよかったと後悔した。
まだ私が小学生だったとき、母の友人である美容師さんの店に遊びに行ったことがある。髪を切ってもらって、夕飯にカレーをいただいた。だが、このときも母は辛くて食べ切れず、母のカレーに慣れていた私も口の中が燃えていた。
「食べさせたくなくて、うんと辛くしたんだ。もう友達じゃないよ」
母はそう決めつけ、帰り道では悪口が止まらなかったが、私は違うと思った。きっと、美容師さんの家では普通の辛さなのだけど、母にとって過酷な辛さだっただけ。学校の給食だって、カレーはまあまあ辛いのだから、中辛以上にチャレンジしていこうと子どもなりに考えた。今では辛口だって問題ない。
「ふー、食べられたよ」
頑張ったようで、母の皿がからっぽになった。多少はホッとしたけれど、無理をさせてしまったかと気が引けた。
調べてみたら、カレーが辛いときには、メープルシロップやハチミツをかけると食べやすくなるらしい。
次の墓参りは1月を見込んでいる。
ハチミツは……一応持っていく?
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
祖母の命日に合わせ、5月にお参りしたときは、雑巾がない、ゴミ袋を忘れたなどと失敗の連続だったが、今回はバッチリ。正午を回ったあたりで帰りのタクシーに乗り込んだ。
お昼は蕎麦にしたくて、運転手にどの店がよいかを聞いてみた。
「駅前には2軒あるんですが、1軒はやめた方がいいです。もう1軒はまあまあだけど、わざわざ行くほど美味しいわけじゃないですよ」
「そうですか。じゃあ、まあまあの店で下ろしてください」
「わかりました」
実に正直な運転手さんだった。やはり地元に人に聞いてみないと、裏事情はわからない。
駅から2kmほど離れた場所には、有名な蕎麦屋があるらしいが、そこまでしなくてもよいだろう。
「こちらが無難な店ですよ、どうぞ」
車から下りて店の入口を開けたら、すでに満席だった。せっかく教えてもらったけれど、これでは入れない。かといって、別の蕎麦屋に行く気はないので、眉がㇵの字になる。同じ表情を浮かべた姉と相談した。
「どうしようか」
「蕎麦じゃなくていいから、何か食べられるところを探そう」
「カレーでよければ、いつもお茶する店にあるよ」
そんなわけで、5月にも来たカフェでランチということになった。全体的に駅前の人出は多かったが、運よくこちらは席が空いていた。81歳の母にメニューを説明する役は娘に任せて、私も食べたいものをチョイスする。うーん、肉が食べたいな……。
まずは姉が口火を切る。
「みんな決まった? アタシも野菜カレーにするわ」
「ミキはハヤシライス」
「角煮カレー」
「おばあちゃんも野菜カレーだって」
母が「ご飯は少なめにして」とつけ加える。
「わかった」
あら、ご飯の量を減らすなんて珍しい……。母は年の割にはよく食べる方なのだが。そういえば、昨年4月に腸の手術をしているし、年々体力は落ちているだろうから、もっと気をつかわないといけないのかもしれない。
そんなこんなで体調に気を取られ、母の味覚をコロッと忘れていた。
「お待たせしました」
角煮カレーが来たぁ~!

「ご飯少なめの野菜カレーです」
「あ、こっちです」
母の前にトレイを誘導する。野菜が意外に大きくて、箸を使った方が食べやすいようだ。箸を持ったついでなのか、母は先に野菜を全部食べてしまい、ご飯とルーが残っていた。スプーンに持ち替え、ご飯を2~3回口に運ぶと、困ったようにつぶやく声が聞こえた。
「あれえ、これは辛いね」
そこでやっと思い出した。母は山葵の辛さなら平気なのだが、カレーはハウスバーモントカレーの甘口でないと厳しいのだ。この店のカレーは、実際には中辛程度なのに、ひと口食べては水を飲み、ツラそうに食べている。野菜はひとつも残っておらず、ご飯を減らしたことも裏目に出たのだろう。ハヤシライスを勧めればよかったと後悔した。
まだ私が小学生だったとき、母の友人である美容師さんの店に遊びに行ったことがある。髪を切ってもらって、夕飯にカレーをいただいた。だが、このときも母は辛くて食べ切れず、母のカレーに慣れていた私も口の中が燃えていた。
「食べさせたくなくて、うんと辛くしたんだ。もう友達じゃないよ」
母はそう決めつけ、帰り道では悪口が止まらなかったが、私は違うと思った。きっと、美容師さんの家では普通の辛さなのだけど、母にとって過酷な辛さだっただけ。学校の給食だって、カレーはまあまあ辛いのだから、中辛以上にチャレンジしていこうと子どもなりに考えた。今では辛口だって問題ない。
「ふー、食べられたよ」
頑張ったようで、母の皿がからっぽになった。多少はホッとしたけれど、無理をさせてしまったかと気が引けた。
調べてみたら、カレーが辛いときには、メープルシロップやハチミツをかけると食べやすくなるらしい。
次の墓参りは1月を見込んでいる。
ハチミツは……一応持っていく?

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