先日、職員室で、見知らぬ男子生徒から話しかけられた。
「朝、来るときに自転車で転んじゃって、足をすりむいちゃったんです」
彼はスラックスの裾をまくり、血の滲んだ痛々しい傷跡を見せた。
「あら、かわいそうに。保健室には行ったの?」
私の反応に、彼は難しい顔で答えた。
「え? 先生は保健室の先生じゃないんですか?」
ああ、まただ。
私は職場で白衣を着ているので、ときどき養護教諭に間違われる。廊下ですれ違いざまに、「先生、頭が痛いので薬をください」と言われたこともある。すがるような目で、ツラい症状を訴えられても、どうしようもない。
ましてや怪我の手当なぞ、かなりの苦手分野に入るので、逃げるようにしてその場から離れた。
生徒にとっては、「保健室の先生じゃないのに白衣なんか着てるから、だまされた~」となるのだろうが、白衣を着ている先生は結構多い。理科や家庭科はともかく、国語や数学、社会など、教科を問わず白衣は愛されている。服が汚れないですむし、毎日おしゃれしなくてもいいから楽なのだ。
きっと、私と同じように、養護教諭に間違われた先生もいると思う。
作業着屋さんに行くと、淡い水色やピンク色の白衣もあり、どれにしようか迷う。
「私の白衣はピンクだから、桃衣っていうべきかしらね」
そんなことを言った、昔の同僚が浮かんできた。
一度、お店で看護婦用の白衣を出されたことがあり、度肝を抜かれた。コスプレではないから、そんなものを着るわけにはいかないが、はたから見ると、私は医療系に見えるのかもしれない。
「養護の先生が休みだと、僕のところに来る生徒がいるんだよね」
水色の白衣をまとったかつての同僚も、保健室がわりにされたことがあると笑った。「お腹が痛い」だの「指を切った」だのと、生徒が駆け込んでくるらしい。
彼の教科と専門から、私は大いに納得して答えた。
「わかった、生き物なら何でもわかると思われているんですね!」
「そう、僕、生物教えてるから!!」
白衣も衣替えの時期だ。長袖をしまって、半袖に替える。
さて、今年も暑くなりそうだ……。
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「朝、来るときに自転車で転んじゃって、足をすりむいちゃったんです」
彼はスラックスの裾をまくり、血の滲んだ痛々しい傷跡を見せた。
「あら、かわいそうに。保健室には行ったの?」
私の反応に、彼は難しい顔で答えた。
「え? 先生は保健室の先生じゃないんですか?」
ああ、まただ。
私は職場で白衣を着ているので、ときどき養護教諭に間違われる。廊下ですれ違いざまに、「先生、頭が痛いので薬をください」と言われたこともある。すがるような目で、ツラい症状を訴えられても、どうしようもない。
ましてや怪我の手当なぞ、かなりの苦手分野に入るので、逃げるようにしてその場から離れた。
生徒にとっては、「保健室の先生じゃないのに白衣なんか着てるから、だまされた~」となるのだろうが、白衣を着ている先生は結構多い。理科や家庭科はともかく、国語や数学、社会など、教科を問わず白衣は愛されている。服が汚れないですむし、毎日おしゃれしなくてもいいから楽なのだ。
きっと、私と同じように、養護教諭に間違われた先生もいると思う。
作業着屋さんに行くと、淡い水色やピンク色の白衣もあり、どれにしようか迷う。
「私の白衣はピンクだから、桃衣っていうべきかしらね」
そんなことを言った、昔の同僚が浮かんできた。
一度、お店で看護婦用の白衣を出されたことがあり、度肝を抜かれた。コスプレではないから、そんなものを着るわけにはいかないが、はたから見ると、私は医療系に見えるのかもしれない。
「養護の先生が休みだと、僕のところに来る生徒がいるんだよね」
水色の白衣をまとったかつての同僚も、保健室がわりにされたことがあると笑った。「お腹が痛い」だの「指を切った」だのと、生徒が駆け込んでくるらしい。
彼の教科と専門から、私は大いに納得して答えた。
「わかった、生き物なら何でもわかると思われているんですね!」
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