※お断り:ここに掲載された個人名はすべて仮名となっております。
いよいよ、今週は卒業式だ。卒業生を送り出すのは2回目である。産休や度重なる異動のため、19年というキャリアの割には少ない。
卒業式になくてはならないものが卒業証書だ。勤務校では、証書の準備を学年団ですることになっている。
まずは、証書の取り寄せから始める。日本籍の生徒には和暦表示の用紙となるが、外国籍の生徒は希望すれば西暦表示の用紙をもらうことができる。
次に、氏名・生年月日・卒業日・卒業生番号の筆耕を依頼する。料金は1枚400円未満が相場らしい。こちらでは、業者ではなく書道の先生に依頼しているので、書き直しもスムーズだ。
そして、名入りの証書が上がってきたら、押印作業を行う。これがなかなか骨である。
最初に氏名の上に「飾り印」を押す。これはなくても問題ないが、あったほうが見栄えがする。

この作業は「押印機」という古めかしい機械を使って行う。法人で使うようなハイテクなものではなく、アームに判子をセットして、印の位置が固定し力が均等にかかることようにするだけの単純な機械である。
しかし、使いこなすには意外に時間がかかる。1組の1番、荒井の証書は、左上の陰影が薄くなってしまった。すでに筆耕ずみなので、多少の失敗は勘弁してもらうことになる。
「あーあ、荒井、ごめんね……」
私は、穏やかで物静かな女生徒、荒井の顔を思い浮かべてお詫びをした。
朱肉のつきが甘かったのだろう。次は左上にもインクが行き渡るように、慎重にアームを動かした。2番、伊東の印を押す。
「ああ、今度はキレイじゃないですか!」
一緒に作業をしていた先生からほめられた。今度は陰影もくっきり写り、合格点である。
しかし、伊東は3年間で300回以上遅刻をした、遅刻大王である。気持ちとしては、荒井の証書のほうをキレイに押してやりたかったのだが……。
3番、稲川。今度はインクをつけすぎたようで、陰影にムラがでてしまった。
稲川は成績優秀で、気持ちのやさしい子だ。なかなか上手くできず申し訳なくなった。。
4番、植松。さっきはアームを押す力が強すぎたのかもしれない。インクはたっぷり、力は控えめでやってみた。
「ああ~、印刷されたみたいに完璧です!!」
これは会心のできだった。が、植松は、授業中の私語が激しく、服装違反で毎日注意を受けている女子生徒だ。
これも運とはいえ、「どうせ失敗するなら植松のほうを……」と考えてしまうのは人情であろう。
幸い、5番目からは軌道に乗り、問題なく押印をすませた。
二つ目の校長印にうつる。

これは比較的スムーズにできた。が、ときどきインクをつけ過ぎたり、逆にかすれたりすることはあった。なぜか、イマイチになるのはよい子の証書ばかりで、保護者呼び出しの騒ぎを起こすような生徒の証書は上手くいく。
不思議だ……。
最後に、卒業生番号の上に、卒業生台帳を合わせて割印を押す。

これは押印機を使わず手作業となる。慎重に押していたはずなのだが、放送が入ったことで集中力が切れたのか、気がつくと押す場所を間違えていた。
「キャー!!、幸田の失敗しちゃった~!!」
私は思わず叫んだ。幸田は体育祭で団長を務めた女子で、明るく元気な生徒である。居合わせた先生方も、渋い顔をして言った。
「これは、別の用紙を使って、筆耕からやり直してもらいましょう」
ついに、お直し第一号だ。
しかし、以後は気合いを入れ直したせいか、これ1枚ですんだからよかった……。
作業が終わると、2日分くらいの疲労が襲ってきた。
家に帰り、自分の卒業証書を出してみた。小中高、大学と4枚揃え、印の状態を確認する。
もしかして、かすれていたり、にじんでいたりしてっ♪
よい子の証拠を探そうと、目をランランと輝かせて見たのだが……。
そこに押されていたのは、何の変哲もない普通の判子に過ぎなかった。
さて、あなたの卒業証書はどうですか?

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※姉妹ブログ 「いとをかし」 へは、こちらからどうぞ^^(3/8更新)
いよいよ、今週は卒業式だ。卒業生を送り出すのは2回目である。産休や度重なる異動のため、19年というキャリアの割には少ない。
卒業式になくてはならないものが卒業証書だ。勤務校では、証書の準備を学年団ですることになっている。
まずは、証書の取り寄せから始める。日本籍の生徒には和暦表示の用紙となるが、外国籍の生徒は希望すれば西暦表示の用紙をもらうことができる。
次に、氏名・生年月日・卒業日・卒業生番号の筆耕を依頼する。料金は1枚400円未満が相場らしい。こちらでは、業者ではなく書道の先生に依頼しているので、書き直しもスムーズだ。
そして、名入りの証書が上がってきたら、押印作業を行う。これがなかなか骨である。
最初に氏名の上に「飾り印」を押す。これはなくても問題ないが、あったほうが見栄えがする。

この作業は「押印機」という古めかしい機械を使って行う。法人で使うようなハイテクなものではなく、アームに判子をセットして、印の位置が固定し力が均等にかかることようにするだけの単純な機械である。
しかし、使いこなすには意外に時間がかかる。1組の1番、荒井の証書は、左上の陰影が薄くなってしまった。すでに筆耕ずみなので、多少の失敗は勘弁してもらうことになる。
「あーあ、荒井、ごめんね……」
私は、穏やかで物静かな女生徒、荒井の顔を思い浮かべてお詫びをした。
朱肉のつきが甘かったのだろう。次は左上にもインクが行き渡るように、慎重にアームを動かした。2番、伊東の印を押す。
「ああ、今度はキレイじゃないですか!」
一緒に作業をしていた先生からほめられた。今度は陰影もくっきり写り、合格点である。
しかし、伊東は3年間で300回以上遅刻をした、遅刻大王である。気持ちとしては、荒井の証書のほうをキレイに押してやりたかったのだが……。
3番、稲川。今度はインクをつけすぎたようで、陰影にムラがでてしまった。
稲川は成績優秀で、気持ちのやさしい子だ。なかなか上手くできず申し訳なくなった。。
4番、植松。さっきはアームを押す力が強すぎたのかもしれない。インクはたっぷり、力は控えめでやってみた。
「ああ~、印刷されたみたいに完璧です!!」
これは会心のできだった。が、植松は、授業中の私語が激しく、服装違反で毎日注意を受けている女子生徒だ。
これも運とはいえ、「どうせ失敗するなら植松のほうを……」と考えてしまうのは人情であろう。
幸い、5番目からは軌道に乗り、問題なく押印をすませた。
二つ目の校長印にうつる。

これは比較的スムーズにできた。が、ときどきインクをつけ過ぎたり、逆にかすれたりすることはあった。なぜか、イマイチになるのはよい子の証書ばかりで、保護者呼び出しの騒ぎを起こすような生徒の証書は上手くいく。
不思議だ……。
最後に、卒業生番号の上に、卒業生台帳を合わせて割印を押す。

これは押印機を使わず手作業となる。慎重に押していたはずなのだが、放送が入ったことで集中力が切れたのか、気がつくと押す場所を間違えていた。
「キャー!!、幸田の失敗しちゃった~!!」
私は思わず叫んだ。幸田は体育祭で団長を務めた女子で、明るく元気な生徒である。居合わせた先生方も、渋い顔をして言った。
「これは、別の用紙を使って、筆耕からやり直してもらいましょう」
ついに、お直し第一号だ。
しかし、以後は気合いを入れ直したせいか、これ1枚ですんだからよかった……。
作業が終わると、2日分くらいの疲労が襲ってきた。
家に帰り、自分の卒業証書を出してみた。小中高、大学と4枚揃え、印の状態を確認する。
もしかして、かすれていたり、にじんでいたりしてっ♪
よい子の証拠を探そうと、目をランランと輝かせて見たのだが……。
そこに押されていたのは、何の変哲もない普通の判子に過ぎなかった。
さて、あなたの卒業証書はどうですか?

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