これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

映画デート

2009年06月18日 20時10分36秒 | エッセイ
※ このエッセイには、映画『スラムドッグ$ミリオネア』の内容の一部が含まれていますので、あらかじめご了承ください。

 はじめて男の子と観に行った映画は、『悪魔のいけにえ2』だった。
 その子は友達のサークル仲間だったのだが、飲みに行ったときに仲良くなり、「怖い映画を観に行こう」と誘われたのだ。しかし、チェーンソーを振り回すだけで、映画自体にストーリー性がなく、つまらなかった。そして、その子も、気の利いたジョークが言えるタイプではなく退屈だったから、長続きしなかった。

 次につき合った男の子からは、「『トップガン』を観に行こう」と言われた。渋谷の、2階席まである大きな映画館だった。トム・クルーズも、F-14トムキャットもカッコよくて、サントラ盤を買うほど気に入った。
 映画の好きな男性はいい。
 その元彼とは、実に数十本もの作品を一緒に観た。『アンタッチャブル』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』といった超メジャー級はもちろんのこと、『AKIRA』『源氏物語』といったアニメーションや、『プラトーン』『サルバドル』などの社会派に、豪華キャストの割には興行成績が伸び悩んだ『夜霧のマンハッタン』『ミッドナイト・ラン』、加えて『薔薇の名前』『最後の誘惑』などのマニアックな作品まで、気になる映画を次から次へと制覇した。
 とりわけ、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』が元彼のお気に入りで、私は発音をよく注意されたものだ。
「ワンサポン ア ターイミンナメリカ、だよ」
 あの、ゴミ収集車が通り過ぎる、衝撃のラストは忘れられない……。
 会えばケンカばかりしていた元彼と、3年以上もの間続いた理由は、映画という共通の趣味があったからだろう。
 自宅には、あの頃買い集めたプログラムが、まだドッサリ残っている。

 つい先日、土曜出勤の振替休業日で月曜日が休みだったので、夫を誘って久々に映画とランチに出掛けた。子供が学校に行っている間でないと、デートはできないから、またとないチャンスだったのだ。
 夫は映画オンチで、もう何十年も観ていないらしい。

 何にしようかな……。

 夫が好きそうなものを選ぶべきだったのかもしれないが、私には観たい映画があった。友人が日記で絶賛していた、アカデミー賞8部門受賞作品『スラムドッグ$ミリオネア』である。ろくに公式サイトも見ず、独断と偏見で決定した。
 平日の午前中だからか、映画館はガラガラだった。予告が終わり、ようやく本編がスタートした。が、スクリーンには何やら不穏な空気が漂っている……。
 いきなり、ビシッ、バシッ、という激しい音とともに、主人公の男性が警官に殴られた。「吐け!」と責め立てられ、水を張ったバケツに顔を突っ込まれ、苦しみもがいているではないか……。
 オヤオヤと思っていたら、天井から吊されてつま先に電流を流された。

 ちょっとちょっと、私たち、久しぶりのデートなんだから、拷問なんてやめてくれないかしら……。

 しかし、私の願いは届くどころか、ますますひどくなっていく。
 主人公の少年時代の回想シーンでは、蝿がブンブン飛び交い、不潔でゴミだらけのスラム街が舞台である。まだ5歳くらいの主人公が肥溜めにダイビングし、頭のてっぺんからつま先まで汚物まみれになって、スターにサインをもらう場面があった……。

 オエーーッ!!

 母親が撲殺されて川に浮かんでいたり、「盲目の歌手は倍稼げる」という理由で、歌の上手な子供が目をつぶされたりと、正視に堪えない場面の連続であった。
 
 あああ、デートなのにいいい~~!!!

 私はどっぷりと後悔にひたった。
 そんな環境でも決して自分を見失わず、信念に従って実直に生きる主人公が、最後には幸福をつかみハッピーエンドで終わる。わかりやすくて骨のある映画だったが、デートには向かないと感じた。

 もし、私たち夫婦が離婚したら、「また映画のチョイスを間違えたんだ」と思っていただきたい。



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コメント (22)
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