これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

貧乏性

2010年12月02日 20時18分40秒 | エッセイ
 先月、那須の両親にお歳暮を注文した。
 配達は12月に入ってからとなる。

 私の母は、ものをもらっても、すぐに使ったためしがない。
 戦後の、物資の乏しい時代に育ったせいだろうか、いわゆる「貧乏性」だ。
 母がまだ40代だったとき、娘3人でおこづかいを出し合い、誕生日に真っ白なブラウスをプレゼントしたことがある。襟にレースがあしらわれていて、結構なお値段だった。Mサイズは着られないだろうから、Lサイズを選ぶことも心得ていた。
「お母さん、きっと喜ぶよね」
 センスのよい姉が、自信たっぷりに相づちを求めてくる。光沢のある生地でできたそのブラウスは、垢抜けた輝きを放ち、たいそう上品そうに見えた。
「絶対、喜ぶよ」
 私もそう断言した。

「あら~、こんなにきれいなブラウスもらっちゃって悪いね。高かっただろうに」
 予想通り、母は少女のようにはしゃぎ、期待以上のプレゼントに嬉しさを表した。娘3人も、母の反応に満足したのだが、それから先が問題だった。
 まもなく、父の会社の夕食会があったので、いよいよブラウスの出番かと胸が膨らんだ。だが、母は野暮ったい別の服を着ている。友達とのお出かけにも、授業参観にも、全然袖を通さない。ブラウスは真っ白なまま、札をぶら下げて、タンスの中で眠っているばかりだ。
 私は業を煮やし、母に問いただした。
「お母さん、私たちがあげたブラウス、どうして着てくれないの? 本当は、気に入らなかったの?」
 母は、私の剣幕に気圧されたようで、うつむきながら、つっかえつっかえ返事をした。
「ちがう……ちがうよ。もったいなくて、着られないんだよ……」
 あぜんとした。
 汚れたり破れたりすることを恐れ、母はお気に入りのものほど、大事に大事にしまっておく傾向がある。その後、勇気を出して何回かは着たようだが、おそらく、あのブラウスは今でもタンスの中にしまわれ、箱入り娘のような扱いを受けているのだろう。
 まったく、贈り甲斐のない人だ。
 デブになったら着られなくなるのに……。
 
 高級な食べ物の場合も、母は大事にしまっておき、カビを生やしたり腐らせたりする。
 何度も同じ失敗を繰り返す。
 お歳暮に、生鮮食品はやめようと決めた。
 無難にカセットコーヒーの詰め合わせにしたら、今日、「お歳暮が届いたよ、ありがとう」というメールが来た。私はすかさず釘を刺す。
「もったいないと言わずに、ちゃんと飲んでよ」
 黙っていれば、大事に取っておくばかりで、賞味期限が切れてしまうかもしれない。
 少ししてから、母が返信をよこした。
「早速お父さんと飲みました。とても美味しかったよ」
 やれやれ。
 しかし、安心するのはまだ早い。
 お年始に那須へ行ったら、減り具合を確認してみなくては。
 まったく、世話の焼けることだ。




楽しんでいただけましたか? クリックしてくださるとウレシイです♪

※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (12)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする