テナーサックスは木管楽器に分類される。管自体は金属製だが、マウスピースにつけられた「リード」という木のへらのようなものを振動させて音を出すからだ。
この「リード」は消耗品で、ちょくちょく新しいものと交換しなければならない。
中一の娘が吹奏楽部に入り、テナーサックスを練習しているものだから、一緒に楽器屋さんまで買いに行ったことがある。
昨日は土曜日だったが、授業公開のため出勤した。夫も出掛けてしまい、ひとり残った娘に朝食と昼食を用意し、ラップをかけて置いてきた。試験前のため部活はない。一日勉強するだろう。
夕方、自宅から携帯に着信があった。
「あ、お母さん? ミキだけど、今までずっと勉強していて、気分転換にテナーサックス吹こうとしたら、リードが1個しかないの。悪いけど買ってきてくれる?」
「ええーっ、箱があればこれと同じのくださいって言えるけど、わかんないからヤダよ」
「大丈夫だよ。バンドレンのテナー用の3番って言えばいいの」
「バンドレン、テナー、3?」
「そう。バンドレン、テナー、3だからね! よろしく」
バンドレンというフランスの会社が販売しているリードは、種類が多くて、素人の私にはよくわからない。でも、一度行ったことがあるから置いてある場所は知ってるし、外箱も何となくわかる。とりあえず、楽器屋さんに寄ってみた。
バントレン、テナー、3……。
土曜日だからか、やたらと客が多くて店員が見つからない。ひとまず、バンドレンのリードが陳列されている場所に行き、番号を確認した。2と1/2、3と1/2といった番号の間に、お目当ての『3』が並んでいた。手に取ってみると、たしかにこんな感じの箱だった気がする。1949円という値札の上部に『テナー』という文字が書かれていた。
よし、これで間違いない!
店員に聞かなくたって大丈夫だ、と私は自信を持った。
リードは1箱5個入りなのだが、すぐになくなってしまう。なくなればまた買ってきてと頼まれそうだから、ありったけの在庫を買おうと思った。
3番と書かれたものは4箱あった。しかし、よく見ると、一番後ろの箱は値段が違う。『バリトン』という文字が書かれているところを見ると、バリトンサックス用の3番なのだろう。危ない、危ない。
『テナー』という文字を確認し、3箱をレジに持っていった。
「ミキ、買ってきたよ」
「わあい、ありがとう!!」
娘のミキは大喜びで袋を開け、中身を確認していた。しかし、だんだん静かになり、意を決したように大きく息を吸い込み、私に話しかけてきた。
「……お母さん、これさ、ZZってやつで、違う種類のリードだよ……」
信じられなかった。
「え? だって、バンドレン、テナー、3て書いてあるじゃない。どこが違うのよ」
「箱見てよ。絵も色も違うでしょ」
本当だ……。私が買ってきた箱は黒だが、使い掛けの箱は紺だ。
「じゃあ、返品しなきゃ」
「でもさ、もう開けちゃった……」
「1箱だけでしょ。2箱は返品すればいいよ」
「ううん、3箱全部開けちゃった……」
私は言葉を失った。何で、全部の箱を開ける必要があるのか、まったく理解に苦しむ。
「じゃあ、それ使いなさいよ!! だからイヤだって言ったのに!!」
無性に腹が立ち、その日は赤ワインを無茶飲みして寝てしまった。
翌日、ミキはZZのリードを試そうとしていた。
「サイズは合うの?」
「うん。大きさは大丈夫。でも、ちょっと薄い」
マウスピースに取り付け、口を当てて吹き始めると、いつもより音が滑らかだ。私の気のせいだろうか?
「ねえ、何か上手く聞こえるけど、どう?」
ミキは満面の笑みで明るく答えた。
「このリード、いいよ! 高音が楽に出る!!」
怪我の功名というやつか。しばらく、ミキは練習し続けていた。
「これからずっとZZにするの?」
私が聞くと、ミキは言いにくそうに答えた。
「でもさ、これ、高音が出やすいかわりに、低音が出にくい……」
どっちだよ!!
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この「リード」は消耗品で、ちょくちょく新しいものと交換しなければならない。
中一の娘が吹奏楽部に入り、テナーサックスを練習しているものだから、一緒に楽器屋さんまで買いに行ったことがある。
昨日は土曜日だったが、授業公開のため出勤した。夫も出掛けてしまい、ひとり残った娘に朝食と昼食を用意し、ラップをかけて置いてきた。試験前のため部活はない。一日勉強するだろう。
夕方、自宅から携帯に着信があった。
「あ、お母さん? ミキだけど、今までずっと勉強していて、気分転換にテナーサックス吹こうとしたら、リードが1個しかないの。悪いけど買ってきてくれる?」
「ええーっ、箱があればこれと同じのくださいって言えるけど、わかんないからヤダよ」
「大丈夫だよ。バンドレンのテナー用の3番って言えばいいの」
「バンドレン、テナー、3?」
「そう。バンドレン、テナー、3だからね! よろしく」
バンドレンというフランスの会社が販売しているリードは、種類が多くて、素人の私にはよくわからない。でも、一度行ったことがあるから置いてある場所は知ってるし、外箱も何となくわかる。とりあえず、楽器屋さんに寄ってみた。
バントレン、テナー、3……。
土曜日だからか、やたらと客が多くて店員が見つからない。ひとまず、バンドレンのリードが陳列されている場所に行き、番号を確認した。2と1/2、3と1/2といった番号の間に、お目当ての『3』が並んでいた。手に取ってみると、たしかにこんな感じの箱だった気がする。1949円という値札の上部に『テナー』という文字が書かれていた。
よし、これで間違いない!
店員に聞かなくたって大丈夫だ、と私は自信を持った。
リードは1箱5個入りなのだが、すぐになくなってしまう。なくなればまた買ってきてと頼まれそうだから、ありったけの在庫を買おうと思った。
3番と書かれたものは4箱あった。しかし、よく見ると、一番後ろの箱は値段が違う。『バリトン』という文字が書かれているところを見ると、バリトンサックス用の3番なのだろう。危ない、危ない。
『テナー』という文字を確認し、3箱をレジに持っていった。
「ミキ、買ってきたよ」
「わあい、ありがとう!!」
娘のミキは大喜びで袋を開け、中身を確認していた。しかし、だんだん静かになり、意を決したように大きく息を吸い込み、私に話しかけてきた。
「……お母さん、これさ、ZZってやつで、違う種類のリードだよ……」
信じられなかった。
「え? だって、バンドレン、テナー、3て書いてあるじゃない。どこが違うのよ」
「箱見てよ。絵も色も違うでしょ」
本当だ……。私が買ってきた箱は黒だが、使い掛けの箱は紺だ。
「じゃあ、返品しなきゃ」
「でもさ、もう開けちゃった……」
「1箱だけでしょ。2箱は返品すればいいよ」
「ううん、3箱全部開けちゃった……」
私は言葉を失った。何で、全部の箱を開ける必要があるのか、まったく理解に苦しむ。
「じゃあ、それ使いなさいよ!! だからイヤだって言ったのに!!」
無性に腹が立ち、その日は赤ワインを無茶飲みして寝てしまった。
翌日、ミキはZZのリードを試そうとしていた。
「サイズは合うの?」
「うん。大きさは大丈夫。でも、ちょっと薄い」
マウスピースに取り付け、口を当てて吹き始めると、いつもより音が滑らかだ。私の気のせいだろうか?
「ねえ、何か上手く聞こえるけど、どう?」
ミキは満面の笑みで明るく答えた。
「このリード、いいよ! 高音が楽に出る!!」
怪我の功名というやつか。しばらく、ミキは練習し続けていた。
「これからずっとZZにするの?」
私が聞くと、ミキは言いにくそうに答えた。
「でもさ、これ、高音が出やすいかわりに、低音が出にくい……」
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