先月、那須の両親にお歳暮を注文した。
配達は12月に入ってからとなる。
私の母は、ものをもらっても、すぐに使ったためしがない。
戦後の、物資の乏しい時代に育ったせいだろうか、いわゆる「貧乏性」だ。
母がまだ40代だったとき、娘3人でおこづかいを出し合い、誕生日に真っ白なブラウスをプレゼントしたことがある。襟にレースがあしらわれていて、結構なお値段だった。Mサイズは着られないだろうから、Lサイズを選ぶことも心得ていた。
「お母さん、きっと喜ぶよね」
センスのよい姉が、自信たっぷりに相づちを求めてくる。光沢のある生地でできたそのブラウスは、垢抜けた輝きを放ち、たいそう上品そうに見えた。
「絶対、喜ぶよ」
私もそう断言した。
「あら~、こんなにきれいなブラウスもらっちゃって悪いね。高かっただろうに」
予想通り、母は少女のようにはしゃぎ、期待以上のプレゼントに嬉しさを表した。娘3人も、母の反応に満足したのだが、それから先が問題だった。
まもなく、父の会社の夕食会があったので、いよいよブラウスの出番かと胸が膨らんだ。だが、母は野暮ったい別の服を着ている。友達とのお出かけにも、授業参観にも、全然袖を通さない。ブラウスは真っ白なまま、札をぶら下げて、タンスの中で眠っているばかりだ。
私は業を煮やし、母に問いただした。
「お母さん、私たちがあげたブラウス、どうして着てくれないの? 本当は、気に入らなかったの?」
母は、私の剣幕に気圧されたようで、うつむきながら、つっかえつっかえ返事をした。
「ちがう……ちがうよ。もったいなくて、着られないんだよ……」
あぜんとした。
汚れたり破れたりすることを恐れ、母はお気に入りのものほど、大事に大事にしまっておく傾向がある。その後、勇気を出して何回かは着たようだが、おそらく、あのブラウスは今でもタンスの中にしまわれ、箱入り娘のような扱いを受けているのだろう。
まったく、贈り甲斐のない人だ。
デブになったら着られなくなるのに……。
高級な食べ物の場合も、母は大事にしまっておき、カビを生やしたり腐らせたりする。
何度も同じ失敗を繰り返す。
お歳暮に、生鮮食品はやめようと決めた。
無難にカセットコーヒーの詰め合わせにしたら、今日、「お歳暮が届いたよ、ありがとう」というメールが来た。私はすかさず釘を刺す。
「もったいないと言わずに、ちゃんと飲んでよ」
黙っていれば、大事に取っておくばかりで、賞味期限が切れてしまうかもしれない。
少ししてから、母が返信をよこした。
「早速お父さんと飲みました。とても美味しかったよ」
やれやれ。
しかし、安心するのはまだ早い。
お年始に那須へ行ったら、減り具合を確認してみなくては。
まったく、世話の焼けることだ。
楽しんでいただけましたか? クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
配達は12月に入ってからとなる。
私の母は、ものをもらっても、すぐに使ったためしがない。
戦後の、物資の乏しい時代に育ったせいだろうか、いわゆる「貧乏性」だ。
母がまだ40代だったとき、娘3人でおこづかいを出し合い、誕生日に真っ白なブラウスをプレゼントしたことがある。襟にレースがあしらわれていて、結構なお値段だった。Mサイズは着られないだろうから、Lサイズを選ぶことも心得ていた。
「お母さん、きっと喜ぶよね」
センスのよい姉が、自信たっぷりに相づちを求めてくる。光沢のある生地でできたそのブラウスは、垢抜けた輝きを放ち、たいそう上品そうに見えた。
「絶対、喜ぶよ」
私もそう断言した。
「あら~、こんなにきれいなブラウスもらっちゃって悪いね。高かっただろうに」
予想通り、母は少女のようにはしゃぎ、期待以上のプレゼントに嬉しさを表した。娘3人も、母の反応に満足したのだが、それから先が問題だった。
まもなく、父の会社の夕食会があったので、いよいよブラウスの出番かと胸が膨らんだ。だが、母は野暮ったい別の服を着ている。友達とのお出かけにも、授業参観にも、全然袖を通さない。ブラウスは真っ白なまま、札をぶら下げて、タンスの中で眠っているばかりだ。
私は業を煮やし、母に問いただした。
「お母さん、私たちがあげたブラウス、どうして着てくれないの? 本当は、気に入らなかったの?」
母は、私の剣幕に気圧されたようで、うつむきながら、つっかえつっかえ返事をした。
「ちがう……ちがうよ。もったいなくて、着られないんだよ……」
あぜんとした。
汚れたり破れたりすることを恐れ、母はお気に入りのものほど、大事に大事にしまっておく傾向がある。その後、勇気を出して何回かは着たようだが、おそらく、あのブラウスは今でもタンスの中にしまわれ、箱入り娘のような扱いを受けているのだろう。
まったく、贈り甲斐のない人だ。
デブになったら着られなくなるのに……。
高級な食べ物の場合も、母は大事にしまっておき、カビを生やしたり腐らせたりする。
何度も同じ失敗を繰り返す。
お歳暮に、生鮮食品はやめようと決めた。
無難にカセットコーヒーの詰め合わせにしたら、今日、「お歳暮が届いたよ、ありがとう」というメールが来た。私はすかさず釘を刺す。
「もったいないと言わずに、ちゃんと飲んでよ」
黙っていれば、大事に取っておくばかりで、賞味期限が切れてしまうかもしれない。
少ししてから、母が返信をよこした。
「早速お父さんと飲みました。とても美味しかったよ」
やれやれ。
しかし、安心するのはまだ早い。
お年始に那須へ行ったら、減り具合を確認してみなくては。
まったく、世話の焼けることだ。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)