ブレンダ・シュルツの超高層タワーリングサーブ その2

2013年12月05日 | テニス
 前回(→こちら)の続き。

 サービスが「超S」、パワー「A」。あとは、スピード、ストローク、ボレー、技術その軒並みが「E」という、あまりにも偏ったパラメータをもつオランダの女子テニス選手ブレンダ・シュルツ=マッカーシー。

 時速200キロ近いスーパーサービスだけを武器に、トップ10プレーヤーの仲間入りをした彼女だったが、そんなサーブだけという選手が本当に勝てるのかといえば、これが案外勝てるもので、そのことをものの見事に証明して見せたのが、1995年のUSオープン、対伊達公子戦であった。

 ブレンダと伊達がぶつかったのは4回戦。試合前の予想では、伊達が若干有利。この時期の伊達はテニスも充実しており、またUSオープンは何度も上位進出している相性のいい大会だったからだ。

 ところが、この試合のブレンダは調子がよかった。

 はっきりって、勝敗の行方に伊達の出来は関係ない。決め手となるのは「サービスが入るかどうか」だけであったが、この日は「当たり」の日だったようだ。

 女子の選手というのは、男子ほどサービスに頼れないぶん、逆にリターンの技術が高い。中でも伊達は「サービスゲームよりも、リターンゲームをキープするイメージ」というほどに自信を持っているが、その伊達をしてもラケットにさわれない高速サーブがバンバン飛んでくる。

 試合展開を実況すると、

 「パーン!」「15-0」
 「パーン!」「30-0」
 「パーン!」「40-0」
 「パーン!」「フォールト!」
 「パーン!」「フォールト!40-15」
 「パーン!」「ゲーム、シュルツ=マッカーシー」

 終始、こんな感じ。この間、伊達はレディポジションで棒立ち。あまりの速さに、他にすることがないのだ。

 エースかダブルフォルトだけ。ラリーなんてありようもない。なんて大味な。なんだか、三振かホームランかで鳴らした、元カープのランスみたいである。

 ビッグサーバーは、サービスの調子がよいと他のショットも気持ちよく打てるらしく、この日のブレンダはサーブ以外も冴えていた。

 もちろん、まともな打ち合いになったら伊達にはまるでかなわないのはわかっているから、リターンゲームでは後ろで待たず、どんどんネットに出てくる。

 ときには、なかば強引な体勢からもチップ&チャージをかけてくる。かなり荒っぽいやり方で、普通なら伊達レベルの選手には通じないところだが、とにかくサービスゲームに不安がないものだから、ゲームのひとつふたつは捨てるつもりで戦えるのが強みだ。

 パスやロブで抜かれようがとにかく、目をつぶってダッシュ。組み立ての苦手なブレンダには、こういう愚直なやり方があっていたのであろうか、試合は終始彼女のペースで進んだ。なんといっても、身長188センチのリーチの長さは、少々のボレーの稚拙さをおぎなうアドバンテージでもある。

 だがそこは伊達もさるもので、要所でブレンダのサービスゲームを破り、試合の方はフルセットにまでもつれこむ熱戦となったが、最後はサーブ力がものを言って、ブレンダが勝利。

 試合前、「とにかく、ファーストサーブが入らないでくれと祈ります」と、苦笑いしながら言っていた伊達の言葉が、冗談でもなんでもなかったことが理解できるような内容だった。

 サーブだけで勝っちゃった。いや、なんたること。女子でそんなことができるんですねえ。もう感心するやらあきれるやら。こりゃ脱帽するしかありません。

 のちに、「絶対にリターンできないスーパーサーブ」だけが武器の杉本宇宙という選手がウィンブルドンで大活躍する川上健一『宇宙のウィンブルドン』という小説を読んだが、まさに

 「これってブレンダのこと?」

 とページを繰りながら笑ってしまったものだ。

 男子ならともかく、女子ではこんな選手はまず現れるものではない。サーブだけの女子選手ブレンダ・シュルツ=マッカーシー。彼女を個性派といわずして、誰を個性派というのか。まさに空前にして絶後の選手といえよう。


 ※おまけ 1994年最終戦。対シュテフィ・グラフ戦は→こちら



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